
学歴詐称疑惑がもたれる静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)は7月18日、市議会の調査特別委員会(百条委)が求めた東洋大の“卒業証書”の提出を拒んだ。田久保氏側は支持者には偽造疑惑を否定するため、この“卒業証書と称するもの”を見せていたことが集英社オンラインの取材で判明した。
百条委の要求に対して田久保市長は…
田久保氏は前市長が掲げた図書館建設計画の撤回を公約に今年5月25日の市長選で初当選した。選挙でメディアに「東洋大学法学部卒業」と説明し、市の広報誌も7月号で同様の学歴紹介をしている。
しかし「中退どころか除籍だった」との文書が市議らに届き、当初は怪文書扱いした田久保氏は事態が拡大すると7月2日に「卒業は確認できなかった。除籍されていた」と認めた。だが選挙では大卒と自ら公表していないので公職選挙法には違反しないとの主張を続けている。
これに市議会は7月7日、辞職勧告決議と百条委設置の議案をいずれも全会一致で可決。同日夜、田久保氏は市長をいったん辞職し、出直し市長選に再出馬すると表明した。(♯4)
問題は、除籍だと認める前に田久保氏が卒業証書と称するものを支持者に見せ、“こういう証拠もあるので卒業は間違いない”という趣旨の説明をしていたことだ。
卒業証書を偽造して見せたのではないのかとの疑問に田久保氏は、「私の中では本物であるというふうに思っております」と主張。しかし「30年前ぐらいのことでどのように手にしたか、もう記憶が曖昧でございます」と、入手先も説明できない状況だ。
そこで百条委は、問題の卒業証書を18日午後4時までに提出するよう要求。
これに対し田久保氏は、刑事告発をされていることを理由にこの要求を拒んだ。
支援者が田久保さんの家族からわざわざ“卒業証書”を見せられた
今回わかったのは、田久保氏が百条委への提出を拒んだ卒業証書を自分のごく親しい支援者には見せていたことだ。事情に詳しいAさんが証言した。
「卒業証書は選挙のときにメディアから経歴確認で見せてほしいと求められましたが、田久保氏は『見つからない』と押し切っています。
しかし市長当選後、公報誌に載せるプロフィールを確認するため卒業証書を確認したいと秘書広報課長が頼んだときには田久保氏は応じ、現物を課長に見せています。この時点で、市議らに告発文書が送られていたことを田久保氏は察知していませんでした」(Aさん)
7月12日に開かれた百条委の初回会合ではその山下明子秘書広報課長が証人として尋問を受け、
「私から卒業証書を見せてくださいとお願いして、6月4日に見せていただいたので卒業で問題ないだろうと判断しました。ちゃんと赤い校印も押してあって、お名前と全体的なものを見た中で『平成4年3月の卒業なんですね』と。コピーを取ることは可能ですかとご相談はしたのですが、『そこまでの必要はないのではないか』と(田久保氏に言われた)」
と証言した。Aさんが続ける。
「その後、告発文書の存在が支援者から田久保さんに伝えられ、彼女は動揺しました。支援者の一人が、田久保さんの家族からわざわざ“卒業証書”を見せられたとも聞きました。無論、疑惑を否定するためです」(Aさん)
選挙中には見つからなかった卒業証書が市長就任後に現れ、学歴詐称疑惑が問題視されていなかった時期には市職員に見せられ、問題化した後は支持者を安心させる材料に使われていたことになる。
さらに告発文書の存在を知ると田久保氏は秘書広報課長らに『大学卒業』と広報誌に書かないよう求めたが、これは聞き入れられず問題のプロフィールが掲載されたと関係者は証言している。(♯3)
支持者には「事実だ」と訴えた学歴をなぜ広報誌から消そうとしたのか。これも百条委の調査対象になりそうだ。
東洋大に除籍の要件をたずねたところ…
いっぽう東洋大は集英社オンラインの取材に、
「除籍者に卒業証明書を交付することはございません。除籍が決裁された後、保証人様宛てに除籍通知書を郵送いたします。保証人様がご本人とどのように共有されるのかは、本学では分かりかねます」
と答えた。説明の通りなら誤って卒業証書が交付されることはなく、除籍の事実は少なくとも保証人には伝えられていたことになる。
さらに田久保氏が主張する卒業と除籍を混同する余地がないか、除籍の要件をたずねたところ、田久保氏に該当する可能性がある除籍理由は、
①学費を納入しなかった②休学期間が4年を越えた③東洋大で修学する意思がないと判断された、という3つがあることがわかった。
田久保氏は「6月28日に東洋大に出向き除籍の事実を確認するまで卒業していると考えていた」と主張するが、除籍理由をどう説明されたのか、明らかにすべきだろう。
また田久保氏は選挙でメディアに卒業アルバムを示している。関係者は、
「新聞社から経歴のファクトチェックとして高校と大学の卒業証書の提出を求められた田久保さんは、『夜中まで探したけど、両方とも見つからなかった』とイラつき、『もう中卒でいいです』と投げやりになっていました。
しかしのちに大学の卒業アルバムがあったということでそれの集合写真を見せていました。
と証言している。(♯3)
除籍者が卒業アルバム持つことができるのか。この疑問に東洋大は「本学の卒業アルバムは学生団体にて制作しておりますが、卒業決定前から制作が始まり、希望者申込制になっているため、除籍になった学生が卒業アルバムを手に入れることは可能です」
と答えた。存在するはずがない卒業証書と除籍者でも買えるアルバム。田久保氏はなぜこのふたつを持っているのか――。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班