90年代のCDセールス黄金期の牽引役と言えば、「ビーイング系」「小室ファミリー」が双璧だろう。どちらも多くのアーティストを抱え、時代を彩る名曲の数々を生み出しているが、それぞれがブームの絶頂期に超豪華なコラボ曲を出しているのはご存知だろうか?
今回はその2大コラボ曲を振り返りたい。


ZYYG,REV,ZARD&WANDS feat.長嶋茂雄『果てしない夢を』(1993年6月9日発売)


ビーイング系のコラボ曲のプロデュースは長戸大幸。ビーイングの創業者にして稀代の名プロデューサーだ。
オリコン週間シングルチャートで2位となっているが、1位は同じくビーイングのB’z『裸足の女神』であり、しかも6月21日~7月5日に掛けての3週間は1位から5位までをビーイング勢が独占する快挙を成し遂げている。
1993年の年間チャートでは39位、累計売上70万枚と記録上ではスマッシュヒットだが、この年の年間チャートの1位はZARD、2位はWANDS。ビーイングブームの最盛期だったことが伺えそうだ。

■CDセールスの山を築く没個性の精鋭集団

作詞は上杉昇(WANDS)、坂井泉水(ZARD)、作曲は出口雅之(REV)。
この3人プラス、ZYYGの栗林誠一郎、高山征輝の5人がメインボーカルを務め、コーラスには大黒摩季やB.B.クイーンズでも活躍していた近藤房之助ら実力派が参加している。

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しかし、坂井泉水を除いたボーカル4人の顔が思い出せるだろうか?
そもそもビーイング系のバンドやアーティストのアイデンティティは強くない。だがその没個性を活かし、「無色であること」を武器にCMやアニメ、ドラマとの強力なタイアップを組んでCDセールスの山を築いて来ていたのだ。

■巨人軍終身名誉監督、長嶋茂雄氏が歌手として参加

このシングルの肝は長嶋茂雄が参加していることに尽きる。
日本テレビ系のプロ野球中継のテーマソングとして、当時読売ジャイアンツの監督に再就任した「ミスター」をゲストボーカルとして迎え入れたのだ。
と言っても出番はサビの「熱く熱く信じていたい」「ずっとずっと胸に抱きしめ」の部分のみ。超破格の接待カラオケといった趣ながら、抜群の存在感で堂々と歌い上げている。


ちなみに、この年の巨人は3位に終わり、チーム打率は12球団で最下位と低迷したが、翌年には中日ドラゴンズから落合博満を獲得し、その中日を破った上でリーグ優勝を達成。さらに勢いそのままに監督として初の日本一に輝いているのだ。
「果てしない夢を」叶えてしまったミスター、さすがである。

TK presents こねっと『YOU ARE THE ONE』(1997年1月1日発売)


ある意味、匿名性が売りのビーイングに対し、小室は自身を全面に押し出す形でリリースしている。
「こねっと」とは「子供ネットワーク」の略で、小学校にインターネットを普及させようとするプロジェクトの名称。そこで、売上はネットの普及資金に当てられている。

要は、USAフォー・アフリカの『We Are The World』の小室版ということ。

タイトルは元より、アーティスト大集合、チャリティー企画というコンセプトも共通である。
オリコン週間シングルチャートで1位、97年1月度月間チャート1位、同年間チャート7位と堂々たる記録を達成。累計売上も120万枚超えを記録している。

■小室ファミリーのオールスター大集合

作詞、作曲、編曲は小室哲哉で、作詞にはMARC(globe)、DJ KOO(trf)、hitomiも名を連ねている。
1997年時点での小室ファミリー総出演であり、trf(当時)、globe、TMN、H Jungle with tといった小室自身が名を連ねるユニットはもちろん、安室奈美恵、華原朋美、hitomiのような超売れっ子から、観月ありさ、内田有紀、dosに至るまでプロデュースした面々は軒並み参加。

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この時期、小室がなぜかプロデュースしていた大ベテラン甲斐よしひろまでもが参加という大盤振る舞いぶりだ。
さらに「小室の片腕」久保こーじや、彼がプロデュースしていた天方直実(あまがたなおみ)に、エイベックス繋がりでm.c.A・Tまでもが参加となり、総勢24名の大所帯ユニットとなっている。

■マニアならずとも押さえておきたいポイントとは?

高音の安室から超高音の華原にリレーするサビは圧巻。スピーカーのそばにグラスを置いたら振動で割れるんじゃないかと思うほどだ。
内田有紀で始まり観月ありさで締める編成や、trfのダンサー3人にもボーカルパートがあったりするのも意外な聴きどころ。
DJ KOOのラップパートでは、「Hey Ladies & Gentlemen」「BOY MEETS GIRL」などtrfの名曲のタイトルが歌詞となっているのもポイントが高い。


ただ何と言っても、華原朋美、asami、KEIKOと小室の歴代の彼女が一堂に会しているのが今となっては超貴重。冷静に考えると凄い状況である。
そして、KEIKOが歌うサビの歌詞、「ときにはわがままだったり 道を外して恐いけど 結局すごくやさしくて」は小室のこととしか思えないのであった……。

どちらも歌詞やメロディに「いかにも」な特徴が色濃くあり、90年代という時代の息吹を感じる名曲に仕上がっているのは言うまでもない。各アーティストが、たった1曲のために集結しているプレミアム感もたまらない。
昨今のEXILE TRIBEなどのように、ハナから「ファミリー感」を売りにした上で大集合のバーゲンセールをしているのとは価値が違うのである。

(バーグマン田形)