「ファーガソン監督の最大の強みはスター選手を移籍させる能力だ」1人のネガティブな人材がチームをダメにしないよう、超一流のリーダーが最優先すべきもの
「ファーガソン監督の最大の強みはスター選手を移籍させる能力だ」1人のネガティブな人材がチームをダメにしないよう、超一流のリーダーが最優先すべきもの

チームの成果は個人個人の才能の総和ではない。Uber、アップル、Amazon、Nike、TikTok、コカ・コーラなど世界を創り変えてきた覇者達からマーケティングを任されるイギリスの起業家、スティーブン・バートレット氏は「水準を下げているメンバーがいれば、いますぐ毅然とした行動を取って、尊い集団文化が壊されるのを阻止する必要がある」と語る。

 

バートレット氏が直接体得した仕事と人生に効く33の重要原則をまとめた『執行長日記  THE DIARY OF A CEO』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

有名かどうか、どれだけ必要かに関係なく

サー・アレックス・ファーガソンは、歴史上、最も成功したサッカーの監督と言われている。マンチェスター・ユナイテッドを率いた26年間で、38個のトロフィーを獲得。2013年の夏、プレミアリーグで最後の優勝を果たしたのちに、71歳で引退を発表した。

1986年、当時低迷していたチームの監督に就任した際に、ファーガソンは「マンチェスター・ユナイテッドで最も重要なのはクラブの文化だ。クラブの文化は監督が生み出す」と断言し、選手や作戦だけでなく、文化や価値観によってチームの成功が決まると強調した。

その価値観は、選手がチームに加わった瞬間から教えこむ必要があり、選手からコーチ、スタッフ、幹部まで、クラブの全員が従わなければならない。

数年前に、私はパトリス・エヴラから話を聞いた。2006年にファーガソン率いるマンチェスター・ユナイテッドに加入し、優勝に貢献した左サイドバックの名選手だ。彼は契約に先立ち、フランスの空港の控室で監督に会ったという。

「サー・アレックスは俺の目を見て訊きたかったんだ。冷徹な目でじっと見つめて、『きみはこのクラブのために死ぬ覚悟はあるか?』って。俺が『もちろんです』と答えると、すぐさまテーブル越しに手を差し出して、『ようこそ、マンチェスター・ユナイテッドへ』と言ってくれた」

ファーガソンは、クラブ内に強くて団結した文化をつくればピッチで勝利を収めるチームとなり、長期にわたる成功を築けると考えていた。

はたして、そのとおりだった。これほどの安定性、一貫性、成功を武器にチームを率いた監督は、後にも先にもいなかった。

ファーガソンの哲学は、個々の選手にチームの精神、文化、価値観を邪魔させないとの一言に尽きる。記者会見で「クラブより偉大な者はいない」と言い放ったことは有名で、プレーの良し悪し、有名かどうか、どれだけ必要な選手かということには関係なく、「ユナイテッドのやり方」を体現していなければ、とつぜん移籍させることもあった。

たとえ絶頂期にある選手でも移籍させた

この数年のあいだに、私はかつてマンチェスター・ユナイテッドに所属した5名の選手にインタビューをする機会があったが、ファーガソンの最大の強みはスター選手を移籍させる能力だと、全員が口をそろえた。たとえ絶頂期にある選手でも。

スポーツでもビジネスでも、通常はこれほど大胆な決断を下す勇気、信念はなかなか見られるものではない。文化に馴染まないという理由で中心となる従業員を解雇するのは、いささかやりすぎにも思える。

だが、私がこれまでにインタビューした超一流のリーダーたちは、才能に関係なく、1人の「腐ったリンゴ」が周囲に悪影響を及ぼすことのほうが、より問題であると本能的に知っていた。それはスポーツ界でもビジネスでも同じだ。

「最も難しかったのは、従業員の解雇を学ばなければならなかったことだ。だが、会社のインテグリティ(誠実さ)やチームの文化を守るために、そうしなければならなかった」
リチャード・ブランソン

