
リモートワークが普及したことなどで注目が集まっている海外移住。生活費が日本よりも安くて、満足な暮らしを送れるような“コスパのいい国”としては、タイやジョージアといった国が有名だ。はたして、住み心地はどうなのか。その真相について確かめるべく、海外移住者にリアルな事情を聞いてみた。
憧れの海外移住、“コスパのいい国”は本当にあるのか
老後は海外でゆったりと過ごしたい、世界中を旅しながら仕事をしたい……このような海外移住への憧れを抱いたことがある人も多いかもしれない。
コロナ禍を経てからは、リモートワークが普及し、場所や時間にとらわれずに働くスタイルを選択する「ノマドワーカー」と呼ばれる人たちも増えてきている。
昨今は円安の影響から、海外移住の金銭的なハードルも高くなってきていると感じるが、ネット上には、移住資金もそこまでかからず、生活費も日本より安く済むようなコスパのいい国が紹介されていることもある。
例えば、ロシアやトルコに隣接する国であるジョージアについて、Xでは以下のようなポストが。
≪あんまり働きたくないひとに教えてあげたいのですが、 ぼくが東欧のジョージアで住んでいる家は 家具付きネット光熱費込みで3万円。 2人用にひとりで住んでこの家賃です。 “その場にいなくていい仕事”で月5万円を稼ぐことが出来たら ヨーロッパに住めるし、肩の力を抜いて働くことができます≫(2025年6月23日現在、10万いいね)
あんまり働きたくないひとに教えてあげたいのですが、
— KOH|デジタルノマド (@KohNomad) October 29, 2019
ぼくが東欧のジョージアで住んでいる家は
家具付きネット光熱費込みで3万円。
2人用にひとりで住んでこの家賃です。
“その場にいなくていい仕事“で月5万円を稼ぐことが出来たら
ヨーロッパに住めるし、肩の力を抜いて働くことができます pic.twitter.com/VTEvGQVrsv
家具付き、光熱費込みで家賃3万円は破格ともいえるが、本当にこのような暮らしはできるのだろうか。
メロンは1個500円ほど、キュウリは1本10円で買える!
まずは、先ほどのポスト主である、現在ジョージアと日本を行き来する2拠点生活を送るKOHさんに話を聞いてみた。KOHさんは2019年の10月にジョージアでの生活をスタートしたという。
それから約4年半、実際にジョージアに住み続けたKOHさんの現在の暮らしぶりはどのようなものなのか。
「僕が住み始めた2019年当初と現在では為替も大きく変わったので、若干物価は高くなりましたが、日本の物価と比べたら安いことに変わりはありません。
話題になったポストの物件は現在だと5万円ほどになっています。ジョージアは基本的に2人以上で暮らすことを想定された物件が多いので、1人暮らしだとスペースが余るくらい十分な広さの家に住むことができます」(KOHさん)
KOHさんの1か月の生活費、そしてその内訳についても聞いてみた。
「近年は月20万円ほどで生活していて、そのなかで食費は1万5000円ほどです。ジョージアには日本の牛丼屋のような格安チェーン店はないので、外食するとしたら基本レストランでの食事になります。レストランでの1回の食事代は3000円からと、ほぼ日本と変わらないので、なるべく食費を抑えるために自炊をしていますね。
日本と比べて特に安いのが野菜です。メロンは1個500円ほど、キュウリは1本10円から20円ほどと、日本と比べると断然安いです。ジョージアは農業が伝統産業ということもあって、地元の新鮮な野菜がお得に食べられるんです」
“ノービザ”で1年間滞在可能! 3日あれば銀行口座も家も手に入る
そして、月の生活費は20万円だというKOHさんの最も多くを占めている出費が「飲み代」なんだとか。
「毎日飲み歩いていますね。ジョージアは飲み文化も発展していて、安く酒を提供する飲み屋さんがけっこう街中に充実しているんです。地元の人はホームパーティーを開いて自宅で造った酒を振る舞うことも多いですが、僕は飲み歩き派で、いろいろな飲み屋さんに毎日通っています」
日本だと居酒屋で毎日飲み歩けば痛い出費となるが、ジョージアでは気にせずに楽しめるという。自炊といった節約はしつつも、日々の贅沢ができるくらいには余裕のある生活を送れるようだ。
