あれは2008年のこと。ゆずの北川悠仁が『イノセント・ラヴ』というフジテレビの月9ドラマで、堀北真希と共に主演を務めていました。
当時、ドラマ『野ブタ。をプロデュース』や映画『ALWAYS 三丁目の夕日』での好演で、評価を上げていた堀北をメインに据えるのは分かります。
しかし、その相手役がなぜ悠仁? そう疑問に感じた人は多いのではないでしょうか。確かに、名は通っているし顔だってイケメンの部類。けれども、ドラマの主演の実績はゼロ。おまけにゆずが人気絶頂の時かと言えばそうでもない。イケメンだったら、他にもっと良い若手俳優がいたのではないかと思える、今考えても謎の配役でした。

北川悠仁が脇役として登場する、2本の連ドラ


北川にとって、この月9ドラマが連ドラ初主演を飾ったタイトルであったのは間違いないのですが、実は俳優デビュー作ではありません。90年代中ごろ、彼は数本の作品に端役として出演しているのです。
1本目が、1997年に放送されたテレビ朝日の『名探偵保健室のオバさん』。松雪泰子が主演をつとめ、仲間由紀恵、水川あさみ、藤木直人など、後の売れっ子俳優が多数出演した伝説の作品です。このドラマにおいて、北川は第5話に生徒会長役でゲスト出演しています。
2本目が、テレビ東京で放送された『エコエコアザラク』。
こちらは、黒魔術を使う女子高生が主人公というオカルトチックな作品。ここでの北川は、しっかりと役名まで賜り、レギュラーとして出演。今と変わらない精悍な顔立ちでありながら、どこか垢抜けなさの残る初々しい演技を披露しています。確かにわずかではあるものの、俳優として活動していたようです。

「女子高生コンクリート詰め殺人事件」を題材にしたVシネに出演したことも


この2作品は、どちらも1997年前半につくられたドラマ。ゆずの結成が1996年3月、メジャーデビューが1998年ですから、音楽活動に本腰を入れる前に最後の俳優活動として出演したのでしょう。ここで「最後の」と書いたのは、上記2作品以前にも、彼は演者として仕事をしていたからです。そして、本人の口から自身の役者時代について積極的に語られない理由は、その「以前の活動」にこそあります。

端的に言うと、1995年から1997年にかけて、彼はVシネマ俳優だったのです。しかも『女家庭教師 不倫の罠』など、ハードそうな内容の作品にばかり出演していました。中でも表題だけで危険さ全開なのが、『女子高生コンクリート詰め殺人事件~壊れたセブンティーンたち』。
1988年に起こった同名の凶悪事件を扱った本作。鬼畜の所業という表現では足りないほど、残忍極まる犯行の一部始終を、映像で再現した作品です。
ここで北川は加害少年役を熱演。演技とは言え、人面獣心というに相応しいその振る舞いは、『夏色』のPVでタンバリンを楽しそうに叩く爽やかな好青年の姿とあまりに乖離しています。

使用済みの生理用品を収集 変態の役も演じた北川悠仁


もう1本の問題作は『オールナイトロング3』という映画。この作品において、北川は主役を務めており、その役どころがかなりキワドイものになっています。
彼が演じる主人公は、女性がゴミ捨て場に捨てた下着などの私物をコレクションするという変態的嗜好をもった男。自室の壁一面に使用済みの生理用品を大量に貼り付けニヤニヤしているシーンもあり、これを見た後だと、「そうだ君に~見せたいものがあるんだ~♪」という『夏色』の歌詞もとんでもないものを見せられる気がしてしまうのだから、印象とは恐ろしいものです。

もしゆずとしてブレイクしていなかったら、北川は売れない個性派俳優の道を歩み続けて今頃は、2時間ドラマの犯人役やすぐ殺される役で、細々と表舞台に出ていたかもしれません。そう考えると、相方・岩沢との出会いは重要な分岐点であり、改めて人の人生は縁で出来ていると痛感させられるというものです。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりイノセント・ラヴ DVD-BOX
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