悪い従業員が仕事に与える影響

『ハーバード・ビジネス・レビュー』は、悪い従業員が仕事に与える影響について調査を実施した。目的は、同僚のあいだでの新しいアイデアや行動の広がり方を理解することだ。

規制当局への提出書類と従業員の不満をもとに行われた調査の結果、不正行為の前歴を持つ新しい同僚に出会うと、職場で不正行為をする可能性が37%高くなることがわかった。

驚いたことに、この調査は従業員のマイナス要素が実際に伝染することを示している。

職場における不正行為の相乗効果は1.59倍で、社内で発生した不正行為はウイルスのように広がり、該当の従業員がそのまま会社に留まった場合には、不正行為がさらに0.59件増えると報告されている。

ワシントン大学ビジネススクールの元研究員、ウィル・フェルプスが、妻に職場の状況が改善されたかどうか尋ねると、「今週はヤツが出勤していないから、雰囲気がずいぶんよくなったわ」という答えが返ってきた。

フェルプスの妻が言っているのは、チーム内でいつも個人攻撃をするたちの悪い同僚のことだった。その同僚のせいで、もともと険悪だった職場環境がさらにひどくなったのだ。ところが、彼が病気で数日間休んだときに、不思議なことが起きたとフェルプスは振り返る。

「腐ったリンゴ」が樽の中のリンゴを全部ダメにする

チームのメンバーは互いに協力し合い、ラジオでクラシック音楽を流し、仕事が終わると飲みに出かけるようになった。でも、彼がオフィスに戻ってくると、不穏な雰囲気に逆戻りした。

彼が病気になる以前は、妻は彼にそれほど影響力があることに気づかなかったが、欠勤しているあいだの職場の雰囲気を観察して、彼がかなりネガティブな影響を与えていると思うようになった。まさに樽の中のリンゴを全部だめにする「腐ったリンゴ」だった。

1人の人間がチーム全体に与える影響に興味を持ち、フェルプスは同僚のテレンス・ミッチェル教授(ビジネスおよび心理学)とともに、チームや従業員グループ内の相互作用に関する24の研究を綿密に調べた。

さらに独自の調査を行い、1人の「ネガティブ」なメンバー(仕事を公平に分担しない、同僚を攻撃する、精神的に不安定など)が、うまく機能するはずのチームをどれほど乱すのかを明らかにした。

そうしたケースは思いのほか一般的で、ほとんどの人にとって、少なくとも1人は職場の「腐ったリンゴ」に心当たりがあるとわかった。



また、とりわけネガティブな従業員が長く在籍し、経験豊富で、社内で権力を持っている場合、大部分の組織に効果的な対処法が備わっていないことも明らかになった。

ネガティブな行動は完全にポジティブな行動を上回っていた。つまり、1人の「腐ったリンゴ」はチームの文化を損なう可能性があり、優秀な従業員が1人、2人、あるいは3人いても元には戻せない。

樽は洗える

結論としては、「腐ったリンゴ」が解雇されなければ、従業員の士気の低下、ほかの従業員による模倣、出社拒否、不安や恐怖につながる。その結果、チーム内の信頼関係が悪化し、メンバーのモチベーションがさらに下がる。

フェルプスとミッチェルが発見したのは、私自身がビジネスキャリアを通じて何度となく学んだことだった──良い会社は1人の従業員が辞めても潰れないが、1人が留まることで潰れる場合はある。

「腐ったリンゴが1つでもあると樽全体をダメにしてしまうかもしれない。でも、大事なのは樽は洗えると覚えておくこと。前向きな文化を保つためには、行動を起こして有害な人を追い出すことが大事」 オプラ・ウィンフリー(テレビ番組司会者・実業家)

「3つの水準」フレームワーク

従業員を解雇するのは簡単なことではない。これまでに紹介した一流のリーダーたちは、どんな犠牲を払ってでも企業文化を守ることの重要性を理解しているが、従業員を解雇せざるをえないときの難しさ、苦悩、葛藤についても語っている。