「あと、年に数回は国内旅行も楽しんでいます。ジョージアは山や海のある自然豊かな環境なので、冬ならスノーボード、夏なら海水浴などを楽しんでいます」
KOHさんによれば、日本にはショッピングモールやエンターテインメント施設といった娯楽はあるが、ジョージアにはそういった“お金のかかる娯楽”が少ないため、自然の中でお金を使わずに遊べることもまた魅力なんだとか。
そしてジョージア滞在における最大のメリットとして知られているのが、「ビザなしで1年間滞在可能」ということだ。
「僕はジョージアに滞在して1年に1度以上はどこか他の国で暮らしていることが多いので、滞在期間をまったく気にしなくて済んでいます。また、1年間ビザなしで滞在できることに加え、現地での就労もビザなしで可能です。
また銀行口座と家は3日もあればそろいますし、飲食店などの何かしらの事業を始めたいと思ったら、会社は1時間あれば立ち上げられます。とにかくジョージアは規制が緩いので、好奇心と刺激が欲しい人にとってはすぐに移住をかなえられる環境だと感じています」
10か国13都市を巡った夫婦が思う“海外移住で最もコスパがいい”場所
次に話を聞いたのは、これまで10か国13都市で“お試し移住”をしてきたという、「海外試住ナビ」 を運営しているやまさんと、YouTubeチャンネル『やなぎらいふ』 を運営するやなぎさん夫婦。
取材のちょうど数週間前にハンガリーのブダペストに移住し始めたばかりだというやなぎさんらだが、これまでの移住先について詳しく聞いてみた。
「まずこれまで移住した国と都市ですが、カンボジアのプノンペン、タイのバンコクとチェンマイ、トルコのイスタンブールとイズミル、ジョージアのクタイシとトビリシ、ベトナムのダナン、インドネシアのバリ、マレーシアのペナン島、モロッコのマラケシュ、ポーランドのワルシャワ、ハンガリーのブダペストになります。
移住先を決める際、最初はお互いの行ってみたいところを選んでいましたが、海外を転々としているうちに、SNSなどで私たちと同じように海外移住をしている方とつながる機会も多くなったので、最近ではそういった知人や、現地で知り合った方から情報を仕入れて暮らしやすそうな国に移住することもあります」
アジア圏からヨーロッパ圏まで、これまで数多くの国に移住してきたやなぎさんご夫婦。そんな2人が感じる“最もコスパがいい国”とはどこなのか。
「今のところ住みやすさで言うとタイのチェンマイがダントツ1位ですね。食費をはじめ、アクティビティ費など全体的な物価が安いですし、値段の割にクオリティも高くて感動しました。
例えば、本格的なマッサージは1回1000円ほど、ヨガやピラティスなどは日本だと4000円から5000円すると思いますが、その半額程度で体験できます。
1か月の2人合わせた生活費は約17万円で、家賃が約7万円、食費が約5万円で残りの5万円を交通費や生活用品の購入、交際費に充てていました。毎日外食したり、移動にタクシーを使ったりしても毎月1、2万円は余る感じで、特に我慢や節約をすることもなく、十分豊かな暮らしを送れました」
一方、物価がより高めなイメージのあるヨーロッパ圏での暮らしはどうなのだろうか。
「東南アジアなどに比べると物価はやはり高めですね。これまで移住してきたヨーロッパの国々は家賃だけで20万円を超える国がほとんどです。現在住んでいるハンガリーのブタペストも家賃は約20万円ですが、食材などは値段の割にいいものがそろっていて、全体的なコスパはいいなと感じています。
日本では高級食材として知られるフォアグラも、現地だと3000円ほどで食べられますよ。食費はタイのチェンマイと変わらず2人合わせてひと月5万円ほどで収まります。トラムや電車といった公共交通機関、そしてWi-Fiといったインフラ面も発達しているので暮らすうえでの不便も特になく、ヨーロッパ圏で移住をするならブタペストはおすすめです」
――憧れの海外移住は、思いのほかハードルが高いということはなく、国によっては日本よりも豊かな暮らしを送ることができる。ある程度の資金があれば、思い切って気になる国に移住してみるのもいいのではないだろうか。
取材・文/瑠璃光丸凪(A4studio)