「あなたは大したことない」「誰にも言わないと約束したのに…」スクールカウンセラーに相談したのに人間不信に…信頼されない“子どもの味方”が増える理由とは?
「あなたは大したことない」「誰にも言わないと約束したのに…」スクールカウンセラーに相談したのに人間不信に…信頼されない“子どもの味方”が増える理由とは?

Xで“スクールカウンセラー”がトレンド入りしたのは7月上旬のこと。スクールカウンセラーに相談したことのある子どもや保護者が実体験を書き込んだことでその存在に注目が集まり、「スクールカウンセラーに救われた」「彼らは最も信用できない大人」などさまざまな声が溢れた。

しかし、本来、子どもの味方であるはずのスクールカウンセラーになぜ「信用できない」などの否定的な声が上がるのか。スクールカウンセラーの実態を取材すると、複雑な問題点が見えてきた。 

「“誰にも言わない”と約束のもと打ち明けたのに…」

スクールカウンセラーは1995年に全国の小中学校に導入され、現在では全国の9割の公立学校(小・中・高)で配置されている。

子どもの悩みをヒアリングし、教員とは異なる視点から問題解決に向けたアドバイスをしたり、学校生活をサポートする役割を担っており、生徒たちにとっては“成績をつけない”校内にいる身近な大人ということになる。

しかし、そんななか東京都在住のAさんは、スクールカウンセラーへの相談が我が子の「人間不信のきっかけになった」と肩を落とす。

「現在、不登校の高校3年生の娘は、中学生のときにスクールカウンセラーに『作り笑いが苦手なんです』と相談したことがあります。“誰にも言わない”と約束のもと打ち明けたのに、数日後、担任から『無理に笑わなくていいよ』と言われ、娘はカウンセラーや大人へ不信感を抱くようになりました。

子どもは親や担任に話しづらいからこそ、カウンセラーに話しているんです。校内で共有する義務があったのかもしれませんが、相談内容の取り扱いには注意してほしい。せめて、『共有すること』『伏せておくこと』を子どもに確認してほしかったです」

スクールカウンセラーに話したことで、さらに傷口を広げたケースもある。現在は社会人の群馬県在住のEさんは、幼少期から父親に激しい暴力を振るわれていた。自分を鼓舞し、なんとかそのことをカウンセラーに相談。だが、一週間も経たないうちにそれが両親に伝わってしまったという。

「あのとき、『なんとか助けてほしい』という思いで相談したのに、父親の耳に入ったことで暴力はエスカレートしました。思い出したくもありません」

スクールカウンセラーを利用したことで「学校には絶対に行かない」と気持ちを一層かたくなにしたのは、現在17歳になる埼玉県在住のSさんだ。

「友人関係で揉め事があり不登校になった中学生のときに、ほとんど無理矢理に担任からカウセリングを受けるよう言われ、行ってみたんです。何を話しても『あなたより大変な人がいる。髪の毛抜けちゃう子、話が一言もできなくなる子もいる。あなたは大したことない』と言われ呆然としました。

自分の気持ちは、結局誰も分かってくれないんだと落ち込んだだけ。それなのに、学校へ行けばカウンセラーの手柄になる。それが嫌で、以降中学には登校していません」

そもそも、「スクールカウンセラーの利用方法がわからない。相談をLINEやweb上で受けつけてくれたら良いのに」と利用までのわかりづらさを指摘する中学生もいた。

信頼関係以前の問題もある…専門家の見解は? 

スクールカウンセラーが制度化される前、調査研究委託事業の段階から20年以上にわたり、新潟県内の小・中学校でスクールカウンセラーを務める心理学者の碓井真史氏に、校内での相談内容の取り扱いについてなど話を聞いた。

「守秘義務はありますが、チームでの守秘義務と捉えている学校がほとんどでは。確かに、『担任が苦手だ』とか、LGBTQに関わるセンシティブなもの、『伏せてほしい』と念を押された病気のことなどの共有を控えたことはあります。

しかし、非常勤のスクールカウンセラーは、立場も弱く対象者から聞いた話を何も共有しなければ学校で孤立してしまいます。生徒を守るため、難しい悩みを抱える生徒や保護者とつないでもらうためにも、まずは学校側、教員と信頼関係を築くことが重要です」

文科省ではスクールカウンセリングにおける実施のガイドラインにおいて、“守秘”について以下のように定めている。

《守秘については、クライアントのプライバシーを守るために相談内容を秘密にするということ、ただし命に関わること、他者またはクライアント自身を傷つける恐れのあること、犯罪に関わることなどはそのかぎりではない》(文部科学省HPより)

