
東京都板橋区で中国系オーナーによって民泊転用方針が背景にあるとみられる家賃の3倍増通告が住民に行なわれたのに続き、今度は大阪市港区の賃貸マンションを舞台に「部屋を民泊にする」との理由で、2か月で部屋を明け渡せとの通知が、中国系とみられるマンション所有会社から住民に送られていることが分かった。傍若無人な要求に恐怖を感じ退去する住民が出る中、問題のマンションを巡っては不審な状況が浮かび上がってきた。
「まともな賃貸契約ではありえない…」
開催中の大阪・関西万博会場まで地下鉄で10分のエリアにある8階建てマンションの住民に、オーナーの商社X社(大阪市)を「通知人」とする通知が届いたのは4月末から5月初旬のことだ。
通知はX社が住民と賃貸借契約中にあると記しながら「しかしながら、」と話を切り出し、次のように続く。
〈本物件を全戸民泊使用とするため通知人(貸主)は貴殿(賃借人)に対し、2025年6月末日までに本物件の明け渡しを履行していただきたく、その準備をお願いする次第です。以上用件のみにて失礼いたします。〉
通知書には「差出人」としてマンションを管理する不動産仲介業者の大阪市内の店舗名と電話番号、メールアドレスが記されている。オーナーのX社は住所を記しているが、電話番号などの記載はない。
通知を受け取ったAさんは「一方的に2か月しかない期限を切って出ていけと求め、引っ越し先の紹介や費用負担に関することも何も書かれていません。びっくりしました」と話す。
賃貸借契約では住民の居住権は強力に保護されている。住居問題を扱う弁護士は「正当な理由があって解約が必要だと判断される場合のみ、貸主が解約申入れを借主に提出すれば申し入れの6か月後に契約が終了する、となっています」と解説する。
今後も賃貸契約を更新し住み続けるつもりだったAさんは突然の通知に動揺した。その後、友人に相談する中で居住者の権利を確認し、要求がどれほど理不尽なものであるかに気づいたが、また考え込んだという。
「まともな賃貸契約ではありえない、こんな要求をするのは普通じゃないです。
この決断の背景にはオーナーのX社が中国系とみられるという事情もあるという。
「住居の賃貸契約で貸主が強い力を持つ中国の感覚のままやっているので、オーナー会社はこれが問題のある行為だと思っていないんじゃないでしょうか。感覚が違うんです」(Aさん)
前述の通りマンションは万博会場に近いため、X社は万博客を当て込んで部屋を急ぎ民泊用に転用したいのだろうと関係者は推測する。
だが、民泊利用に絡み、明け渡し要求とは別の問題もこのマンションに起きていることが分かってきた。
2~8階の全部が「特区民泊」
実は問題のマンションは、Aさんを含む複数の住民が一般的な賃貸契約で入居した状況で、居住スペースの2~8階の全部が「特区民泊」として使用できる認可を受けている。
「特区民泊とは、安倍政権時代の2013年に制定された国家戦略特別区域法に基づき外国⼈観光客の宿泊施設不⾜解消のために定める国家戦略特区で営業する民泊です。2泊3⽇以上から貸し出しができ⼈数制限もありません。
この戦略特区に手を挙げた大阪市では、4⽉末時点で施設の認定数が6194か所あり、全国の施設数の95%を占めます。さらに大阪市の施設の4044か所は中国語で対応できることを売りにし、この多くは事業の責任者である“営業者”が中国系の人物や企業とみられています。
大阪市では違法な特区民泊が続出し、市は“撲滅チーム”をつくって対処に追われています。
今回の問題となっているマンションでも、行政が「営業者」の実態に不透明な点があるとみて調査に入っていることが分かってきた。
「一つのマンションの中に一般の賃貸契約の部屋と特区民泊の部屋が混在すること自体は問題ではありません。ただ、このマンションは特区民泊の認可を申請する際、大阪市内に拠点を置くY商事を営業者として登録しています。
しかし今回、民泊に使うので部屋を明け渡せと住民に求めてきたのは別のX社です。管理に責任を持つのは誰なのか、宿泊施設の監督を行なう大阪市保健所が調査に入っています。
もしマンション内の民泊の営業者がX社だと確認されれば、部屋は民泊としての使用が禁じられます。特区民泊の認可は継承ができないためY商事が取得した認可をX社は引き継げないからです。今後も民泊業をしたいのならX社が認可を新規に取得する必要があります」(大阪市関係者)
X社とY商事はどういう関係なのか。登記簿によればマンションは、2019年9月に中国系の投資会社Z社が新築し、2023年10月にX社に売却されている
「Z社がX社に売却する前に、Z社の“代理人”としてマンションの入居者募集や特区民泊の認定手続きを行なっていたのがY商事です」と大阪市内の不動産業者は証言する。
そこで集英社オンラインは、現在のマンションオーナーであるX社に入居者への明け渡し要求や特区民泊の管理状況について取材を試みた。
訪ねた会社で応対した社員は「社長でなければわからない」と答えたため、社長あてに質問状を送ったが回答はなかった。
Y商事に取材を試みると、ホームページに公開された番号の電話に出た男性が「この番号は以前Y商事が使っていたが2、3年前からは関係のない私たちが使っている。
そこで会社所在地を訪ねると、住宅街の一般住宅のポストに会社名が書かれていたが、インターフォンや呼びかけに反応はなかった。
特区民泊の運用に疑いを持った行政が調査に入る中で、一般居住者に一方的な明け渡し要求が行なわれたマンション。取材の中で、このマンションに絡む不審な問題がそれだけにとどまらないこともわかってきた。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班