
不動産バブルとも言うべき価格高騰を続けていた、東京23区のタワーマンションに一服感が訪れそうだ。ニッセイ基礎研究所によると、2024年における「タワーマンション価格指数」は前年比でプラス25%だった。
中国ではトランプ関税の影響で景気の減速感が鮮明になっており、政府は海外投資益に対する20%の課税を強化している。タワマンの買い支えをしてきた中国人をはじめとした海外投資家による手じまいで、タワマンバブル崩壊の足音も聞こえてくる。
タワマン指数は2005年比で3.1倍に
不動産経済研究所によると、2024年度の東京23区の新築分譲マンションの平均価格は1億1632万円であり、2年連続で1億円を突破している。こうしたマンション価格を押し上げているのは、タワマンの存在だ。
2025年以降に完成を予定しているタワマンは全国で270棟・9万7141戸で、その半数は東京23区内に集中している。23区は他の地域と比べて転入超過が圧倒的に多く、住宅への需要が力強い。おまけに土地そのものが広くないため、不動産の価値が下がりにくいという特徴がある。
2013年から日本銀行が導入した「異次元緩和」で住宅ローン金利が歴史的な水準まで下がる中、世帯年収1000万円以上のパワーカップルが増加したことで、お互いが会社に通いやすい好立地のタワマンに人気が集中した。
そして、円安によって日本の相対的な不動産価値が下がったことに目をつけた海外投資家が、価格高騰に拍車をかけたというわけだ。
ニッセイ基礎研究所の「タワーマンション価格指数」は、2005年から2024年までの販売データをもとに2005年の価格指数を100として算出している。2024年の23区内の指数は実に3.1倍となる「312.4」だ。2024年のタワマン指数は前年比で25%も上昇しているが、これは23区のタワマン以外も含めた「新築マンション価格指数」の上昇率13%を大きく上回っている。
しかし、好調だったマンション価格に異変が訪れた。
不動産経済研究所によると、2024年4月の23区内における新築マンションの平均価格は9000万円で、前年同月比より7.0%下落した。これまで2年連続で1億円を超えていたが、4月はついに大台を割り込んだ形だ。
さらにニッセイ基礎研究所が発表した23区の「エリア別価格指数」においては、千代田区や中央区、港区などの都心部は好調なものの、豊島区や練馬区などの北部、江戸川区や江東区などの東部は2024年下期に下落に転じる結果となったという。
湾岸エリアの3割は海外投資家所有だが…
タワマンは「実需」と「投資」の2つの需要の受け皿になっている。
富裕層やパワーカップルなどが快適な居住を求めて購入する一方、投資家が賃貸や将来の値上がり益に期待して一時的に取得している。近年では、円安によって日本の不動産価格が相対的に下がり、海外の投資家が購入するケースが増えた。マンションリサーチ社の調査によると、東京湾岸エリアのタワマンの3割は外国人の所有だったという。
特に目立ったのが中国人投資家の“爆買い”だ。中国の不動産市況が悪化し、価格が安定的に推移する日本の不動産に目をつけたと言われている。圧倒的な資金力を武器に都市部の良好な不動産を買い漁り、日本での活動拠点としての利用や賃貸による運用を行なっているのだ。
しかし、その中国はトランプ関税の影響で景気が悪化した。2025年5月の企業の生産動向を示す「工業生産指数」は前月比で伸び率が0.3ポイント低下した。
そのうえ、輸出に支えられていた企業の生産活動が行き場を失うと、深刻な不景気に陥りかねないのだ。
おまけに中国政府は海外で得た所得に対する課税を強化している。2024年から超富裕層を対象とし、投資収益の20%に課税する方針を示した。現在では庶民にも監視の目を広げているという。中国政府が国内の景気悪化を懸念しているのは明らかで、課税の強化によって景気刺激策を推し進めようとしているのだろう。
投資家やビジネスマンが景気の停滞で手元資金の必要に迫られたところに、政府からは課税強化策を打ち出され、足元では円高がじわり進行するとなれば、今が日本の不動産投資から手を引く絶好のタイミングとなる。中国人投資家の買い支えがなくなれば、タワマンバブル崩壊も決して絵空事ではないのだ。
なぜ中国人オーナーは「家賃2.5倍」に引き上げたのか
そもそも、東京の不動産は価値が安定している一方で、家賃は他の国と比べて決して高いわけではない。投資妙味が薄いのだ。日本不動産研究所の「国際不動産価格賃料指数」によると、2025年4月の東京元麻布地区のハイエンドクラスマンションの賃料単価を100.0とした場合、ニューヨークは281.5、ロンドンは266.0だ。
一方で同じエリアの賃料水準は他国と比べて下回っている。
最近では、板橋区のあるマンションのオーナーが中国人にかわり、突如として家賃を2.5倍にすると住人に通告した問題が大炎上した。7万2500円だった家賃を19万円に値上げすると一方的に告げられたというが、投資家目線だと日本の賃料は安すぎると感じたに違いない。
この騒ぎはオーナーが賃料値上げを撤回することで収まったが、投資妙味がないと判断したのは間違いないだろう。同じように感じる中国人投資家も少なくないはずだ。
しかし、海外投資家だけではなく、タワマンバブルの崩壊でより痛い目を見るのは日本人も同じだ。
不動産・住宅情報サービスを展開するLIFULLの調査によれば、自宅用にタワマンを購入した人の45.9%がいずれ売却しようと思っていたという。購入者に永住志向は薄く、資産価値の上昇による利益獲得がタワマン取得の目的になりつつあるが、経済状況の悪化などで値崩れが起これば出口を失うことになる。
タワマンの供給量は今後さらに増加すると見られており、2026年の首都圏のタワマン竣工・計画戸数は1万9345戸の予定だ。この数は2007年に迎えたピーク時のものに近い。2007年以降は価格高騰によるマンション販売の低迷に、2008年のリーマンショックが重なり、供給計画の縮小が相次ぎ、タワマンバブルが崩壊した。
現在は当時とよく似た状況にあるように見える。
取材・文/不破聡 写真/photo AC