投資で成功したいなら、銘柄選びよりも大切なことがある。それは世の中の仕組みを理解し、自分で考える力を養うことだ。
新刊『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』より一部抜粋・再構成してお届けする。
一番重要な投資先は自分―年収は市場価格
社会人として仕事をして報酬を得ている人に一度考えて欲しいことがあります。最も有望な投資先はどこでしょうか。答えは「自分自身」です。自分自身こそが最も高いリターンをもたらす投資対象です。
たとえば月給20万円を稼ぐ人が、同じ20万円を毎月株式や債券投資で稼ぐのは容易ではありません。膨大な投資金額があるなら別ですが、一般的な投資額ではほぼ不可能です。
だからこそ、自分の知識や経験、スキルを高めるために投資して自分の市場価値を高め、収入を増やすように試みることこそが、最も効率の良い投資なのです。学生であればなおさらです。社会に出るまでの時間を、自分を磨くための投資期間として使うことが、最も効率の良い投資です。
金融資産への投資はもちろん大切ですし、私はこの本を通じてむしろそれを推奨したいと思っていますが、そればかりに時間をかけて本業・学業を疎かにしてしまっては本末転倒です。
この本の最後の方で、日本経済の問題点として日本の雇用慣行を挙げたいと思っているのですが、ちょうど話の流れとして良いタイミングなので、外資系金融機関の年収の話をしたいと思います。ただ、残念ながら金額の話はできません。金額の話は同僚の間でもご法度なのです。
JPモルガンに勤めていた当時、頻繁に2人で呑み歩き、今では夫婦同士で一緒にゴルフをしたり、ラグビー観戦に行ったりする、当時は同じマネージング・ディレクターだった仲良しの同僚がいます。
それだけ頻繁に会っている元同僚ですが、彼の年収がいくらだったのかはまったく知りません。細かい数字が分からないというレベルではなく、大雑把なレベルも分かりません。なぜそこまで分からないかというと、同じ職位でも年収は倍以上違うケースがあるからです。
外資系金融機関というと、個人個人が年収の交渉をするようなイメージを持つ人も多いかもしれません。もちろん、そういう人やケースも多いのかもしれませんが、私が20年在籍したJPモルガンではそうした行為はあまり一般的ではなかったですし、あまり好まれなかった気がします。
投資の勉強は、世の中の仕組みの勉強
年収は会社が決めるものですが、それを受け入れるかどうかは自分が決めることです。「自分はこんなに頑張っているのに、これしか給料がもらえない」と不満を口にするなら、自分をより高く評価してくれて、より高い給料を払ってくれる会社に転職すればよいのです。
給料は雇用市場というマーケットで決められている価格です。
「こんなに働いているのに、これしか給料がもらえない」と不満を口にし続けている人は「給料以上の仕事」をしません。つまりマーケットで決められる給料は上がりません。一方、「給料分の仕事はしなきゃいけない」と思って働いている人は、「給料以上の仕事」をしがちです。そういう人の給料はマーケットでつり上がっていきます。
つまり、今の年収が低いと不満があるなら自分で行動すればよいのです。
投資の勉強をする際、経済理論や金融市場の仕組み、株式、債券、為替市場などについて勉強することはもちろんお勧めします。ただ、それ以上に大切なのは、「世の中全体の仕組みを理解すること」だと私は思います。
私自身、自分で言うのもなんですが、金融市場や不動産への投資で今のところ一定の成果を上げてきました。ただ、それは私が専門的な理論を深く理解していたからではありません。むしろ、「お金とは何か」「社会はどう動いているのか」という根本的な仕組みを考えてきたことが、判断の基盤になっていたと思います。
世の中には「本当にそう?」と首をかしげたくなる通説がよくあります。ほんの数年前まで、日本ではデフレは悪で、インフレが目指すべき方向だと信じられていました。円高が悪で、円安が目指すべき方向とも信じられていました。
