
真夏の政治決戦がいよいよ佳境に入った。参院選の投開票日まで1週間となった選挙戦最後の日曜日。
自民関係者が嘆く「深刻な事態」
「かなり厳しい数字だ」
手元のデータを前に苦悶の表情を浮かべるのは、ある自民関係者だ。手に取るのは、選挙前の「ラストサンデー」を迎える直前の7月4日から6日に実施された「議席予想数」と題されたデータ。
この関係者が特に「深刻な事態だ」とうめいたのは、北海道から沖縄まで各選挙区の直近のポイント数の伸びを示す数字を見た時だった。
「伸び悩みが目立つ。うちは組織に動員をかけて、期日前である程度票を稼ぐのが定石。最終週までにある程度リードを広げておかないと厳しい。かなり引き締めないと終盤に挽回は難しい」(先の関係者)
実際、45ある選挙区の6月からのポイントの「伸縮数」を表すグラフを見ると、赤字で示されたマイナスが目立つ。
「議席予想数」では、自民が改選過半数の「63」から22議席も少ない「41」で、自民・公明の与党でも10減の「53」。自民は非改選議席の「62」を合わせても「103」で、過半数の「125」に及ばず、自民公明合わせてかろうじて「128」となり、まさに息も絶え絶えといった様相だ。
対照的に驚異的な勢いで支持を拡大しているのが、今選挙で「台風の目」となっている参政党だ。
「日本人ファースト」を掲げる党の政策は、各方面から「排外主義を助長する」と批判が集中し、「多国籍企業が(コロナウイルスの)パンデミックを引き起こした」といった陰謀論めいた神谷宗幣代表の発言が物議をかもすことも多い。
しかし、既存政党への不信感を募らせる無党派層に着実に浸透し、獲得予測議席数は、公明の「12」に次ぐ「11」と予想されるなど、勢いの良さを印象づけている。
前出の自民関係者は、「参政党は無党派だけでなく、『皇室の男系維持』や『選択的夫婦別姓反対』などを主張して、いわゆる『岩盤保守層』にも食い込んでいる」と警戒感をにじませる。
驚きの“公約”も飛び出した、大混乱の和歌山選挙区
いっぽう、選挙区の戦いに目を向けると、一時は歴代最長の自民幹事長として権勢をふるった二階俊博氏の地盤を次いだ、三男の伸康氏が“保守分裂”の構図での厳しい戦いを強いられている。
目下のライバルは、「公認」の座を巡って争い、たもとを分かって無所属で出馬した望月良男氏(元和歌山県有田市長)だ。
望月氏は長年、「保守王国」和歌山で、二階氏と緊張関係にあった世耕弘成氏と近く、選挙戦は「二階ジュニアvs世耕側近」という代理戦争の様相も呈している。
「序盤は伸康氏が順調にリードを広げていましたが、望月氏が猛追。伸康氏は昨年10月の衆院選で比例復活もできない大惨敗を喫しており、今回も落選すれば政治の道は絶たれかねない。陣営は焦りを募らせています」(全国紙政治部記者)
危機感の表れなのか、公示に先立つ6月30日に和歌山で行われた候補者討論会では驚きの“公約”も飛び出した。
「パンダがいなくなって不安を感じている県民もいる。その声に寄り添っていきたい」
伸康氏が持ち出したのは、6月に中国に返還された、和歌山県白浜町のレジャー施設「アドベンチャーワールド」で飼育されていた4頭のパンダのことだった。
日中友好議連の会長も務めるなど、党内きっての「親中派」で知られる父の俊博氏も誘致に尽力したとされるパンダの“奪還”を宣言したわけだが、この発言は、大きな話題となると同時に波紋も広げた。
では、渦中の選挙区の情勢はどうなっているのか。
「どちらが勝つかはまだ正直わかりませんが、街頭演説の人の集まりは良好といえます。平日とはいえ人口10000人に満たない小さな町でも100人以上、20000人の町では200人以上は集まって話を聞いてくれていました」
こう手応えを口にするのは、伸康氏の陣営に立つ現役の自民県議だ。
