〈コンビニ飽和時代〉頭打ちと言われる各社が見出す新たな活路「商圏の細分化」で生まれる新たなビジネスチャンスとは
〈コンビニ飽和時代〉頭打ちと言われる各社が見出す新たな活路「商圏の細分化」で生まれる新たなビジネスチャンスとは

生活に密着している業界だからこそ、その進化から目を離せない。多くの地域でライフラインとなっているコンビニエンスストア。

日本全国で約5万6千店あるコンビニは頭打ちといわれているが、本当にこれ以上に市場拡大の余地はないのだろうか。

 

『小売ビジネス』より一部抜粋・再構成してお届けする。

コンビニエンスストアの飽和

国内コンビニ市場は既に飽和したと言われています。その市場規模は12兆円、店舗数5万6千店ほど(経済産業省商業動態統計)とされていますが、近年は店舗数が減少に転じています。

市場規模は店舗数×店舗あたり売上に分解できるのですが、これまでも店舗のスペースが限られているコンビニは、店舗あたりの売上は微増といった感じで、店舗数を増やすことによって拡大してきましたが、今や店舗が全国に広く行き渡った感があり、出店余地がなくなった、と見られているのです。

コンビニは、フランチャイズ制度を基本として店舗展開をしていることも、その特徴のひとつと言えます。なぜかと言えば、24時間営業を基本として長時間営業を行うコンビニは労働基準法に基づいて雇用する従業員だけでは運営が難しいから、と言えます。

日本にコンビニができ始めた当初は、家族経営の食料品店、酒屋などを加盟店として勧誘し、早朝深夜帯対応、長時間労働の問題については、主として労働基準法の適用外であるオーナーが家族でやりくりすることを前提としていたようです。

少し前までコンビニ加盟店オーナーは夫婦での参加が条件であったというのも、こうした背景からでした。そんな労働条件の厳しいコンビニ加盟店経営ですが、市場が成長している時代は相応に収益も上がり、頑張れば報われる、といった実感もあり、本部と加盟店の関係はほぼ良好に推移していました。

しかし、2010年代後半ごろから、値引きに関するルール、24時間営業に関するルールなどを巡って一部加盟店とコンビニ本部が争議となる事案が頻発し、公正取引委員会による勧告が出るなど、関係が悪化した時期がありました。

その要因は様々ありましたが、要は加盟店経営環境が厳しくなったことが背景にあり、コンビニ市場が飽和に近づいていたため、従来通りの出店ペースを継続すると、既存店とのバッティングが生じて、加盟店の収益を損なうようになったことにありました。

社会的に大きな注目を浴びる問題となったことで、当初は従来の拡大政策を続けていたコンビニ各社も、加盟店対応、出店政策の転換をせざるを得ませんでした。

コンビニが見出す新たな活路は…

ただ、出店余地がなくなったからと言って、本当にコンビニはこれ以上伸びないのかと言えば、実はそうではありません。現在は、大手3社のシェアが8割以上という寡占化が進んだコンビニ業界ですが、少し前までは大手が中堅コンビニの統合競争をする大再編期でした。

大手はシェア確保が最優先課題であったため、一部を除いて単一の店舗形態で店舗数を増やす競争をしてきたと言えます。今よくみかける、いわゆる各社の標準店舗を増やしていく場所はなくなってきつつあるのですが、別の店舗形態を開発することによって、また新たな出店余地を生み出すことは可能だということです。

コンビニ各社がDXを活用した無人店舗の実験をしているといったニュースを時折見かけると思うのですが、こうした取り組みは単にコストダウンを目的としているだけではなく、損益分岐点を下げることにより、これまでは出店できなかった小さい商圏にも店を出すことができるようになるからです。

例えば、オフィスビルにはこれまでもビルインのコンビニが1階などに入っていたと思いますが、小商圏型店舗なら1フロアごとに出店することも可能になるのです。そうなれば、確実にビル全体での売上は拡大することができる、といったイメージで、損益分岐点を下げれば、事業所内、過疎地、高齢化団地などなど、様々な出店余地が生まれてくるのです。

商圏のスキマを埋めるこの取り組みは「商圏の細分化」と言われますが、これだけでも、コンビニ市場は飽和したというにはまだ早いことは、わかっていただけるかと思います。

文/中井彰人 中川朗

『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)

中井彰人 中川朗
〈コンビニ飽和時代〉頭打ちと言われる各社が見出す新たな活路「商圏の細分化」で生まれる新たなビジネスチャンスとは
『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
2025年4月25日1,848円(税込)216ページISBN: 978-4295410874

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生活に密着している業界だからこそ、その進化から目を離せない。

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