この心理的摩擦と、そこから生じるオストリッチ効果(脅威から身を隠せば、やがて危険は過ぎ去るという考え)が判断を先延ばしにし、やるべきだとわかっていることを避ける原因となる。

これを踏まえて、シンプルなフレームワークを作成した。この10年間、我が社の経営陣が利用してきたもので、そうした摩擦を見抜き、どのメンバーを採用し、昇進させ、解雇すべきかを明らかにするのに役立つ。名づけて「3つの水準」フレームワークだ。



はじめに、該当のメンバーに関して、自分自身(または経営陣)にごくシンプルな質問をする。「組織で全員の価値観、姿勢、才能がこの従業員と同レベルだったら、水準(平均)は上がるか、変わらないか、下がるか?」

この質問は、チーム全員の物ごとに対する見方、経験、関心、思考の多様性、実体験、世界観が類似していることを望んでいるわけではない。あくまで企業文化の価値観、基準、姿勢を問うているだけだ。

自分が所属するチーム(仕事でもプライベートでも)で、メンバーの誰か1人を思い浮かべて自分に問いかけてみよう。「チームの全員があの人の文化的価値観を持っていたら、水準は上がるか、変わらないか、下がるか?」

この図に、架空の人物4名を当てはめてみた。こうすれば一目瞭然だろう。マイケル(水準を下げる人)は解雇すべきで、オリバー(水準を上げる人)は管理職に昇進させるべきだ。調査で実証されたように、マイケルはチームの文化に有害な影響を与え、逆にオリバーは役職が上がれば、ポジティブな影響を与える。

このフレームワークは、チームの現在の基準に照らして新入社員を評価する際にも役に立つ。

法則 「3つの水準」で理想のチームをつくる

メンバー1人ひとりに対して、水準を引き上げるよう努力すべきだ。そして、サー・アレックス・ファーガソンのように、過去にどれだけトロフィーを獲得していようと、水準を下げているメンバーがいれば、いますぐ毅然とした行動を取って、尊い集団文化が壊されるのを阻止する必要がある。

[「会社」という言葉の定義は、「人々の集まり」にすぎない。]

写真はすべてイメージです 写真/Shutterstock

執行長日記 THE DIARY OF CEO

スティーヴン・バートレット (著), 清水 由貴子 (翻訳)
「ファーガソン監督の最大の強みはスター選手を移籍させる能力だ」1人のネガティブな人材がチームをダメにしないよう、超一流のリーダーが最優先すべきもの
執行長日記 THE DIARY OF CEO
2025/6/111,870円(税込)352ページISBN: 978-4763141545

世界累計100万部突破!
Uber、アップル、Amazon、Nike、TikTok、コカ・コーラ…
ビジネス界の猛者との共闘で得た学びを
惜しみなく公開した世界的話題書、
ついに日本上陸!


世界を創り変える覇者達から
マーケティングを任される著者が
直接体得した
仕事と人生に効く重要原則33。



【本書より】
たとえば、ある従業員が60万ドルの損失を出したとする。
彼の責任を問われ、「解雇するか?」と訊かれたらこう答えよう。
「とんでもない。彼の研修に60万ドルかけたばかりなのに、なぜその経験をよそに譲らなければならないんだ?」

「世界を動かす超大物たちのリアルな“本物の教え”を訊けるのは、バートレットだけだ――」。
生活から仕事まで、
成功に通底する
人生の質と成果に直結する教え。

【目次より】
法則2 習得の近道は教えること
法則3 口が裂けても反論しない
法則8 悪い習慣は断ち切るな
法則12 毒にも薬にもならないことはするな
法則14 煩わしさが価値を生み出す
法則17 まずは手に取ってもらう
法則18 最初の5秒が肝心
法則21 ライバルより多く失敗する
法則23 ダチョウになるな!
法則25 「なぜこのアイデアは失敗するのか?」
法則26 「スキル」は無価値、「場所」に価値がある
法則28 方法よりも人
法則29 カルト的精神を養え など

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