「授業なんてできません」控室にひきこもった実習生…教育実習で心が折れた若者たちのリアル「同じような授業の繰り返しのはずなのに、毎日が本当にしんどかった」
「授業なんてできません」控室にひきこもった実習生…教育実習で心が折れた若者たちのリアル「同じような授業の繰り返しのはずなのに、毎日が本当にしんどかった」

“教師を目指してきたけれど、たった2週間で自信をなくしてしまった”――。教育実習の現場で語られた本音に、SNSでは共感の声が続出。

現役教師と実習経験者に、教育実習のリアルを聞いた。 

「私には無理です」教育実習生の本音がSNSで話題に

《教育実習生がたった2週間で、「私には無理です。教師になる気でここに来ましたが、きっと1年も続けられないと思います。今働かれている先生方には尊敬しかありません。」と。
本当に悲しいし、何も言えない。》

これは、小学校教員として働く「すみれ@小学校教員」さん(@suMiremon_sense)が、教育実習に来ていた学生から実際にかけられた言葉を紹介したものだ。

この投稿が瞬く間に話題となり、《諦めた側だからよくわかる》《“楽しいところだけ”をやらせてもらっているのを感じた》など、リプライでは共感の声が相次いでいた。

教職離れが社会問題としてたびたび指摘される昨今。夢を抱いて教育実習に臨んだ若者が、なぜ「教師をあきらめる」決断に至るのか。福島県の公立中学校に勤務する、教職歴15年の女性教師は言う。

「教育実習は、卒業した母校で行うケースが一般的で、人数は年によって変動しますが、うちの学校では、実習希望者が多い年は春と夏に分けて受け入れ、最大で7~8人ほど。教職の道に進む学生は、だいたいその半数くらいという印象です。実習前には、採用試験を受ける予定があるか、つまり本気で教師を目指しているかどうか、必ず本人に確認するようにしています」

SNS上で話題になった「教師になるつもりで来たけれど、1年も続けられないと思いました」という実習生の言葉。

この女性教師はこうした言葉を直接聞いた経験はないものの、実際には心が折れてしまう学生も少なくないという。

「昨年、音楽科の実習に来た学生のひとりが、3週目に入ったあたりで限界を迎え、『もう無理です、授業なんてできません』と言って、控室に閉じこもってしまったことがありました。同じ教科のもう一人の実習生と比べて、自分の実力に自信が持てなかったようです。

教科に限らず、ここ数年は“打たれ弱い子”が増えていると感じています。特にしんどくなりやすいのは、真面目で完璧主義なタイプ。自分に厳しく、反省しすぎてしまう傾向が見られます。2~3週目に入ると、教材研究、授業、反省、再準備というサイクルが本格化しますが、業務の多さに対応しきれず、気持ちがいっぱいいっぱいになってしまうようです」

では、教育実習生たちは“教師の働き方”について、どんな印象を持つのだろうか。

「『先生ってこんなに忙しいんですね』という声はよく聞きます。指導教員を中心に分担したり、実習生の様子に応じて任せる量を調整したりと、こちらも工夫はしているんですが……時期的にも大変なんです。クラス替え直後の4~5月や、受験を控えた3年生の対応、1・2年生のトラブルも多く、教員側も余裕のない中で実習を迎えることになります」

受け入れる側の教員もまた、実習生の指導で消耗してしまう現実があるそうだ。

「大学からの要請内容もバラバラで、指導案の細かさや提出物の量にも差があります。“やらせたくないけど、やらせざるを得ない”、“任せた分、結局フォローも必要”といった場面も多く、本当にバランスが難しいんです」

教師になる気がなくても“揺れた”教育実習の3週間

中高一貫校の母校で、3週間の教育実習に参加したナギサさん(仮名・20代)は、もともと教師になるつもりで教職課程を履修していたわけではなかったそうだが、3週間の現場体験は、予想以上に自身の気持ちを揺さぶるものだったそうだ。