「自民党県議団はみな二階伸康を応援していますよ。衆院選の後、年末にはわざわざ事務所までご本人から自身の不倫報道について説明と謝罪がありました。
過去には田中角栄元総理のように政策や政治力で国のために良いことをしていれば、プライベートはどうでもいいという風潮がありましたが、現在は“クリーンなイメージ”が必要とされる時代ですので、和歌山を代表する議員になるためには聖人君子とは言わずとも心の弱さや甘さに打ち勝って欲しいと伝えましたよ」
県議が言及したのは、衆院選直後の2024年12月に週刊誌が報じた銀座ママとの不倫騒動のことである。
伸康氏は同誌の直撃を受けて不倫を認めた上で、「妻とは離婚協議の最終調整中」と発言し、党内外でひんしゅくを買った。県議の弁によれば、騒動については本人のみならず、後見役の二階俊博氏も支持者に頭を下げたのだという。
「お父様にも(今回の)選挙期間中にお会いしましたが、平身低頭で『みなさん応援のほどよろしくお願いいたします』と言われました。不倫の件については何もおっしゃっていませんでした。我々としても、有権者の皆様としても、いかに有力な議員を国会に送り出せるかが和歌山全体の発展に大きく関わるので、ぜひ頑張ってほしいと思います」(前出の県議)
鶴保庸介参院議員の失言でさらなるピンチに…
いっぽう、物議をかもした「パンダ発言」についてはどのように受け止めているのかというと、「パンダを呼び戻す政策については、やはり県民の多くが『もう一度パンダを呼びたい』と思っていますので、有権者からは非常に好評です。
いるのが当たり前になっていましたが、やはりいなくなるとその大きな影響力を身に沁みて感じます。グッズやお菓子にもイラストを使っていましたしね」と当然ながらではあるが、好意的だ。
ただ、望月氏とのデッドヒートが報じられる情勢について質問が及ぶと、とたんに表情を曇らせた。
そして、8日に開かれた地元集会で、二階ファミリーにとって身内ともいえる鶴保庸介参院議員が能登半島地震について「運のいいことに能登で地震があった」と漏らした失言に対して、憤りの色を露わにした。
「あの発言は“最悪”です。震災被害者の方への配慮が全く足りていないと思いますし、実際に県議の間でも『とんでもないことをしてくれた』と話題になりましたよ」
鶴保氏はこの失言について釈明した際の態度についても批判を受け、14日には、参院予算委員長を辞任に追い込まれている。
鶴保氏は、二階氏が小沢一郎氏とともに立ち上げた自由党から政界入りし、その後、保守党を経て自民に復党した二階氏に付き従った「側近中の側近」。本来、伸康氏の助けになるべき立場にある鶴保氏に足を引っ張られた格好になったからだ。
「俊博さんの右腕のような存在だった鶴保議員ですが、その後の会見で笑みを浮かべながら『現状は辞任など考えていません』などと発言されたことで、有権者の方からもそうですし、全国にいる知り合いから私のもとへ連絡があって、お叱りや、『もう他の人へ自民を薦められない』『鶴保をやめさせろ』との声、そもそもの自民支援をやめてしまう方まで出てきています。
記者会見に参加された記者からは『神妙さや反省している態度に欠けていた』と報告を受けまして、実際の映像を見て『これはどうなんだ』と思いましたよ」
県議は、「ただでさえ石破さんの人気があまり高くない上でこのような発言が飛び出したので、相当な向かい風になってしまった」と肩を落とす。
二階氏にとっては、自身が築いた「王国」を息子に禅譲できるかどうかの瀬戸際でもある。強くなるいっぽうの「向かい風」を跳ね返すことができるのか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班