つまり基本的には相談者のプライバシーを守らなくてはいけないが、内容に応じて「チームでの守秘義務」となっているのが実情のようだ。

子どもとの秘密を守り、やる気を持って働くカウンセラーも取材を進めるといるのだが、いっぽうで教員側から聞こえてきたのは信頼関係以前の問題だ。山梨県の公立中学校に勤務するY先生に話を聞くことができた。

「週1回、毎週水曜日の午後に複数名のカウンセラーが順番でスクールカウンセリングに来てくれています。職員室に常設されたデスクがあるため、話しかけやすい雰囲気はあるものの、人によって“能力の差”が大きいんです。

教員や生徒に寄り添ってくれるカウンセラーもいますが、子どもに『不登校は甘え』『悩みが大げさ』と突き放す人もおり、過去にはカウンセリングの後に不登校になった生徒も。そのため、信用しきれないところがあるんです。

カウンセリング後、生徒にアンケート記入をお願いし定期的に評価してもらい、不適切な者には研修を受けさせることで能力の差を無くしてほしい」

これを碓井氏に伝えると「能力の差はありますね」と共感した上で、このように続けた。

「スクールカウンセリング制度が始まった当初は、臨床心理士、公認心理師、精神科医のなどの有資格者で担われていました。しかし、全校配置を目指したことで有資格者のみならず、それに“相当する者”として、臨床経験のある人、心理学科の卒業者、現場経験者などにも拡大されました。

都心部には有資格者がたくさんいるため、2023年には東京都でスクールカウンセラーの雇い止めがあるほどだったのに対し、地方都市には有資格者が少なく能力に差が生じやすいのです」

また、スクールカウンセラーの特殊な職場環境も能力の差を作る要因だと指摘する。

「1人職場という環境では、教員のように大先輩を見て日々研鑽を積むようなことができない。横のつながりを持てる場を増やしていくべきではないでしょうか。また、スクールカウンセラーの在り方がまだ固まっていないことも一因でしょう。今後、現場の意見交換のもとコンセンサス(理念)を少しずつ固めていく必要性を感じています」

そもそもスクールカウンセラーは必要なのか?

そもそもスクールカウンセラーは必要なのか。碓井氏は力強く「必要です」と述べる。

「多様性の時代に突入し、家庭環境が複雑であったり、いじめや不登校の背景には発達障害などの特性が隠れていることも少なくありません。先生には直接は言いづらいこと、逆に先生が保護者や子どもに直接は指摘しづらいことも増えています。

“みんなの母”的存在として、子どもたち(保護者含む)と学校側の架け橋になれるのはスクールカウンセラーだからできることです。

ちょっとした雑談や心配事、時には夫婦間の相談も気軽に話してもらい、子どもたちの元気の源である家庭が笑顔に溢れるよう、親を支えるのも我々の役目です」

碓井氏が言うように、実際、スクールカウンセラーに救われた人が多いのも事実だ。東京都在住のTさんは、息子さんが小学2年生の頃、入級先の変更時にスクールカウンセラーにお世話になったという。

「息子は気持ちを表に出すことが苦手で、聴覚過敏の特性もあるため入学当時から特別支援学級(以下、支援級)を考えました。

しかし、区内で支援級を設置している小学校は当時3割弱。学区内の小学校に支援級はなく、悩んだ末、2歳上の長女と同じ通常学級に通わせることにしました。

しかし、ある日、帰りの会の時間に転んで怪我をし、誰にも伝えられずに泣きながら帰宅したことがありました。このままではまずいと感じ、区の就学相談に行ったものの希望に反した学校を勧められ落胆。校内のスクールカウンセラーに相談してみることにしました。

当時、都採用、区採用のカウンセラーが常時2名おり、評判の良かった都採用のカウンセラーにお願いしました。就学相談の内容を伝えると、他の事例をいくつか教えていただき、息子の授業の様子も何度か見に行ってくださり、気になることをフィードバックしてくれました。

親身に相談に乗っていただいたおかげで、小学3年時に息子は希望した支援級に転学。楽しく登校し、卒業まで無事に通うことができたので本当に感謝しています」

神奈川県在住の高校3年生のKさんも、スクールカウンセラーに感謝する一人だ。真面目で考えすぎてしまう当時中学生だったKさんに「もっといい加減に生きて大丈夫なんだよ」という言葉をかけてくれたことで、肩の力が抜けた。今もたびたびこの言葉を思い出すという。

多様化の時代でその必要性は高まるスクールカウンセラー。

真の“子どもの味方”として、どうあるべきなのか。考え直すときなのかもしれない。

取材・文/山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班

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