「最初の1~2週間は授業がうまくいかず、何度も心が折れそうになりました。

しかし、指導教官の先生が放課後も遅くまでフィードバックや授業準備に付き合ってくださって、何とか乗り越えることができました」

やりがいや楽しさを感じる場面もあった一方、「これは無理かもしれない」と感じた瞬間もあったようだ。

「まだ自分が授業を持つ前に、他の実習生の授業を見学したときのことです。問いかけに対して生徒が全然反応せず、“わかりません”の連続。後ろの席の生徒たちが『答え言えばいいのに』『誰も言わないのウケる』なんて言っていて……。あの場に自分が立っていたら、とても耐えられなかったと思いました」

ちなみに、ナギサさんが実習を受けた年の実習生は、高校に10名、中学校に5名が行ったそうだ。そのうち本気で教師を目指していたのは合わせて7~8名、実際に教員になったのは5名ほどだったという。

「私の大学で、同学科の友人11人のうち6人が教員志望でしたが、実際に教師になったのは1人だけ。実習後、『限界すぎた』『毎日は無理』『先生たちが怖かった』といった理由であきらめた人が多かったです」

授業準備に追われ、家に帰っても深夜までプリント作成。緊張と不安でなかなか眠れない日々。3週間は短いようでいて、心身ともに限界を迎える人がいてもおかしくはない密度だったという。

「受け持ったのはたった1学年、同じような授業の繰り返しのはずなのに、毎日が本当にしんどかった。これを毎日やっている先生たちは本当にすごいと思いました。

だから、SNSで見た“1年も続けられない”という声には、当時の私も共感していたと思います」

それでも、教育実習の3週間を「やってよかった」と彼女は振り返る。

「生徒が授業を“楽しかった”と言ってくれたり、ホームルームで自分の話に対してリアクションを返してくれたり……。その瞬間は、今までの苦労が報われた気がして。『ああこれが、先生たちがやりがいを感じる理由なんだ』って、少しだけ理解できた気がしました」

常に見られる立場の教師は本音を言えない職業?

「実習前は、“先生って社会を知らない人たち”という先入観があって、どこかネガティブなイメージでした」

そう語るのは、大学3年次に母校の私立高校で教育実習を経験したダイキさん(仮名・20代)だ。担当教科は保健体育。実習期間中、最も負担に感じたのは授業準備だったという。

「1コマ40分の授業に対して、およそ3時間をかけてカリキュラムを組み立てる感じでしたね。朝7時には登校し、授業、部活動、翌日の準備に追われて、帰宅は22時を過ぎることも珍しくなかったです。

体育の授業では、器具の準備から片付けまですべて自分で行いますし、その合間に作ったカリキュラムのチェックも受けなければいけない。体力的にも精神的にも余裕がありませんでした」

そんな実習のなかで、印象に残っているのは『本音を封じ込めて行動し続けることの苦しさ』だったそうだ。

「生徒の進路相談においても、“現実”を率直に伝えることができない場面がありました。『頑張ってね』が基本スタンスで、厳しい現実をそのまま伝えることには慎重になる必要がある。

私立校ということもあり、生徒が“お客様”という意識で扱われている現実も強く感じました。常に気を張り、見られている意識を持ち続けなければならず、気が抜ける瞬間は一度もありませんでしたし、本心を言えず、まるで嘘をついているような感覚に陥ることもありました」

SNSで話題になった「1年も続けられないと思います」という言葉については、実習中と現在とで見解が変わったという。

「実習当時の自分であれば、間違いなく共感していたと思います。あまりの大変さに“これを毎日続けるのは無理だ”と感じていました。しかし実際に社会に出て働いてみると、どんな仕事にも大変さはあると実感するようになったので、その実習生の言葉に完全に同意することは難しいです」

――教育実習を経て「教師になるのは無理かもしれない」と感じる学生がいる一方で、現場に立ったからこそ教師という仕事のやりがいや尊さを知ったという声もある。だが共通して言えるのは、現在の教職の現場が想像以上に過酷であり、同時に大きな責任と覚悟を求められる仕事だということだ。

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio)

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