マンション高騰で人気爆発「狭小住宅」のデカすぎる落とし穴…怒涛の営業トークでうっかり買った人を待つツライ運命
マンション高騰で人気爆発「狭小住宅」のデカすぎる落とし穴…怒涛の営業トークでうっかり買った人を待つツライ運命

マンションが高すぎる――。近年、メディアはこの話題で持ち切りである。

不動産経済研究所によると、2025年1~6月の東京23区の新築マンション価格の平均価格は前年同期比20%増の1億3064万円と、過去最高値を更新した。新型コロナウイルス禍前の19年と比べると、実に7割上昇している計算だ。そんな中で注目を集め続けているのが「狭小住宅」だ。リーズナブルな価格で東京に家を持てるということで人気だが、不動産に詳しいジャーナリストの築地コンフィデンシャル氏が、その落とし穴を指摘する。 

マンションではなく狭小戸建てがファーストチョイスに 

マンション市場は現在、バブル期以来の盛り上がり方を見せている。

新築に手が届かないのであればと中古に目を向ける人も多いが、中古市場も更に過熱しているから始末が悪い。

東京カンテイによると、8月の東京23区の中古マンション(面積70㎡換算)は前年同月比38%増の1億721万円。新築に手が出ない人が中古マーケットになだれ込んでおり、中古でも1億円超えが当たり前となっている。

かつての手の届かない存在の象徴だった「億ション」だが、令和の東京ではもはや住宅購入の前提条件となりつつある。日銀の金融緩和の終了に伴い、住宅ローンの金利は上昇し支払い負担は増えているが、価格上昇は止まる気配がなく、むしろ加速しているのが実情だ。

こうした状況下、近年、人気を博しているのが3階建の狭小戸建てだ。狭い敷地に同じような建物がぎゅうぎゅう詰めに建つ光景は、都内周縁部では珍しいものではなくなった。それもそのはず、狭小戸建てはマンションに比べ、価格が圧倒的に安いのだ。

東京カンテイによると、都内の新築狭小戸建ての平均価格は8月時点で7163万円にとどまる。共働き世帯のパワーカップルといえども、1億円のローンを組める層は多くない。特に30代から40代のはじめて住宅を買う一次取得者層にとっては、マンションではなく狭小戸建てがファーストチョイスになりつつある。

この市場の王者ともいえる存在が、「東京に、家を持とう」をキャッチフレーズに業績を拡大してきたオープンハウスだ。首都圏の駅前で、「家、探してませんか?」とチラシを片手に営業活動をしている人を見たことはないだろうか。

少しでも足を止めようものなら怒涛の営業トークを繰り広げる彼らの存在は、ここ10年ほどですっかり定着した。それもそのはず、同社の2025年9月期の売上高は1兆3100億円、純利益は1000億円の見通しで、それぞれ10年前の7倍以上に拡大している。

1997年創業の会社ながら、こと住宅分野においては、三井不動産や住友不動産といった財閥系デベロッパーと肩を並べる存在になりつつある。

実際にオープンハウスの販売する住宅を訪れると、売れる理由は一目瞭然だ。50㎡程度の狭い土地という制約条件がありながら、空間を無駄なく利用しており、延床面積は80㎡程度を確保。階段が狭かったり3階の屋根が急だったりと注文点がないわけではないが、家族4人で暮らすには十分だ。

近年、マンションは3LDKでも60㎡程度の物件が増えているので、相対的に広い狭小戸建てのメリットは増している。

加えて管理費や共益費、駐車場代といったコストもかからないため、近隣に建つマンションに比べ月々の維持費を数万円単位で抑えることができるという点も地味に大きい。

急成長「オープンハウス」の同業者も舌を巻く営業力

「オープンハウスの最大の強みは土地の仕入れと設計だ」

大手ハウスメーカーの社員はこう語る。相続税が高い日本では、昭和時代に建設された家や工場跡地、倉庫などが持ち主の死去や廃業に伴い売られることがある。

こうした情報をいち早く嗅ぎつける能力がピカイチだというのだ。同社は土地の仕入れ専門の社員を数多く抱えており、地場の不動産仲介会社に毎日のように足を運び、新しい土地が売りに出ていないかを確認して回っている。

城東エリアで不動産仲介会社を経営する男性はオープンハウスの社員について「あまりにもしつこいので出禁にしても、翌日にはまた来る。いまどき珍しい、根性がある若者が多い」と呆れながらも感心する。