しかし、普通に考えて、資産や外貨をそれほど多く所有しているわけではない一般国民にとって、どうしてインフレや円安が良いのでしょうか。食料やエネルギーを海外からの輸入に頼っている日本の通貨が弱くなることがどうして望ましいのでしょうか。
ただし、デフレや円高の方が良いと言いたいわけではありません。問題の本質はデフレ・インフレ、円高・円安ではないと思っているのです。世の中の物事は、人、立場によって同じ事象でもプラスである場合とマイナスである場合がほとんどです。
毎日が情報収集―友人・同僚との会話からヒントを得る
一概に何が正しいと言い切るのは難しいです。だから、世の中の仕組みがどのようになっているのかを理解することが大事だと思っています。誰かの意見を鵜呑みにせず、「本当にそうなのだろうか」と考えて、自分で調べるようにしてください。
そのだれかは自分が見える世界だけで物事の良し悪しを考えている可能性があります。そのだれかの意見は自分や自分の家族、親戚、大切な友人にとっても本当に良いことなのか考えてみてください。
ひとつエピソードを紹介したいと思います。あれはちょうどアベノミクスで株価が上昇し、日本の景況感が良くなってきた時でした。会社の同僚たちと談笑をしていた時に、ある若手が「株価が上昇して景況感が良くなって、消費が上向いているなんて言われてますけど、僕の周りで新しい家電を買ったとか、そんな景気のいい話なんてまったく聞かないですよ」と言ったのです。実は、私、その前の週末に新しいテレビを購入していたのです。その時、「自分の周りの世界」は本当に狭いんだなと思いました。
新幹線に乗ってボーッと窓から外を見ていると、いつまでも街が続きます。それを見ていると、私の目の中に入ってくる家一軒一軒に住んでいる人たちが、何を考え、どう行動しているかを把握するのは不可能だと思います。
しかし、だからこそ、可能な限り情報を収集し、世の中で今後なにが起きそうか察知することの価値は高いと思います。日々の友人や同僚との会話にもアンテナを伸ばしていることが重要だと思います。
投資に関しても、時折「なにに投資したら儲かりますか」などと聞かれることがあります。そうした問いに対してストレートに答えるのは難しいと思います。なぜなら、本来「なにに投資したらよいか」を考えるプロセスの方が重要だからです。
日々の友人や同僚との会話、メディアから流れるニュースなど、断片的な情報を自分なりにつなげて、自分なりの結論を考える。本当に聞くべきなのは、その断片的な情報なのではないかと思います。
その結果、あなたは別の投資対象を結論として選ぶことになるかもしれないからです。そうした思考プロセスを経ずに、単に投資対象をだれかから聞いてそれに投資しているだけでは、投資は成功しないと思います。
文/佐々木融 写真/PhotoAC
『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』(日経BP 日本経済新聞出版)
佐々木融
【内容紹介】
円の価値が毀損し続ける中、どのように自分の資産を守るべきか
「いつか円高に戻る」という過去の経験則は通用しない
本書は、為替の第一人者が、円安の根本原因を解き明かし、今後起こりうるシナリオと防衛策を提示する。静かに進行する危機の本質を把握し、インフレの時勢を生き抜くための一冊。
【著者より】
今回の本では、強かった円がなぜ弱くなってしまったのかという構造変化を中心に解説し、今後の見通しについても私の見方をご紹介したいと思います。
「円」という紙切れは今、信用を失い、取り戻せなくなる瀬戸際に立っているような気がします。正直なところ「時既に遅し」と思っているのですが、それでも本書を書くことによって、少しでも多くの人がそれに備えることができればと思っています。
【目次】
第一章 お金、投資、マーケットのそもそも
第二章 なぜ円はこれほどまでに弱くなったのか
第三章 日本政府の借金はなにが問題なのか
第四章 マイナスの実質金利から抜け出せない円
第五章 止められない日本からの資金流出
第六章 失われた30年はなぜ失われたのか——取り戻すために必要なこと

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