
終盤のメディア世論調査で自民が激減して自公与党の過半数割れが現実味を増し、参政党と国民民主の躍進が見えてきた参院選。そのなかで地味に議席を増やしそうなのが立憲民主党だ。
知名度と巧みな演説を武器に最前線で存在感を高めている蓮舫氏
週明けから報道各社が報じた選挙情勢は、序盤のトレンドがいっそう先鋭化していることをうかがわせた。
「自民党は52の改選議席を10以上減らし、14の改選議席が最悪で半減しかねない公明党と合わせ、非改選を含めれば与党で過半数の125議席に届かない公算となりました。
対照的に上げ潮なのが、国民民主党(改選議席数4)と参政党(同1)で、いずれも10議席以上増やす可能性が出てきました。日本維新の会(同5)とれいわ新選組(同2)は微増、共産党(同7)は減らしそうです。
この中で立憲民主党(同22)は自民党が失速した1人区で勢いがあり、4~9議席程度上積みをして野党第一党の地位を維持しそうです」(政治部記者)
選挙の争点のひとつになった感のある“日本人ファースト”に絡む論争では立憲民主党はほとんど存在感がない。またネット上でも立民は国民民主や参政党のように宣伝がバズっているわけでもない。
「爆笑問題の太田光氏が各党トップに直接話を聞く企画をTBSが自社のYouTubeチャンネルで出しています。そこでは参政党の神谷宗幣代表の動画が公開から18時間で83万回再生され再生数1位となっています。対照的に立民の野田佳彦代表の動画再生数は1.5万回でドン尻になっていると15日の朝に伝えられました。
ネット戦略に長けた参政党・神谷氏の視聴数が多いのはわかりますが、立民はネットで数字が取れないのになぜか票は取れそうという不思議な状況になっています」(同前)
そんな立民の選挙戦の最前線で存在感を高めているのが蓮舫氏だ。自身も比例で出馬しながら、知名度と巧みな演説を武器に選挙区の候補者とコラボした街頭宣伝を繰り返している。
蓮舫氏といえば昨年7月の東京都知事選での惨敗の記憶が新しい。3選を目指した小池百合子知事との直接対決に勝機ありと見込んで参議院議員を辞職、無所属で出馬したものの、SNSを中心に旋風を起こした石丸伸二氏にも後れを取り、まさかの3位敗退を喫した。
「蓮舫氏は当時、インスタグラムで『120万を超える⼈が“蓮舫”と書いてくれて、これでまた国政に戻るというのは私の中では違う。そうしたら渡り⿃みたいだ』と国政復帰を否定していました。
でもそんな言葉を真に受ける者はいません。ちょうど3年前の参院選東京選挙区で当選し、その議席を手放した蓮舫氏なので次の参院選、すなわち今回の参院選でまた東京から出るつもりではないかと党内はざわつきましたし、昨秋の衆院選でも都内の選挙区から出馬する話が出てモメていました。
最終的に先月の東京都議選で応援をがんばったことを評価するとして、参議院選の比例で出ることが決まった体裁が取られましたが、いずれにせよ野田氏の直系で党の顔の一人でもある蓮舫氏が国政復帰を図るのは時間の問題でした」(立憲民主党関係者)
それでもすんなり決まったわけではない。連合の関係者は、
「蓮舫氏は比例の中でも上位当選は確実でしょう。朝日新聞の議席推計では党は比例で5~9議席取るとみられており、全部取れればいいですが、そうならない場合は連合組織内候補の誰かが落ちることになる。そうなれば“蓮舫氏に押し出された”との恨み節も出るでしょう」
と話す。
立民は東京2議席確保に“蓮舫”を連日投入
そんな事情を抱えながらも選挙に出ることを決めた蓮舫氏は6月27日、「渡り⿃になってもいいから、もう⼀回国会で私を使っていただきたい」と言って去年のインスタでの表明をさらりと上書きし、街頭演説を開始。
選挙戦では選挙区候補とのコラボ街宣を続け、先週後半からは東京選挙区に出馬した同党の2人の候補と並んでマイクを持つ時間を増やしている。
定数が6の東京選挙区は、3年前の選挙で当選し辞職した蓮舫氏の席を埋めるための任期が3年限定の1議席を加え、合計7枠を32人が争う。
「各社の情勢調査では自民、立民、参政、国民民主、共産、公明の候補が若干優位で、最後の7議席目を立民の2人目と自民の2人目が競り合っています。
ここで立民が競り勝てば自民を追い落として東京で唯一2議席を取ることになる。これは象徴的ですし意味あいも大きい。そのため立民は東京2議席確保に力を入れ、蓮舫氏を連続投入しています」(党関係者)
その演説で蓮舫氏は、少子化対策や高額療養費の自己負担増、トランプ関税など、石破茂政権や自民党の政策批判に重きを置きながら、
「20年間(国会議員として)働いてきました。もういったんピリオドだと思ってたけれども、やっぱり私は石破さんを見て向き合いたいと思ってます」
と、早期復帰の弁解もはさんでいる。
演説を聞いた支持者の50代男性は、
「やはり蓮舫さんはアイコンのような感じですから絶対に国政にいるべき方ですよ。この1年でなんだか一皮むけたような気がしますね。都知事選の後、少し政治から離れるとおっしゃってたけど、今の政治にたまらなくなって出てこられるのが蓮舫さんらしくて嬉しかったですよ」
と話し、党が期待した根強い人気をうかがわせる。
その演説で印象的なのは、参政党が火をつけた日本人ファーストを巡る問題への言及が少ないことだ。
11日の恵比寿駅前での演説ではまったく触れず、12日は秋葉原駅前で、インバウンドや技能実習生が日本経済や社会に寄与していると指摘しながら、
「外国人は敵ですか? 私は、真剣にこの選挙でぜひ皆さんに考えていただきたいと改めて思っています」
と話したが、外国人の絡む政策問題で、珍しく他党の姿勢を正面切って批判する態度ではない。
秋葉原の演説後、外国人問題への姿勢をたずねようと記者が近づき「外国人問題の…」と声をかけたが、選対関係者が「はい、ゴメンゴメン」と言いながら割って入り質問を阻まれた。
党関係者は「今の参政党の伸長は、維新や国民民主の支持層が参政に回っているから」と分析。支持層が奪われているわけではないのでこの問題から距離を置いているようにも見える。
批判対象を石破政権一本に絞った立憲民主党の戦略の行方はいかに――。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班