自ら汗をかき、靴底をすり減らして情報を集める仕入れ部隊のたくましさは、体育会系気質の企業が多い不動産業界でも群を抜いていると業界関係者は口を揃える。

一方、「営業や仕入れだけ見ると体育会系の会社のようだが、裏で動く設計部隊こそが肝だ」と前述のハウスメーカー社員は分析する。

建築規制などの制限の中で床面積を捻出する技術もさることながら、仕入れた土地情報をもとに、形や面積からどれだけ分筆すれば何軒の住宅を建てることができるかを即座に計算し、損益分岐点から購入価格を弾き出す独自のノウハウは他社にはないものだ。

前述の不動産仲介の経営者も「人気が出そうな土地でも条件が合わなければ購入しないし、形が悪い土地でも採算が合うと判断すれば買う。AIを相手にしているようだ」と舌を巻く。

土地が売られたという情報を他社よりも早く入手する情報感度の高さに加え、買い取り価格を即座に提示する即決即断型のシステムは、土地を早く売って現金化したい人にとってもメリットが大きい。



こうして仕入れた土地に、建築資材の大量調達と規格化によって原価を抑えた戸建てを建てるビジネスは完成度が高く、競合他社では太刀打ちできないレベルだという。

オープンハウスの躍進を支える隠れた追い風となっているのが、東京都の政策だ。保育園の無償化、子ども1人につき毎月5000円を貰える「018サポート」、出産時にもらえる10万円相当の育児グッズ、私立中学校の授業料補助、大学生向けの海外留学費用支援……ここ数年間、小池百合子知事の下で次々と導入された子育て世帯への支援は手厚く、有形無形の支援も合わせ、東京と周辺県では子育てをする上で雲泥の差が生じている。

高齢化で放出される家屋が増え、今後も狭小戸建てが増加

同社は東京23区といっても大田区や足立区、葛飾区といった、住宅地としては比較的人気が高くないエリアを主戦場としており、「購入価格を抑えながらも東京にこだわりたい」というニーズを上手く捉えている。

荒川区のように、狭小住宅の急増にブレーキをかけるべく規制を導入する自治体もあるものの、若い世帯の獲得競争に遅れをとることになるという事情もあり、あまり広がっていないのが実情だ。高齢化により放出される家屋が増える中、今後も狭小戸建てが増加することはほぼ確実な情勢だ

現役世代のニーズを汲み取って雨後の筍のごとく増えている狭小戸建てだが、購入者を待ち受けるのはバラ色の未来ではない。

「中古市場では狭小戸建てはあまり人気がない」

前述の城東エリアの不動産仲介会社社長はこう断言する。手頃な価格で新築の物件が大量に供給されるという状況下、わざわざ中古物件を購入したがる人は決して多くはない。

過去10年間、都内ではファミリータイプの築浅マンションはほとんどの物件で値上がりしているが、狭小戸建ては購入価格を下回る価格で取引されることも多い。現在の東京のマンション価格を支えているのでは実需だけではなく、将来の値上がりを見越した半分実需、半分投資の「半住半投」という形の投資マネーの存在がある。

しかし、狭小戸建てに関しては、こうした資金の流入は限定的だ。少なくとも、積極的に売却益を狙うタイプの不動産でないことは頭の片隅に入れておく必要があるだろう。



先程紹介した通り、マンションと異なり修繕積立金がないためランニングコストが低いのは狭小戸建ての大きなメリットだが、裏を返せば自分で修繕費用を積み立てておく必要があるということだ。

外壁や屋根、配管など、築20年を超えた物件は数十万、時には100万円を超えるような出費を覚悟する必要がある。隣の家との間隔が狭くて足場が組めないというケースもあり、面積の割に、高くなる可能性もある。

マンションのように大規模修繕を前に売り逃げるという訳にもいかず、長い付き合いを覚悟した上で購入すべきものだが、大半の購入者はそこまで深く考えていないというのが実情だ。

高齢化が進む中、階段の上り下りが必要な狭小戸建てが長期的に価値を保つのは難しいだろう。しかし、はじめて家を購入する子育て世帯にとっては、狭小戸建てが最適解になるのもまた事実。

時代が生んだ寵児か、それとも徒花(あだばな)として将来の負債になるのか。最終的に狭小戸建てに評価を下すまでには、もう少し時間がかかりそうだ。

文/築地コンフィデンシャル

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