〈参院選最大の争点〉「給付」VS「消費税減税」どちらが本当に国民の負担軽減になるのか…焼け石に水の「一時給付」に翻弄される国民
〈参院選最大の争点〉「給付」VS「消費税減税」どちらが本当に国民の負担軽減になるのか…焼け石に水の「一時給付」に翻弄される国民

7月20日に投開票が行なわれる参議院選挙の最大の争点となるのが「物価高対策」だ。自民党と公明党の与党は国民1人当たり2万円の給付案を打ち出した。

一方の野党は軒並み消費税の減税を掲げている。 

 

今回の選挙は政権の枠組みが変わる可能性があると言われている。勝敗ラインは自民公明両党で50議席だ。「給付」と「消費減税」の対立に審判が下されるわけだが、本質的な議論が置き去りにされる危うさも秘めている。 

石破首相は財源論を盾にしているが… 

自民党の森山裕幹事長は、5月24日に開かれた自民宮崎県連大会で「過半数割れが起こると、本当の意味の政権交代が起きてしまう」と危機感をあらわにした。自公は過去4回の参院選でいずれも70議席以上を獲得しており、50議席はたやすいように見える。

しかし、6月22日の東京都議会議員選挙では127議席のうち、わずか40議席という過去最低の結果だった。

政治とカネ問題の不信感が払拭しきれていないことに加え、物価高による生活苦が与党への批判や不満につながっている。価格高騰の象徴となっていた主食のコメは、価格が落ち着きを取り戻し始めた。備蓄米の機動的な放出が奏功しているようだ。

これに伴い、物価高対策の「給付」対「消費税減税」という争点がいっそう先鋭化した。

一方、立憲民主党は来年4月から食料品の消費税をゼロとすることを掲げた。期間は1年間で、経済情勢を見ながら1回だけ延長可能にするという。

負担軽減効果は年5兆円、国民1人当たり4万円だ。

日本維新の会は2年間に限定して食料品の消費税を0%に。れいわ新選組は消費税の廃止を主張している。

国民民主党は10%から5%の消費税減税を訴えた。賃金上昇率が物価+2%に達するまでの間、継続する意向だ。厚生労働省が7月7日に発表した5月の実質賃金は5か月連続のマイナスだった。足元では物価上昇に賃金がまったく追いついていない。

共産党は消費税の廃止を目指しつつ、緊急に5%引き下げる減税策を実施。5%の一律減税は食料品だけ、1~2年の期限付きでは不十分だという。物価高対策で最も有効なのが、すべての商品・サービスにかかる消費税負担を減らすことだと主張する。

石破茂首相は7月1日に放送された「news23」の党首討論で、「消費税は大切な社会保障の財源です」と語り、消費税減税の財源論に狙いを定めた。しかし、立憲民主党は基金の取り崩し、国民民主党は税収の上振れと国債の発行など、多くの党が財源提案を行なっている。
そこを論点にするのは難しい。

与党側が問いただすべきなのは、「消費税減税が本当に国民の負担軽減になるのか」という点だ。 

減税分は本当に価格に転嫁されるのか? 

日本経済新聞社と日本経済研究センターは、経済学者を対象とした第5回の「エコノミクスパネル」調査で、消費税減税の是非について尋ねている。「一時的な消費税減税を行うのは適切である」との質問の回答で、「そう思わない」は57%、「全くそう思わない」は28%にのぼる。実に85%が否定的なのだ。

一度引き下げを行なうと元にもどすことが困難との理由もあるが、物価高対策としての減税効果は限定的で、税収の損失に見合わないとの回答もあった。

減税効果が限定的であることは、ヨーロッパでの複数の先行事例がある。イギリスでは2008年から2009年までの13か月間にわたって付加価値税を2.5ポイント引き下げた。リーマンショックによる急速な景気悪化の支援策だ。

この減税策によって小売売上高は1%、総支出は0.4%増加している。国民の消費活動が活発になったためだ。しかし、減税策が終了した2010年1月には小売売上が大幅に低下した。結局のところ、需要を先食いしたに過ぎなかったわけだ。



国民民主党は景気が低迷するスタグフレーションに陥らないために、消費税の減税を行なうという。つまり、消費税負担を一時的に軽減、消費喚起によって景気を回復させ、手取りを増やそうというものだ。しかし、イギリスの例では景気の好循環とはならなかった。

また、消費税の引き下げ分が、そのまま消費者の“取り分”になるだろうという誤った幻想もある。

フランスでもリーマンショックによる外食需要減退に苦慮し、レストランの付加価値税引き下げを行なった過去がある。19.6%から5.5%にするという大胆な内容である。しかし、引き下げ分の価格転嫁率はわずか5.6%にとどまった。

そして、再び税率を引き上げると、上昇分とほぼ同等の金額が上乗せされる結果となった。つまり、減税の取り分は事業者のほうが大きかったわけだ。

立憲民主党は消費税を0%にすることで、国民1人当たり年間4万円の負担軽減になるというが、その主張には危うさも伴う。商品やサービスの値付けは、消費者にとってはいわばブラックボックスであり、事業者側に有利に働きやすい。フランスのレストランがそれをよく表している

消費税の減税で国民の負担は軽減されるという単純な主張は衆目を集めやすい。

これまでも、「円安になれば景気は回復する」「デフレからインフレになれば賃金は上昇する」などを論拠に、金融緩和や財政出動を進めてきた。はたして、国民の生活は豊かになっただろうか。

実際は賃金上昇が物価高に追いつかず、多くの人が苦しむ結果となったのだ。

給付金案は「本当にサポートが必要な人」に行き渡っているのか 

そうかといって、自民党・公明党の2万円の給付金も一時しのぎに過ぎない。また、住民税非課税世帯の大人には4万円を給付するというが、本当に支援が必要な人に行き渡っているのかという疑問符がつく。非課税世帯は65歳以上の世帯が75%を占めているが、高齢者は現役世代よりも多くの資産を持っているケースがあるからだ。

非課税世帯は生活保護受給者、シングルマザーなど生活に困窮している人たちも多い。給付金を本質的に必要としている人びとを「非課税世帯」としてくくってしまうと、その存在が見えなくなってしまう。そのため、自公による給付金案は高齢者へのバラマキだと非難されてしまうのだ。

今回の選挙は、政権の行方を占う重要なものだ。日本という国をいかに成長させ、そのために政府や各党が何をするべきか、本来はその戦略を具体的に論じるべきである。それが「給付金か消費税減税か」というテーマに矮小化されてしまうところに、日本の未成熟さが表れているのではないか。



何より有権者自身が目先の利益にとらわれず、判断することが重要だ。

取材・文/不破聡   写真/shutterstock

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