
月に約400万円の利益を上げるTikTok『ずっと若くいたい』。メインで出演している白髪&上品なおばあちゃんは“演者”であり、その企画・撮影には強力なスタッフがついている。
老女をプロデュースする青年たち
上品な白髪おばあちゃんが、年金でホストクラブ、マッチングアプリで年齢詐称、カップルデート……。連投される尖ったTikTokアカウント『ずっと若くいたい』。昨秋に開設されたこのアカウントがバズりまくっている。
メインで出演するアキさん(76歳)は、実はエキストラ派遣会社に登録するセミプロ俳優。彼女と、このアカウントを運営しているのはTikTokコンテンツ制作会社・オープンリーチの若き頭脳たちだ。
TikTokとは対極ともいえそうなシニアに絞って、コンテンツを開設した理由を聞いた。
「僕たちは、そもそもTikTokコンテンツのトップを担う会社にいたんですが、昨年9月に独立したんです」
とは、オープンリーチの代表取締役社長の舟橋大貴さん。
「普段、企業の動画コンテンツをコンサルティングしていて、とにかく僕たちのことを、みんなに知ってもらいたかった。僕たちがバズを作り出せることを多くの人々に周知させたかったんですよね。
でも王道で勝負しにいくと、ライバルも多い。埋もれてしまうぐらいなら、ライバルの少ない土俵でやろうと思ったのがきっかけです」
シニアでTikTok。若い世代の利用が多いSNSなだけに奇を衒っているようにも思えるが…。
「これまでに見たことがない『何これ!?』というものだからこそ、スマホをスクロールさせる指を止めることができると思うんです。
これまでTikTokでシニアが登場するコンテンツは、家族愛やキュートさを打ち出したほっこりコンテンツばかりだった。おばあちゃんが“PR案件”ばかりをやるアカウントはなかったんです。
皆さんの中でのシニアのイメージを壊すような“違和感”。それを僕らが作って、数ある動画の中で目を止めてもらおうと考えたんです」
「恩返しがしたいですね」
PR案件とは、企業がインフルエンサーやクリエイターに自社商品を宣伝してもらうマーケティング手法。
依頼を受けてPR動画などを投稿すれば、報酬が発生する。『ずっと若くいたい』を改めて見直すと、ユニクロやネスレなど大手企業からのPR案件もある。ただそれぞれの動画は広告感以上に、アキさんの荒唐無稽な挑戦動画となっている点はさすがだ。
そんなアキさんの抜擢理由を尋ねると、
「最初、エキストラ派遣会社から何人分かの資料をいただいたんですが、アキさんの美貌がズバ抜けていたんですよ。全員一致で即、決定。
撮影でも、僕らが『こういうことをやりたいけど、NGなら言ってください』と確認するんですが、アキさんは『全然大丈夫。これのどこが恥ずかしいの?』と逆質問してくれるくらい。
さらに、オープンリーチのマーケティング責任者、藤原康太さんもこう続ける。
「先日、有名TikTokerとコラボしたんですが、アキさんはその方をご存知なく…(笑)。おかげで肩に力が入らない状態で撮影に臨めました。緊張していると普段通りの力って発揮できなかったりするじゃないですか?
僕達が緊張している時でも、アキさんは心穏やかでいつも通り。そういった部分で、人生の先輩の余裕を感じますし、助けられてます。
それにTikTokをやっている人はみんな“有名になりたい”“儲けたい”という気持ちがあるものですが、アキさんにはギラギラしたものが一切ない。見ている人にもそれが伝わるからこそ、爆発的人気コンテンツになったのかもしれないです」
今後、『ずっと若くいたい』はどんなビジョンを描いているのか?
「“初見”ってすごく強いんですが、やっぱり半年くらいで、見る人には慣れや飽きが出てくるんですよね。『おばあちゃんがこんなことをするのか!』という驚きから、『この人はこういうことをする人』という見方に変わる。だから、また新しい見せ方をしたいと思っています。
いつか『TikTok Awards Japan』のありとあらゆる部門にノミネートされたいですね」(舟橋大貴さん、以下同)
彼らとアキさんは頷きながら、挑み続けること、上を目指すことをやめない。さらに、それと同等クラスの願いがひとつあるという。
「お世話になっているアキさんへの恩返しがしたいですね。アキさんに『やりたいことはないですか?』って聞いても『特にないのよ』とおっしゃるんです。でも唯一、目の色を変えるのがビール(笑)。76歳なのに、1日に6缶飲むほど愛しているそうで。
制作と演者って関係だけど、僕たちがこうやって仕事ができているのは間違いなくアキさんのおかげ。アキさんが心からやりたいと思えるような案件を僕たちが引っ張ってくる。だって、美味しそうにビール飲んでるアキさんの顔見たいじゃないですか(笑)」
そう言って目を合わせて笑い合った若者と老女。彼らが生み出したものはバズや収益だけじゃない。単なるビジネスパートーナーとは言えないような心のつながりが間違いなくそこにはあった。
取材・文/池谷百合子 撮影/齋藤周造