
大阪市港区のマンション住民が中国系とみられる貸主企業から「部屋を民泊で使うので6月末までに明け渡せ」と一方的に通知された問題。通知の「差出人」となっている国内を代表する大手不動産仲介会社Bが取材に応じ、貸主に対しての明け渡し要求は「正当な事由が乏しいので反対を再三忠告した」と説明した。
通知の発送に関わったB社は“明け渡し請求”には問題があるとみていた
8階建てで2~8階に計21室があるマンションは、大阪市で激増している「特区民泊」と一般の賃貸契約により入居する住民の部屋が混在している。このうち住民が暮らす部屋に問題の通知が5月初旬ごろ次々届いた。
マンションオーナーの商社X社(大阪市)が「通知人」、マンションを管理する、テレビCMなどでおなじみの国内を代表する大手仲介会社B社の大阪市内の店舗が「差出人」とそれぞれ書かれた通知には、
〈本物件を全戸民泊使用とするため通知人(貸主)は貴殿(賃借人)に対し、2025年6月末日までに本物件の明け渡しを履行していただきたく、その準備をお願いする次第です。以上用件のみにて失礼いたします。〉
と書かれてあった。連絡先としてB社の大阪市内の店舗の電話番号とメールアドレスが記されていた。
だがこうした通告一つで住民に明け渡しの義務が生じることはない。
「契約期間中に貸主が契約終了を望んだ場合、正当な理由があって解約が必要だと判断され、かつ6か月前に借主に書面で申入れをした場合のみ認められます。通常賃貸契約書にはこの文言が必ず記載されているはずです。これよりも借主に不利な文言になっている場合は無効と扱われます」と大阪の不動産関係者は話す。
集英社オンラインはX社にこのような通知が妥当だと思うかどうかなどをたずねる質問状を送ったが返答はない。そこで「差出人」として通知の発送に関わったB社にも質問をしたところ、B社は明け渡し請求には問題があるとみていたと説明した。
〈賃貸借契約を締結している部屋についても特区民泊用に転換すべく短期間で借主様より明け渡しを受けたいとの貸主様意向がありました。
弊社からは、貸主様側からの明け渡し請求には正当事由が乏しいこと、期間が短いこと、などの理由から貸主様側に反対の旨を再三忠告しましたが、貸主様を説得しきれず、せめて、一方的な解除 通知・明け渡し請求ではなく、「お願い」の形とすることで折り合いをつけさせていただくことになりました。〉(B社説明)
また元の通知には明け渡しに伴い発生する引っ越しに関する費用負担なども一切書かれていなかったが、これについてB社は、
〈正当事由を補完する意味で立退料が必要になることも弊社から貸主様に説明させて頂き、貸主様にご理解いただいたと認識しております。〉
と記し、求めに応じ住民が明け渡した時には立退料を支払うことをX社が了承しているとも説明した。
だがこのことは通知を受けただけの住民には知らされておらず、取材で初めてX社が立退料支払いに応じる意向があることが明らかになった。
特区民泊のルール違反疑いに新たな証言
さらに、関係者によれば6月末の“期限”までに複数の住民がマンションを引き払うことを決めてしまったもようだ。前述の通り住民には通知に従う義務はないが「(通知の要求が)あまりにあり得ない内容で、怖くなったから」と住民の一人は話している。
問題があると認識する通知をなぜ出したのか。B社の説明は続く。
〈借主様への通知に関して特段の依頼を貸主様より受けた場合、管理契約に従い、弊社は対応せざるを得ないと考え、そのため、貸主様を説得し、せめて「お願い」の形とした内容で、 貸主様の依頼に基づき、弊社が送付等の事務を行いました。ただ、通知書面中弊社を「差出人」ではなく、「問い合わせ先」とした方がよりよかったものと思います。〉
不動産専門会社のB社も問題があったと認めた以上、X社は明け渡し要求を維持するのは困難だろうと関係者は話す。
いっぽう、マンションは21室のうち10戸に賃貸契約による住民が住み、残る11戸が「特区民泊」として使われてきたもようだ。
特区民泊は国家戦略特別区域法に基づき旅館業法の特例として営業が認められ、2泊3⽇以上から貸し出しができ、⼈数制限もないなど開業のハードルが低い。戦略特区となっている大阪市では4⽉末時点で6194施設が認定され、責任者である“営業者”が中国系の人物や企業である施設が多い。
今回舞台となったマンションは2019年9月に中国系の投資会社Z社が新築し、Z社の“代理”を名乗っていたY商事が大阪市から民泊の認可を得ている。その後、建物は2023年10月に中国系とみられるX社に売却され、同社が賃貸も民泊経営も主体となっているとみられる。
「しかし現在民泊の認可を受けているのはY商事とみられます。特区民泊の認可は引き継ぎができないため、現在X社が経営しているのなら認可を取り直す必要がありますが、それが行なわれていない可能性があります。
またマンションは全室が25平方メートル以上という特区民泊の広さ基準を満たしていない疑いもあり、大阪市保健所が調査に入っています。いずれの問題も違反が認められれば、営業は禁じられます」(大阪市関係者)
民泊経営が禁じられれば、オーナーは収入を少しでも維持するため賃貸契約の住民には出て行ってほしくないと考え、明け渡し要求を撤回することも考えられると関係者は指摘する。
さらに、特区民泊のルール違反に絡みマンションの関係者が新たな証言をした。
「特区民泊の事業者は苦情に対応する者の名前や連絡先を書いた標識を施設の出入口に掲示する責務がありますが、それが今ないんです。実は以前は標識がエントランスに貼られていました。
オーナーが替わった時期かもしれません。その時は標章がないことがルール違反だとは知らず、気にも留めなかったんです。
そのころから玄関に旅館風ののれんが掛けられたりして、民泊経営を重視し始めました。オーナーが替わったのに認可が取り直されていないのなら、標章がはがされたことと関係があるかもしれません」(関係者)
仲介会社も問題があると認めた明け渡し要求。住民の生活が平穏を取り戻すことはできるのか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班