大災害が起きたとき「在宅避難」が最も安全安心な選択肢になることも…そのときに最も優先すべきライフライン「トイレ」はどう準備しておくか?
大災害が起きたとき「在宅避難」が最も安全安心な選択肢になることも…そのときに最も優先すべきライフライン「トイレ」はどう準備しておくか?

災害時には近くの避難所へ行くのが当たり前になっているが、「在宅避難」が最も安全で安心な選択肢になることもある。その際に必要なのは、住環境の整備と、電気・水道・トイレなどライフラインの代替手段の確保だと、アナウンサーで防災士の奥村奈津美氏は指摘する。


在宅避難の現実を解説した『大切な家族を守る「おうち防災」』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全3回のうち2回目〉

自宅を最強の避難所にするために大切な2つ

自宅にとどまれる状況でしたら「在宅避難」がベストだと思っています。小さいお子さんのいる家庭では特にです。在宅避難するために、自宅を「最強の避難所」にできるよう準備しましょう。

そのためにできることは2つ。まずは自宅を安全な空間にしておくこと、そしてもう1つは、ライフラインが寸断されても生活できるようライフライン代替アイテムの備蓄をしておくことです。

命を守る家づくり
地震の場合は、余震でも、家具が倒れたり、物が落ちてケガをする恐れがあります。地震の揺れから命を守るだけでなく、その後の片づけの負担を減らし、さらには、在宅避難を可能にするためにも重要な対策です。

ライフライン代替アイテム
2つ目のライフライン代替アイテムについて考えてみましょう。ライフラインとは、電気・ガス・水道・通信など生活に欠かせないものです。大きな災害になるとライフラインは寸断されます。

阪神・淡路大震災以降に発生した地震災害で、復旧までの概ねの期間は停電が1週間程度。通信は2週間程度。

ガスは1~2カ月程度、上下水道は1カ月以上を要している、とあります(首都直下地震等の東京都の被害想定)。

これらの復旧するまでの期間、自宅で命をつなげるよう備えておく必要があります。

防災グッズの選び方
「防災グッズ、何を買ったらいいですか?」という質問を大変多くいただきます。これを買っておけば絶対大丈夫というものはありません。住んでいる地域や、ご家族の構成によっても、必要なものは変わってきます。

ですが、ライフラインが寸断されても命をつなげるように備えるものの優先順位があると思っています。その考え方をお伝えします。

そして、全ての方に共通して言えるのは、「フェーズフリー」普段使えるものが一番ということです。いざという時、使い慣れてないものは使えませんし、普段使わないと、倉庫や押入れの奥に入れ、どこにしまったのか分からなくなってしまいます。日常生活が防災対策につながっているのが理想的と考えています。

最重要アイテムはトイレ!

トイレの備蓄が必要な理由
ライフライン代替アイテムで、私が最重要アイテムと考えているのが、「トイレ」です。トイレは命に直結した問題です。

東日本大震災の時、7割近くの人が6時間以内にトイレに行きたくなったということです(日本トイレ研究所調べ)。



災害が起きて、しばらくは飲んだり食べたりしなくても過ごせると思いますが、トイレには行きたくなります。また、トイレを我慢するようになると、飲んだり食べたりすることも控えるようになり、体調の悪化にもつながります。

「災害時、トイレは流さない」と、覚えておいてください。地震では、マンションの場合、揺れで配管が壊れていたら、下の階の人が水漏れの被害を受けてしまいます。低層階の方も、うまく流れず、逆流してしまうという恐れもあります。

また水害においては、豪雨で川が溢れそうな状況では、排水機能も限界の状態。被害を拡大しないためにもトイレを流すことは控えたほうが良いのです。

以前はお風呂の水などを使って勢いよく流す、といった方法も紹介されていましたが、上下水道、配管が復旧するまでは、オススメできません。

自宅でもトイレを備蓄する理由
家のトイレが流せない場合、あなたならどうしますか? 最寄りに設置される仮設トイレを使うと考える方もいると思います。東日本大震災では避難所に仮設トイレが届くまで、1週間以上かかった自治体が半数ほどだったそうです(日本トイレ研究所調べ)。

また、夜間や雨の中、トイレのたびに仮設トイレに向かうのはかなりのストレスです。犯罪のリスクもあります。
少なくとも1週間分くらいは、自宅に水を使わないトイレを用意しておいたほうが良いです。

大人では、1日平均5回くらいトイレに行くと言われているので、1日の回数×1週間分×家族の人数分、必要です。

水で流さないトイレの使い方
簡易トイレ、非常用トイレをご存知ですか? 袋の中に用を足すものです。便袋と凝固剤がセットになっているものが多く、直接便器にかぶせるものや、ダンボール箱に便座がついているものなど様々あります。

トイレの代替アイテム
市販の非常用トイレを1週間分用意しようとすると、大人2人でも100回分ほどとなります。使うか分からないものをそんなに買いたくないと思われる方は、普段使っているもので代用することもできます。

①トイレに被せるもの、②液体を吸収するもの、③臭いを出さないようにするもの。この3点があればいいのです。

①トイレに被せるものとして、普段使っているゴミ袋、②凝固剤の代わりには、赤ちゃん用や介護用のオムツなどが活用できます。サイズアウトしたオムツは捨てずに取っておくと役立つ日が来るかもしれません。その他、ペットがいる家庭なら、ペット用のトイレシートや猫砂。新聞を購読している家庭なら新聞紙など。

ちなみに、凝固剤だけを購入することもでき、こちらのほうがリーズナブルです。

そして、③臭いを出さないようにするものとして、オムツ用の防臭袋を多めに買っておくと役立つでしょう。オススメは、医療用の排泄物を入れる防臭袋を開発したメーカーのものです。

災害の規模にもよりますが、ゴミ収集の再開までは時間がかかります。それまで自宅の敷地内、マンションなどでは、お風呂場など密閉された空間に保管しておきましょう。

文/奥村奈津美 写真/Shutterstock

大切な家族を守る「おうち防災」

奥村奈津美
大災害が起きたとき「在宅避難」が最も安全安心な選択肢になることも…そのときに最も優先すべきライフライン「トイレ」はどう準備しておくか?
大切な家族を守る「おうち防災」
2025/6/101,650円(税込)272ページISBN: 978-4777832453

大切な家族を守る「おうち防災」

この本は大切な家族を守るためにおうちでできることをまとめた「おうち防災」の本です。

今、大きな災害が起きたら、あなたは家族の命を守れますか?
あなたの自宅は、大きな地震に耐えられる家でしょうか?
海の近くの方は津波の到達間に、家族とどう避難をしますか?
豪雨や台風の時、どのタイミングでどこに避難しますか?

あなたの知恵が家族の命の分かれ目。
災害が起きてからでは何もできないと認識し、今備える必要があるのです。

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