〈水の事故が過去10年で最多〉“ライフジャケット” 非着用時の死者・行方不明者は3割増も保護者からは「かさばる」の声も…“レンタル”で広がる命を守る取り組み
〈水の事故が過去10年で最多〉“ライフジャケット” 非着用時の死者・行方不明者は3割増も保護者からは「かさばる」の声も…“レンタル”で広がる命を守る取り組み

帰省先や旅行先で、水辺でのレジャーを楽しむ人も増えるこの時期、毎年のように報道されるのが水の事故だ。警察庁の資料によれば、昨年の水難事故は過去10年間で最多となり、事故防止に向けた安全対策が万全とは言えない状況にある。

中でも依然として普及しない「ライフジャケット」が抱える課題と今後の展望について、マリンスポーツ財団に話を聞いた。 

「着用」状況は13%…伸び悩むライフジャケットの着用率 

お盆を迎え、帰省先や旅行先で海や川のレジャーを楽しむ人も増えるこの時期。いっぽうで、毎年のように水難事故が報道される時期でもある。警察庁の資料によれば、令和6年の全国の水難事故は1535件、水難者は1753人にのぼり、過去10年間で最多を記録した。

同資料では、水難事故の防止対策として「危険個所の把握」「的確な状況判断」「遊泳時の安全確保」「保護者等の付き添い」とともに、「ライフジャケットの活用」を挙げている。

しかし、東京都が今年3月に公表した報告書(『東京都商品等安全対策協議会報告書「水辺のレジャーにおけるライフジャケットの着用と安全な使用」』東京都生活文化スポーツ局)によれば、「水遊び・遊泳中」のライフジャケットの「着用」状況は13%(中学生以上2.5%、子ども21.3%)、「所有」状況については「大人用(中学生以上)」が19.6%、「子ども用(小学生以下)」が37.8%と、いずれも低い割合となっている。

なぜ、事故防止のためにライフジャケットの着用が推奨されているにもかかわらず、普及しないのか。

小学生の子どもを持つ編集部の記者は次のように話した。

「ライフジャケットはとにかくかさばるのが難点。車がないと持ち運びが面倒だと思います。うちは車があるので、子どものためにライフジャケットを買いました。子どもは『浮き輪のほうが楽しい』って言うけど、特に川遊びのときとか、人が少ないビーチで遊ぶときとかは怖いから必ずライフジャケットを着せるようにしていますね」

また、40代の母親は次のように話した。

「そもそも『ライフジャケットを持とう』という発想がないです。

子どもを連れて行くとしたらプールか海の遊泳OKのエリアだけなので、浮き輪しか持っていないですね」

さらに、ライフジャケットを着用したときの“思わぬ副作用”について次のような声も。ある母親は次のように打ち明けた。

「沖縄でシュノーケリング体験をするときは、いつも業者さんから借りたライフジャケットを着ています。でも、波に揺られながら海中を眺めていると、ちょっと酔ってしまうときがあって…。なので、本当はよくないと思いつつ、たまにライフジャケットを脱いで潜るときもあります。そのほうが自由に動けるし楽なので」

いっぽうで、都内に住む父親は「安全のためには必要」という。

「旅行用の荷物がいっぱいになっちゃうけど、子どもの安全のためには必要だと思って、子ども用のライフジャケットだけは買いました。今は安全基準を満たした可愛い柄のものもネットで売っているので、子どもが好きな魚柄のものを買って、子どもも喜んでいます」

ライフジャケットの「レンタルステーション」という新たな取り組み

前述の東京都の報告書によれば、過去10年間の水難時におけるライフジャケット着用状況は「遊泳中」が4.2%、「磯遊び中」が1.8%と、その割合はかなり低い。

さらに、死者・行方不明者の割合は「ライフジャケット着用時」が「非着用時」にくらべて1~3割程度低くなっているという。ライフジャケットを着用したほうがより安全であるにもかかわらず、その所有や着用が進まない現状がある。

同報告書によれば、ライフジャケットを持たない理由として、「使用頻度の少ないから」「レンタルすればよいから」「危険性が少ない水辺でしか遊ばないから」「持ち運びや保管時にかさばるから」といった意見が多く見られ、改善のために「持ち運び・保管のしやすさ」「動きやすさ」「メンテナンスの容易さ」などを要望する声があがっているという。

こうした現状を踏まえ、水辺における事故の防止に向けて、ライフジャケットを無料で貸し出す取り組みが行なわれている。ライフジャケットの「レンタルステーション」設置活動を推進している公益財団法人マリンスポーツ財団の担当者に話を聞いた。

「本事業は、アメリカで行われている先進的な取り組みを参考に、IBWSS(International Boating and Water Safety Summit)視察をきっかけとしてスタートしました。2015年には、神奈川県の逗子海水浴場、静岡県の浜名湖・新居弁天海水浴場、弁天島海水浴場の3カ所で試験的に運用を開始し、以降全国各地へと展開を広げています。

現在は全国約60ヶ所、延べ600着以上を配備しており、2024年度は延べ10,359人の貸し出し実績があります」

このように話す担当者によれば、ライフジャケットの着用が進まない要因の一つとして「依然としてその存在や重要性が広く認知されていないこと」が挙げられるという。

特に、「ライフジャケットは乗船時の必需品という認識はあっても、釣りや遊泳など水辺のレジャー全般で着用するものという印象はまだ薄いのが現状」だと話した。

「デザイン性の高いライフジャケットの製作にも取り組んでいます」

同財団では、ライフジャケットをより身近な「安全のツール」として印象付けるために、さまざまな活動を展開。

「SNSやYouTubeを活用した情報発信」「各地のイベント会場での着用推進活動」に加え、着用や購入へのハードルを下げるための取り組みを行なっている。

「『ライフジャケットレンタルステーション』を通じて、初めて着用する機会を提供し、実際に体験してもらうことにも力を入れています。さらに、より多くの人が『着たくなる』デザイン性の高いライフジャケットの製作にも取り組んでいます。

いっぽうで、キャンペーンなどでは『どこに売っているのか』『何を選べばよいのか』といった問い合わせも多く寄せられます。今後は、用途別の選び方や安全基準をわかりやすく提示する仕組みを整えることで、着用の裾野をさらに広げていきたいと考えています」

「レンタルステーション」で実際に利用した人からは、

「海水浴に行く際にライフジャケットを自宅から持って行かなくてよくなるので、荷物にならずに海で楽しく遊ぶことができる」
「浮き輪を忘れてしまった際にも、安心して海水浴を楽しむことができた」
「無料での貸し出しがありがたい」
「海水浴場を選ぶ際にレンタルステーションがある海水浴場を選ぶようにしている」

といった声が届いていると担当者は話した。

一部の報道によれば、自治体などでもライフジャケットのレンタルを推進する動きが加速しているという。海のレジャーや川遊びが「夏の楽しい思い出」となるのは、安心・安全に楽しめてこそ。

子どものみならず、大人もしっかりとライフジャケットを着用した上で、夏を満喫してほしい。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

編集部おすすめ