「仕事ができて頼りがいある男から舐められたら普通嬉しいだろ…」 ハラスメント漫画の原作者が語るセクハラ被害者への「絶対避けたかった」表現
「仕事ができて頼りがいある男から舐められたら普通嬉しいだろ…」 ハラスメント漫画の原作者が語るセクハラ被害者への「絶対避けたかった」表現

パワハラ、セクハラ、モラハラ、フキハラ、ハラハラ…年々多様化する一方で、会社の死活問題でもあるハラスメント事案に、社員相談室室長の犬神申一郎らが人材配置の最適解を導くべく奮闘する姿を描いたオフィス・エンタメ漫画『これってハラスメントですか?』。

 

原作者の、はやかわけんじさんにハラスメントを題材に選んだ理由や制作にあたっての想いを聞いた。

(前後編の前編)

漫画の題材に「ハラスメント」を選んだ理由

――なぜ今回、「ハラスメント」を漫画のテーマに選ばれたのでしょうか。

はやかわけんじ(以下同) この漫画は、「作者のはやかわけんじが読みたい漫画」ではなく、読者のために描こうと思って企画をスタートさせました。ハラスメントは会社だけでなく、世の中のどの場面にも溢れていることであり、テーマにしやすいと思ったんです。

それと同時に、この作品の監修をしてくださっている公認心理師・社内カウンセラーの柊イワシさんは、僕の大学時代の先輩なんですが、気軽に話を聞きやすいなどご縁を感じたのも大きかったです。

――これまでは、どのような作品を描いてこられたんですか?

僕はアクションやバイオレンスものが大好きで、そのような作品を中心に描いてきました。一見、今作のハラスメントとは繋がらないように思われますが、映画や漫画における暴力シーンっていうのは、その場に人間関係が成立しているから面白いんですよね。

殴る側の理由や殴られる側が痛い理由、辛い理由がしっかり描かれているからこそ、良質なエンターテインメントとして成立する。だから今作で「ハラスメント」を描くうえで、自分が今まで研究してきたことも活かせるし、描いているものとしては、あまり変わらないと思っています。

――コミックス1巻では、登場人物の感情描写やハラスメント事案がとてもリアルでしたが、描くうえでどのような準備をされたんですか。

僕は社会人ではありますが、会社員経験はゼロに等しいので、打合せの段階で編集者からハラスメントのお題をまず頂いています。

ただ1話目は僕から「掴みとしてセクハラがいい」と提案し、監修の柊さんにセクハラ事例を個人情報なしで取材して、いくつか集めた事例の中から編集者と「これ描けるんじゃない?」「この前こんな事件があったよね」と話し合いながらストーリーを膨らまして描いています。

女性が加害者のセクハラ事案も

――1巻ではセクハラのほか、正当な注意に対し過剰に「ハラスメントだ!」と騒ぐ「ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)」も描かれていましたが、今後はどういうハラスメントが出てくるのでしょうか。

すでに20話くらいまで原作はできていて、マタハラも描くし、世の中にあるありとあらゆるハラスメントを描く予定です。同じ「セクハラ」でも1巻の1話と2巻の1話は話が対になっていて、1巻は男性が、2巻は女性が加害者となるセクハラ事案を描いたりもしています。

――1巻が出た反響はいかがでしたか。

ファンレターも頂きましたが、「とてもリアルだった」という感想が多く綴られていました。反響としては、女性が加害者のセクハラ事案の話は女性の読者が読んでも「気持ち悪かった」と綴られていたり、ネットでは軽くアンチも出てきました。

人事系の仕事をしていると思われる方から「これ買って読んでみたけど、ちょっとこのアプローチは大丈夫なのか」といった意見もありました。僕の前作ではアンチが全く出てこなかったので、そういった意味では広いところまでこの作品が届いたんだなと思い、うれしかったですね。

セクハラ被害者に対して生まれる誤解

――作中では、人事の役割やあらゆるハラスメントに対しての定義付けがしっかりされていて、とても勉強になりました。ハラスメントを扱ううえで注意した点やこだわった部分などありますか。

毎回すごく気を付けていて、そこは監修に携わっている専門家の柊さんに逐一チェックしてもらっています。僕は流れや勢いとか物語上必要だと思ったところを描いていき、ネーム(下書き)の段階で柊さんにファクトチェックしてもらい、そのうえで表現や絵がちゃんと入った状態の完成版も柊さんに最終チェックしてもらうという感じで、かなり気を付けています。

――具体的に、はやかわさんから提案した第1話の「セクハラ」の話ではどのような点をこだわりましたか。

1話に関しては、セクハラを受けた女性に「彼氏がいる」という表現は、絶対にしたくないなと思いました。「彼氏がいるからイケメンのアプローチを断ったんじゃないか」という見方をされるのが、一番嫌だったからです。

彼氏がいようがいまいが、たとえ加害者側がイケメンで仕事ができる男であっても、セクハラは精神的苦痛を与えうるものだし、そういう誤解が生まれるのが一番嫌だったので、被害者のバックボーンとして、彼氏やパートナーがいるという表現は絶対に避けました。

特に連載している『グランドジャンプ』の読者層ってほとんど男性なので、男性側からよくある「彼氏いないんだし、イケメンなんだから付き合っちゃえよ」みたいな見方は避けたくて、気を配りながら描きました。

――その点は、監修の柊さんからのご意見ではなく、はやかわさん自身から生まれた問題意識だったんですか?

そうですね。これは物語の仕組みの話なので、僕が「#Me Too運動」以降の世の中の潮流などを見てきた結果、出したやり方です。

取材・文/木下未希 

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