2016年7月3日、サンフレッチェ広島所属の日本代表FW・浅野拓磨が、イングランドの強豪・アーセナルFCに完全移籍を果たしました。
昨シーズン、Jリーグで32試合に出場し、8得点を挙げて頭角を現したばかりの若き才能に届いたまさかのオファー。
スピードに乗ったドリブルと鋭い得点感覚により、アーセン・ヴェンゲル監督から「才能にあふれた若きストライカー」と高く評価されて、合意にいたったようです。

この浅野のように、日本人がヨーロッパのビッグクラブから引き合いを受けることは、今となっては珍しくありません。2011年に長友がインテル、宇佐美がバイエルン・ミュンヘン、12年には香川がマンチェスター・U、13年には本田がACミランに移籍し、今期も、清武がスペインの強豪・セビージャのユニフォームに袖を通しています。

稲本潤一、伊藤翔、宮市亮…。アーセナルを通り過ぎていった日本人たち


浅野の所属先となったアーセナルにも、かつて日本人選手が籍を置いていました。稲本潤一、宮市亮の2名です。
さらに、現在、横浜F・マリノスに所属する伊藤翔も、高校生の時にトライアウトを受けて話題となっています。全員、浅野同様、将来を嘱望された若者でした。
しかし、このプレミアリーグ屈指の強豪とは全くといっていいいほど縁がなく、皆、格下のクラブへと去っています。このことを鑑みるに、浅野の移籍を手放しに喜んで良いものか、疑問が残ります。

アーセナル、数多くの育成失敗例も


そもそも、アーセナルは、苦しい財政事情から若手の青田買いに活路を見出しているチーム。10代中頃から20代前半の有望株を安値で獲得し、ヴェンゲル監督の手腕によって一流プレイヤーに育成していくというやり方を長らく採用しているのです。ティエリ・アンリ、パトリック・ヴィエラ、セスク・ファブレガスなど、加入してから世界的名手となった成功例はいくつもあります。

けれどその裏で、何倍もの大成しなかった選手がいるのも事実。若手選手というのは、才能が開花したら万々歳だし、仮に伸び悩んだとしても金銭的損失が少なくて済むので、気軽に購入できるという実情もあるのです。

リーグ戦出場時間0分に終わった稲本潤一


稲本も、そんなワールドクラスになれなかった選手の一人。2001年、ガンバ大阪からアーセナルへレンタル移籍。翌年の日韓W杯では、グループステージの初戦と第2戦、共に決勝点を決めるという快挙を成し遂げました。
第2戦はフジテレビで中継していたのですが、試合終了後、中継番組の司会を務めていたジョン・カビラが、ゲスト解説として来ていたヴェンゲルに「Your Boy!!」と興奮気味に語りかけていたのが、今でも忘れられません。
これほど活躍したのに、稲本はプレミアリーグのリーグ戦に一試合も出られずアーセナルを退団。
あの時、なぜヴェンゲルが微妙な笑顔をしていたのか……。カビラが暑苦しいせいかな? と思いきや、稲本の処遇を知っていたが故の表情だったのでしょう。

メディアは過度に期待を煽りすぎ?


稲本が去った後も、日本人選手がこの強豪から目を付けられる度に、サッカーファンは夢見るような気持ちになったものです。メディアはその都度、より心地よく夢を見られるような報道をしました。
06年、伊藤翔がトライアウトを受けたときは「和製アンリ」だと騒ぎ立てました。2010年、宮市亮が5年契約を結んだときも、宇佐美貴史と並ぶ日本のニュースターだと喧伝しました。
次こそは大丈夫……次こそ次こそは……。その最新版が今回の浅野拓磨とも言えるでしょう。

もちろん、激しい競争にもまれて、ワールドクラスのプレイヤーになってくれたらいいに決まっています。ですが浅野の将来を思うなら、過度に期待感を煽らないよう、アーセナルというチームのスタンスを踏まえた上で、慎重な報道を心がけていく必要があるといえるでしょう。
(こじへい)

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