
東洋大学を除籍されたのに卒業したと言っていた静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)。「卒業証書を検察に提出する」「市長を辞職する」といった約束を次々と破り、もはや最初から守るつもりもなかったのではとの疑いの声も上がる中、今度は「続投の理由」に挙げた内容まで、市職員に迫られて訂正することとなった。
「図書館建設予定地には源泉があるので温浴施設をつくる」
「7月中には辞職したい」と何度も口にしていた田久保市長は7月31日夜に開いた記者会見で「わたくしの公約でもあります新図書館建設計画の中止、そして伊豆高原メガソーラー計画の白紙撤回という、これは私にに与えられた使命、改めてその使命を全身全霊を傾けて実現してまいりたい」と言って、辞職の約束を破棄した。
そしてその“使命”の達成がいかに困難かも強調してみせた。
「現在、メガソーラー計画も新図書館建設計画も水面下で激しく動いております。わたくしたちの大切な財産である伊豆高原の美しい自然、そして山々の森が破壊され、ソーラーパネルで埋め尽くされてしまうといったことから最後までこの地域を守り抜くこと、そして、この唯一無二の宝物のような海が次の世代へと受け継がれていくこと、このことだけは何があっても私はあきらめるわけにはいかない。
そして、就任後1度は達成できたはずの伊東市の新図書館建設事業(の中止)も、今着々と復活の兆しを見せております」(田久保市長)
だが、会見直後からこの説明には無理があるとの指摘が噴出した。
「新図書館建設計画は5月の市長選を争った前市長が進めた総工費42億円といわれる事業で、田久保市長はこの白紙化を公約に掲げました。そして当選翌日には市長は入札手続きを停止しています。ただ、これはいくら公約とはいえかなり問題がある行動で、今その手続きが妥当なのか市議会が調べています。
というのも、この計画は国土交通省の補助金を受ける地域の整備事業の一環で、周辺の商店街の整備事業などにも紐づいてきます。だからいきなり止めると周辺の事業もできなくなる恐れがあるのです。
ところが市長は、図書館建設予定地に『(温浴施設をつくる)可能性を探らせていただいています』と7月上旬の市民との対話集会で発言し、市民から『ハコモノ政治に回帰するのか』との質問を浴びています。“水面下で激しく動いている”のは自分じゃないかという話です」(市関係者)
「市長がいなければメガソーラーは止まらない、ということはない」
もう一つの、メガソーラー計画についても市長の話にうなずく人は少ない。
「田久保市長はもともと伊豆高原のメガソーラー建設計画反対運動に携わり、支援者のコアメンバーは移住してきた高齢者でこの反対運動に参加した人が多い印象です。
この計画は元々韓国系企業がメインで行なっており、『なぜ住民でもない外国人が自分たちの生活を脅かすんだ』というヘイト感情を持つような人間もいます。
しかし、メガソーラーはすでに市議会が反対を決議した上、開発を止める条例もできています。工事をするには工事車両が通る橋を川に掛けなければいけません。
その河川占有許可をめぐり業者との訴訟が続いていますが、伊東市は許可は出しませんよとストップをかけている。つまり、もうすでに止まった事業なんです」(市議)
こうした認識は市内だけではない。静岡県副知事として伊豆高原のメガソーラー計画に対応した経験を持つ静岡市の難波喬司市長は8月6日の定例記者会見で、「伊東のメガソーラーがどういう状態にあるのかについて、事実とは異なるような情報が出ているので、事実関係だけはっきりしておきたい」と切り出して河川占有の許可問題を説明。
その上で「市長がいなければメガソーラーは止まらない、ということはない」と述べた。
あたかも田久保市長の“使命”は存在しない、と言ったも同然のこの発言に市長は黙っていられなかったようで、翌7日の昼すぎに自身のXに、
〈事業は止まっているだけで裁判は続いていますし、私が公約に掲げているのはメガソーラー事業の一時停止ではなく「完全白紙撤回」です。
それなのに何故、このタイミングで突然、このようなコメントを出す必要があるのか。 伊豆高原だけではない、メガソーラーの問題は今、全国各地で激しく動いていてどの地区も苦しい戦いを続けています。〉
と反論した。
田久保市長自身が「メガソーラー関係は終わりなので」
ところが今回の問題が拡大する前、他でもない田久保市長自身が難波市長と同じことを言っていたことが分かった。
「彼女が市長に就任した直後、メガソーラーの関連事業者と市役所ですれ違ったことを市長に話したら、『河川の許可が降りることは無くなりましたからメガソーラー関係は終わりです』と言われました。要は言うことがコロコロ変わるんです。
職員の間では市長は会見などで追い詰められると人格が交代して辛い状況から脱出してるんじゃないかという話まで出ています」(市議)
そうした職員からの動きとして、8月2日に市の全ての部長が田久保市長に辞職を要求。そして迎えた8日午前、政策会議にて幹部職員の不満が爆発した。
「職員側が“水面下の激しい動き”という田久保市長の発言の真意をただすと、市長は河川占用許可などをめぐる事業者側との訴訟を指しているとの説明をしました。これに幹部らは『周知の事実じゃないか』と訂正を求め、市長が受け入れたのです」(地元記者)
同日午後、市のホームページには、
〈「水面下で激しく動いている」という発言につきまして、水面下という言葉が市民のみなさまの不安や疑念を招く恐れがあるのではないか、といった趣旨の指摘が政策会議の場でございました。この指摘を重く受け止めまして「水面下で激しく動いている」という発言を訂正し、(中略)より一層の行政の透明化に励んで参ります。〉
との田久保市長名の声明が掲載されたが、発言をどう訂正するのかは書かれていない。「激しく動いている」事実がないのであれば、田久保市長がその職に居続ける理由はもはやないに等しいといえるのではないか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班