ガンダムといえば、「リアル」。
「宇宙世紀」という歴史軸上で語られる、戦争とSFのリアリティをもった作品。
それまでは、それこそが「ガンダム」が、これまでのロボットアニメと大きく違う点だとされてきた。
SDガンダムやパロディ作品をのぞき、OVA作品でもそこから外れることはなかった。

【歴史の転換点となったGガンダム】


しかし1994年4月から放送された『機動武闘伝Gガンダム』は、そんな“お約束”を、ガンダムというモビルスーツ(厳密には本作で主に登場するのは「モビルファイター」だが)が登場する以外、ほとんどすべてを無視したことで、大きな歴史の転換点になった。
まず、舞台が宇宙世紀ではない。「未来世紀」と呼ばれる世界。そこがもう常道とは全く違う作品であることを意味している。

そして、ガンダムは、闘う。
戦争の兵器としてではない。格闘技「ガンダムファイト」で闘うのである。
ネオジャパン、ネオアメリカ、ネオロシア……。現在の世界と同じ名前のついたスペースコロニーがある世界。それぞれの「国」に所属するガンダムがいて、パイロットである「ガンダムファイター」が、ルールにのって格闘し、雌雄を決する。それが、Gガンダムの世界だ。


【Gガンダム誕生の背景とは】


その背景には、当時は『ストリートファイターII』や『バーチャファイター』など、格闘ゲームが大流行していた時期だったこともある。さらに、K-1など総合格闘技も人気だった。単純にいえば、これをガンダムでやっちゃおうというものだった。各国代表という意味では、『キン肉マン』の超人オリンピックのノリにも通ずる部分もある。

格闘技を取り入れた作品というだけあって、作中の様々なことが、「熱い」。炎や気が舞い上がるド派手な演出、登場キャラたちも、絶叫しまくる。本作には、ガンダムより前の時代に主流だったロボットアニメ、スーパーロボット的熱血アニメの要素も含まれているのである。
「漢」と書いて「オトコ」と読むような。
そして、ファイトの最後には「必殺技」も飛び出す。“シャイニングフィンガー”、“石破天驚拳”、“超級覇王電影弾”……その名称もまた、熱い。

本作の主人公、ネオ・ジャパン代表のドモン・カッシュは、必殺技「ゴッドフィンガー」を使うとき、こう叫ぶ。
「俺の右手が真っ赤に燃える! 勝利をつかめと轟き叫ぶ!!」
……もうアムロ、卒倒しそうな熱さである。

【ブッ飛んでいた各国代表のガンダム】


ただ熱いだけではない。各国代表のガンダムたちのデザインもまた、ブッ飛んでいた。

ネオアメリカがアメフトモチーフで、ネオフランスがナポレオンにバラモチーフのガンダムだったりするところは、まだマトモなほう。
ネオオランダ代表の「ネーデルガンダム」は、収納形態が風車小屋の形。そこに手足が生えて、ガンダムになる。ネオネパール代表の「マンダラガンダム」に至っては、ボディが梵鐘(ぼんしょう)である。腕は数珠っぽい球の連結。頭は仏みたいなデザインだ。


さらに、女性キャラアレンビーが乗る「ノーベルガンダム」は、セーラーカラーに黄色いロングヘア、胸には赤いリボン。そう、「セーラームーン」なのである。
マンモスガンダム、ガンダムゼブラ、スフィンクスガンダムにマタドールガンダム……逆にいえば、どんなデザインでも、“V アンテナにツインアイ”、いわゆる「ガンダム顔」がついていればそれでOK。すべて「ガンダム」なのである。

【人気になったGガンダム】


メインメカデザイナーの大河原邦男はタイムボカンシリーズのメカデザイナーでもある。ビックリドッキリメカをガンダムでやった、ともいえるのかもしれない。

あまりにも別モノ感。あまりにも規格外。そのせいもあってか、放映開始当初は反発もあり、出だしの人気はいまひとつだったそうである。

しかし、素手でモビルファイターをなぎ倒したりするなど、破天荒すぎる活躍と大きな存在感を終盤まで放った、主人公ドモンの師匠、「東方不敗マスター・アジア」の登場と、「デビルガンダム」という謎の敵の存在により、人気がどんどん加速していく。
結果的に作品は成功をおさめたことで、宇宙世紀でなくてもガンダムはOK、という流れもできる転換点ともなった重要な作品である。

その後、宇宙世紀モノでないガンダムは現在にいたるまで数多く作られたが、再び “格闘”的な要素をメインに据えたガンダムが制作されるのは、2010年代になってから。ガンプラ同士がバトルするという、「ガンダムビルドファイターズ」シリーズに結実することとなる。
(太田サトル)