
さきの参院選では参政党をはじめとする新興政党が大きく票を伸ばしたものの、石丸伸二氏が率いた「再生の道」は都議選に続き、その注目度とは裏腹に議席を獲得できなかった。 これを受け、石丸氏は代表を辞任する意向を固めたともいわれている。
再生の道が急速に失速してしまった原因
さきの参院選では、鳴り物入りで登場した新党の明暗も分かれた。今回、新党について、再生の道と参政党を比較することで、現代の選挙戦におけるSNSとオールドメディアの関係について深掘りしてみたい。
再生の道は石丸伸二元安芸高田市長率いる新党である。昨年の東京都知事選挙でSNSを活用して旋風を起こしたとされ、同知事選挙直後では本年の参院選の台風の目として警戒される一幕もあった。
しかし、再生の道は下馬評に反して急速に失速してしまった。この原因は何だったのだろうか。明らかな原因の一つは、石丸氏の政治に対する冷笑的な態度であろう。
都知事選挙直後から繰り返された、冷たさを感じさせるその態度は、熱狂的な支持者以外の人々から、石丸氏への関心を失わせるには十分なものであった。
そもそも石丸氏が昨年の都知事選で有力候補者になった理由は、実は彼が忌み嫌っているように見えた「オールドメディア」による影響が大きかった。
同選挙では、現職の小池百合子都知事がほとんど選挙活動を実施しない「東京都民の選挙に対する関心を下げる」戦略を実行していた。
小池知事は選挙活動期間中も粛々と公務を継続し、対抗馬として注目された蓮舫氏は共産党との連携によって自滅し、オールドメディアは都知事選というお祭りにおいて取材ネタが不足している状態にあった。
そこで、オールドメディアはSNSを活用して急上昇していた石丸氏の人気に目を付けて、彼を主要候補者として大々的に取り上げた。すると、そのこと自体が再びSNS上の注目に跳ね返ることで、最終的には石丸氏の街頭演説等がお祭り騒ぎ状態になる事態に繋がった。
石丸氏が得た同選挙での人気は、初期段階はSNSを通じて広がったが、途中からオールドメディアが作り上げた選挙の構図に乗っかったものだった。
党首が立候補しない政党など相手にされない
ところが、今回の参院選では状況が全く異なっていた。そもそもメディアは政党要件を満たしていない政党を大々的に取り上げることはしない。
また、小池都知事がほぼ何もしなかった都知事選と比べて、国政選挙では百戦錬磨の政党・政治家らが十分なリソースを投入して活動している。党首が立候補しない政党など相手にしないのは当然であった。
さらに、石丸氏の政党運営のド素人ぶりが主要メディアから事実上無視される事態に拍車をかけた。それは都議選での候補者の無計画な濫立による大敗である。
彼我の戦力差を無視した複数候補者の同一選挙区での擁立など、その非現実な選挙戦のやり方は、オールドメディアの記者たちを呆れさせた。
結果は石丸氏の神通力を信じた候補者が無駄に使い捨てられ、都議選で一議席も確保できない有様は惨憺たるものであった。
新興政党は一度でも負けぐせがつけば政党も政治家もほぼ終わる。都議選時の再生の道の姿は残された期待値を雲散霧消させてしまった。
考えてみれば、石丸氏には組織的な選挙経験は無く、選挙を勘違いしたド素人による政党運営の末路であったと言えるだろう。
もちろん誰にでも間違いはあるので、同党から都議選や参院選に立候補した志ある人々には別の機会で再び頑張ってほしい。
現場のたたき上げの選挙で苦労してきた参政党
一方、今回の参院選で躍進した参政党は、再生の道とは全く成り立ちが異なる政党だ。そもそも代表を務める神谷宗幣氏は地方議員出身者である。
経歴も決してピカピカとは言えず、現場のたたき上げの選挙で苦労してきた人物だ。若き日には全国の地方議員のネットワークである龍馬プロジェクトを立ち上げ、現場で多くの選挙の在り方を見てきた。
また、神谷氏は自民党から勝ち目がない選挙区で衆議院議員選挙に立候補した経験もある。
