黒字化モデルが見えてきた? リアル回帰が起きる中での「オンライン食品販売」の現在地…未来を見据えたネットスーパーの挑戦
黒字化モデルが見えてきた? リアル回帰が起きる中での「オンライン食品販売」の現在地…未来を見据えたネットスーパーの挑戦

リアル店舗での買い物がしづらくなったコロナ禍に拡大した食品ECの展開はどのような着地を見せているのだろうか。今、ネットスーパーの世界で何が起きているのか、業界を代表する各社の戦いはいかに?

 

『小売ビジネス』より一部抜粋・再構成してお届けする。

まだ進化するネットスーパー

かなり長い間、「ネットスーパーは難しい、儲からない」と言われ続けてきました。しかし近年、黒字化する企業も現れています。損益を明らかにしない企業が多い中、大手食品スーパーの西友は、2024年8月のプレスリリースの中で「店舗型ネットスーパーは、現時点で全店で黒字化を達成」していると表明しました。ネットスーパーの世界では何が起きているのでしょうか。

実は、リアル店舗で買い物がしづらくなったコロナ禍は、食品ECが拡大する機会になりました。米国や中国のような非連続的な拡大とまではいきませんでしたが、巣ごもり消費は購買層に広がりをもたらしたのです。

まず、新たな利用者層として、高齢者がネットスーパーを利用し始めたのが大きな出来事でした。いや、あえて言うなら、「利用できるようになった」と思わせる興味深いお話を、あるスーパーで伺いました。

ステイ・ホームで家族と過ごす時間が長くなったことで、家族からスマホの使い方を教えてもらったり、遠く離れた都会に住む子どもたちと連絡を取るためにスマホを使えるようになったりした高齢が多くいたそうです。そうしてITリテラシーの課題を解決した高齢者が、食品ECの利用者としても現れたのでした。

では、メイン顧客である40代共働き世帯や若年層にとっては、何が利用上の課題だったのでしょうか?価格や送料にまつわるコスト、配送サービスの質は常に問題になりますが、実は、買い物をする上での基本的なことが1つあります。それは、“モノに対する信頼性”を獲得することでした。

とくに生鮮食品を選ぶ際には、ひとつひとつの商品を手に取ってみないとそれぞれの良し悪しがわかりません。

しかしネットではそれができません。ネットスーパーで送られてきた生鮮品が傷んでいたり、満足できない大きさだったりすると残念な気持ちになり、もう日常使いしたくなくなります。

ネットスーパーが目論む収益化のカギ

スーパー側にとっても、結局、「月に1、2回、重たい水とコメだけ送ってもらえばいいや」とお客さんに思われると大変です。粗利が低いものしか売れず、まして購買頻度が下がってしまうと、非効率で物流コスト割れしてしまいます。普段使いで、利益が出る総菜などもしっかり買ってもらえることが収益化のカギです。

この問題をクリアしたネットスーパーが取り組んだのは、まさに「信頼」の獲得であり、「ブランド」の確立でした。冒頭の西友は「品質と鮮度へのこだわり」を掲げていますが、こうした取り組みの中からユーザーの信頼を勝ち得たのではないでしょうか。

また近年では、イオンが2023年7月にサービスインしたネットスーパーGreen Beans(グリーンビーンズ)もReliability“安心”を掲げています。同社によると、農産品の鮮度保障のために、運営するイオンネクストは、産地から個別のお宅までエンドツーエンドで直接つなぐサプライチェーンを再構築したそうです。

とりわけ、ECを店頭販売の延長ではなく、新たな事業創造のチャンスとして位置付け、リアルではできなかった新しいことへの挑戦として、ネットスーパーをさらに進化させようとしています。

コロナを経て、ネットスーパーに取り組む食品スーパー企業はさらに増えてきています。背景には日本の社会構造変化があり、短期的には都市で共働き世帯が増加し、中長期的にはスマホ慣れした世代が高齢者になります。すると今後一層、ネットスーパーのニーズが高まると考えられるからです。



足元では、コロナ明けでリアル回帰が起こっています。未来を見据えたネットスーパーのチャレンジは続きますが、ここで優位性を築き上げた企業が10年、20年先の流通のインフラを支える企業になるのです。

文/中井彰人 中川朗

『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)

中井彰人 中川朗
黒字化モデルが見えてきた? リアル回帰が起きる中での「オンライン食品販売」の現在地…未来を見据えたネットスーパーの挑戦
『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
2025年4月25日1,848円(税込)216ページISBN: 978-4295410874

グローバル化から離れ、ガラパゴス化した業態。
海外からも注目される独自進化した「小売」の今。


生活に密着している業界だからこそ、その進化から目を離せない。

「小売」というと、製造業がいて、問屋があって、というイメージだが、実態はもっと複雑で、従来型の「仕入れて売る」という業態もあれば、もっと総合的なかたちですべてのサプライチェーンを内製化している企業もある。「小売」という業態は日本独自のもので、海外では見かけないビジネスモデルといっていい。消費者サイドから見ると、「便利で安くてサービスがいい」ということになるが、経営視点で見ると、「非効率・過剰サービス・利益が薄い」ということになる。本書は「知っているようで、あまり理解されていない」小売ビジネスについて、その歴史を紐解き、小売のおもしろさや魅力を伝える一冊として最適な入門書になっている。

(目次)
近現代史から学ぶ日本市場のガラパゴスな世界
チェーンストアから学ぶ小売の栄枯盛衰の世界
食品ディスカウンターに学ぶ覇権争いの世界
変化対応力から学ぶ小売専門店の世界
ネットスーパーから学ぶECの世界
インバウンド需要から学ぶアウトバウンドビジネスの世界
メーカーと問屋から学ぶ物流システムの世界
データから学ぶ小売DXの世界
最新テクノロジーから学ぶ未来の小売世界

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