2001年にフジテレビで放送されていた『百萬男』という深夜バラエティを、見たことがある方はいるでしょうか? 作家の筒井康隆が“百萬男”に扮し「そんなに金がほしいならくれてやる!」という決め台詞と共に、街行く人へ無造作に100万円を贈呈するこの番組。
5時間以内に全て使い切らなくてはならないというルールがあるため、選ばれた人は歓喜したのもつかの間、四苦八苦することに。
貯金や借金返済、ギャンブルはダメという縛りの元、果たしてどんなことに100万円を使うのか……。
人間が大金を手にした際の反応、思考が狂っていく様、最後は虚無感に襲われて呆然自失となる姿など、金と人間が織り成すリアルな物語は、視る者を釘付けにする魅力がありました。

番組内容を紹介するフジテレビのHPには、上記のような概要を伝える文言と共に、こうも書かれていました。
"この番組を企画・演出するのは、数多くのヒット番組を手がける放送作家・脚本家のおちまさと。『東京恋人』『仕立屋工場』に続くシリーズ第3弾として時代をフューチャーする番組になるはずだ。こう!ご期待!"

バラエティ番組の企画発案者を、ここまで持ち上げるというのはあまりないこと。
それほどまでにこの時、「おちまさと」は時代を代表するカリスマクリエイターとしてノリに乗っていたのです。

『進め!電波少年』『ウリナリ!!』の放送作家も務めていたおちまさと


もともと90年代前半~中頃から『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』『進め!電波少年』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』『学校へ行こう!』といった人気番組を手掛ける売れっ子放送作家として鳴らしていたおちまさと。
『学校へ行こう!』の人気コーナー「未成年の主張」を発案したのも彼であり、その非凡な企画力は、早くから業界内で注目されていました。
一般的に知名度を得始めたのは90年代後半。プロデューサー業に進出したことがきっかけです。

おちまさと、新しい手触りの番組を次々とプロデュース


彼がプロデュースしたバラエティをざっと紹介しましょう。毎回24人のクリエイターが、女優・加藤あい出演の30秒CMを制作する『24人の加藤あい』、ゲストにビデオカメラを渡し、自身の日常を撮影してもらう『自分電視台 ~Self Produce TV~』、ゲストの芸能人がMCとロケをし、その自然な行動をもとにカウンセリングを行う『グータン~自分探しバラエティ~』など……。
何となく新しさを感じさせる番組を次々とクリエイト。
さらに、ドラマの脚本執筆、楽曲の作詞、ミュージシャンのプロデュース、書籍の出版、雑誌の連載なども担当していました。

ちなみに、この時期、ラジオ番組「ナインティナインのオールナイトニッポン」では、おちまさとをネタにしたコーナーまで登場。これは、リスナーが「おちまさとプロデュースっぽいもの」を考案するという企画で、どんな事象でも最後に「おちまさとプロデュース」と付けば、何となくそれらしく聴こえるということを言いたいだけのコーナーでした。要するにネタになるほど有名な「何でも屋」だったのです。

師匠・テリー伊藤の演出論をプロデュース業に活かしていた


そんな時代の寵児だったおちまさとのルーツを辿ると、テリー伊藤に行き着きます。おちは、『元気が出るテレビ!!』の「放送作家予備校」で同氏に見出されて業界デビューを果たした身。
駆け出しの頃は、テリーを師と仰ぎ、演出家としての方法論を学び取ったといいます。
そのため、いつしか俯瞰的に番組全体を見渡す「総合演出力」が身に付き、そのスキルが、彼をイチ放送作家と言う枠を超え、プロデューサーとして成功させた原因だったのでしょう。

今ではテレビ業界から距離を置き、イベントや企業のプロデュースに精を出しているおちまさと。テレビが面白くなくなった……。そう言われて久しい昨今において、彼のような「創り手側のスター」が登場すれば、何らかの起爆剤になるのかも知れません。
(こじへい)


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