その神谷氏が目指した政党づくりは党員によって支えられた選挙である。もちろん新興政党らしく参政党にとってもSNSが主要な広報媒体であるが、そのSNSで集めた党員が現場レベルの組織に落とし込まれている点が他の政党とは決定的に異なる点だ。
また、参政党は結党以来、地方議会議員選挙で地道に勝利を重ねてきている。その原動力は衆議院全小選挙区に設置された党支部であり、同支部に所属する党員の存在である。
都議選ではリソースを集中…風が吹かなくても戦える
これらの支部の設立は、一定数の党員が集まることで、党本部から設立が認められる。したがって、地域にしっかりとした足腰となる選挙基盤がなくてはならない。
参政党は選挙運営のイロハを踏まえた設計がなされており、選挙戦で風が吹かなかったとしても、地上戦のみで戦うだけの戦力が整っていたと言えるだろう。
参政党の選挙眼も極めて正確だ。再生の道がド素人の選挙戦を展開して大敗した東京都議会議員選挙で、参政党は4選挙区で戦って3議席を獲得している。
参政党がリソースを集中して戦ったのは、当選者数が多い選挙区に絞られていた。そのため、新興政党にとって登竜門となる都議選で成果を上げて、政党に勝ち癖を付けることに成功した。
当然であるが、都議選の当選を受けて、オールドメディアも参政党に注目せざるを得なくなった。その上で、さらに梅村みずほ参議院議員を引き抜くことで、衆参合計5人の国会議員体制を作り上げ、同党はオールドメディアに出演する権利を勝ち取った。
従来までは完全に無視を決め込んでいたオールドメディアが参政党について報道せざるを得なくなり、それが今回の参院選での躍進に繋がることになった。実に計画的かつプロフェッショナルとしての仕事ぶりだ。
地道かつ着実なやり方を好む神谷氏の差配による面も大きいだろうが、同党に極めて優れた選挙参謀がいることが示唆される結果だ。
政治家の「真の器」次第ということになる
再生の道と参政党の両党を比較してみると、現状のSNSの限界とオールドメディアの力が浮き彫りとなる。
まず、SNSは特定の候補者の最初のスタートダッシュを支えることができる。そして、SNSで押し上げられた候補者は一時的にネットの風を受けて発信力を得ることができる。
しかし、その状態から本物の政治力を持てるかは、その政治家の「真の器」次第ということになる。
特に注意しなくてはならないのは、SNSでの人気に目を付けたオールドメディアが盛り上げる「時の人を作る力」の副作用だ。オールドメディアの能力は衰えつつあるとはいえ、依然として渦中の人物やその支持者を勘違いさせるだけの魔性の力を持っている。
SNSとオールドメディアとの相乗効果
SNSで人気なように見えても、実態としてはその人気はオールドメディアとの相乗効果による面が大きいことはしっかりと認識されるべきである。
それらをSNS上の人気として勘違いすると、その政治家はそこで終わりということになる。オールドメディアの影響力は依然として大きいと判断するべきだ。
今のところ、参政党は再生の道と同じ轍を踏むことは無さそうではある。しかし、それは同党の代表である神谷氏に限ってのことである可能性が高い。
新たに誕生した国会議員にまで神谷氏が今までやってきた冷静な計算に基づく政治行動ができるかはわからない。むしろ彼らが神谷氏の態度を十分に理解することもなく模倣するようになれば、参政党のブランドイメージは回復不能なまでに著しく傷つくことになるだろう。
また、参政党にはオールドメディアによる注目(バッシング)が継続する。神谷氏がそれをうまく乗りこなすことによって、現場での地盤作りにさらに利用していくことができるのか。
最終的にはSNSにもオールドメディアにも依存しない、本当の地力を持った政党に化けることができるのか。今後の参政党の政党運営の動向に注目していきたい。
文/渡瀬裕哉