
静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)は7月18日、学歴詐称疑惑を調べる市議会調査特別委員会(百条委)に対し、偽造の疑いがある東洋大の“卒業証書”の提出を拒んだ。さらに、これまで捜査を依頼するとしていたこの卒業証書と称するものは検察にも渡さないと言い始め、真偽の検証をさせない姿勢だ。
卒業証書は検察に引き渡すと思いきや…
実際は除籍されたとみられる東洋大を「卒業した」と主張し、卒業証書と称するものを見せて回った田久保氏。
百条委は7月18日の午後4時までにこれを提出するよう求めていたが、期限の約15分前に中島弘道市議会議長に渡されたのは「提出を拒否します」と書かれた「回答書」だった。
そこには拒否の理由として「私は現在、公職選挙法違反で刑事告発をされていることから、本件記録の提出請求は、私自身の刑事訴追につながる可能性のある事項に関するものと言えます」とした上で、提出拒否は憲法に保障された不利益な供述を強要されない権利に基づくもので、百条委での出頭や記録の提出を拒める「正当な理由」に当たる、と主張している。
ただ、この提出拒否は予想されていた。
「7月7日に市議会が田久保氏の辞職勧告決議案と百条委設置議案を可決しましたが、その夜に会見した田久保氏は辞職し出直し選に再出馬すると表明しながら、卒業証書は上申書とともに静岡地検に提出し真贋を調べてもらう、と主張していました。
百条委に渡るとすぐに公開されて真贋がわかってしまうので、捜査に時間がかかる検察に渡し、結論が出る前に選挙を終えてしまおう、という作戦とみられていました」(地元記者)
同じ7日の午前に伊東市内の建設会社社長が田久保氏を公選法違反の学歴詐称の疑いで警察に刑事告発しており、田久保氏側はこれを逆に利用する考えだったようだ。
実際7日の記者会見で田久保氏に同席した弁護士は「刑事告発されたという報告を受けております。そうすると本件は刑事事件ということになり、関連する重要な証拠物として在籍証明書などがあり、現在これは私が弁護士の職責として私の事務所内の金庫で保管をしております」と話している。
「このため田久保氏は18日も検察に引き渡すので卒業証書は百条委に提出できないと主張するだと思っていました。ところが田久保氏はこの前言も翻したのです」(地元記者)
「8月1日の次の退職金算定基準日まで待つつもりか」
議長に回答書を渡した直後、記者団の前に現れた田久保氏に記者からは「卒業証書は検察にも百条委にも渡せばいいのでは」という当然の疑問がぶつけられた。
これに田久保氏は「検察に提出するというより、事態が少し変わりまして、刑事告発された際の重要な証拠になるであろうということで弁護士が保管をしている」と答えた。
告発容疑を立件する証拠になりそうなので検察にも渡さない、と言い出した形だ。そして議長に出した回答書にも、「一切の資料は顧問弁護士の管理下にあり、弁護士は守秘義務や供述拒否権、押収拒絶権を有する」と書かれ、同意なしに百条委も捜査当局も卒業証書を押さえることはできないとけん制している。
ここにきて言うことを変えた理由を田久保氏は、7日の会見の時には明確に認識していなかった刑事告発に対処するためだと主張する。
だが、これには疑義がある。前出のように7日に同席した弁護士は「刑事告発されたという報告」を聞いたと話しているのだ。また関係者によれば、告発者本人が7日午前に告発すると通告するLINEを田久保氏に送り、昼前には既読がついていたという。
それでも田久保氏は、告発の詳細を把握したのは会見後だと主張。告発者は「私と前回の市長選を戦った前市長の支援団体の代表」だと発言し、告発は前市長派による政治的な攻撃だと印象づけようとした。
こうした姿勢に記者からは「(市長への)来訪者のキャンセルも起きている。行政に影響が出ているのに、告発の話ばかりするのは市民のことを考えてないのでは」との疑念も出た。
すると田久保氏は「私は逆であると考えております。私の公務のキャンセルはこのように大勢の報道が私に一緒についてくる状況で、受け入れ先の方のご不安(への配慮)を最優先しております」と、責任はメディアにあると逆ギレ。
辞職の時期も、7日には「大体10日から2週間以内」に地検に証拠を提出しその後速やかに辞めると言っていたが、地検への提出をしないうえに、辞める準備をする気配もない。記者から「居座ってるようにしか映らない」「市長の椅子にしがみついている」との言葉も飛んだ。
すると田久保氏は「7月中に辞めるのが私の希望」と発言。これに対しては「8月1日の次の退職金算定基準日まで待つつもりかという職員の怒りの声も上がっている」と地元記者は話す。
百条委員長は「誠実さのカケラもない」
いっぽう百条委もボルテージが上がっている。田久保氏の「回答書」提出後に開かれた会合では、田久保氏の説明を裏付ける資料は何もない、との声が噴出。
ある議員は「そもそも入学をしたのか。全てにおいて全然答えをもらっていないので、疑ってかかりたくなる」と発言した。
百条委は、田久保氏による「除籍だったと東洋大で確認した」との説明まで信用できないとし、東洋大に在籍期間証明書や成績証明書の提供などを求めることを決めた。
だが東洋大は、集英社オンラインが田久保氏の在籍状況などをたずねたのに対し「個人の手続きに関しては個人情報としておりますことから、お答えは控えさせていただきます」と回答している。個人情報の取り扱いは相手が市議会でも同じとみられ、百条委も提供を受けられるかどうかは不透明だ。
百条委は当然、田久保氏を証人として尋問する方針も決定した。しかし田久保氏が“卒業証書”の提出を拒んだのと同じ理由を挙げて証言を拒むか、出頭自体を拒否するのは間違いないとみられる。
卒業証書の提出拒否を「誠実さのカケラもない」(井戸清司百条委委員長)と怒りまくっても、田久保氏を突き崩す妙案はないのが現実だ。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班