1997年1月、ストーカーをめぐるドラマが相次いで放送された。『ストーカー逃げきれぬ愛』(日本テレビ系)と、『ストーカー・誘う女』(TBS系)である。


日本社会においてストーカーという言葉が認知されたのは1996年ごろである。それまでにも、つきまといなどのストーカー行為は存在したが、男女間の痴情のもつれと片付けられ、重大視されていなかった。
テレビドラマにとっては格好の材料だったのだろう。1997年の1月から3月に早くも2つの“ストーカードラマ”が誕生した。

渡部篤郎の"怪演"が話題に


『ストーカー逃げきれぬ愛』は、男から女へのストーカーを描いた物語である。眼科医の三枝辰也(渡部篤郎)は、クリスマスイブの夜、目の前で患者の女性が自殺してしまう。
病院の前で女性が手にしていたクリスマスローズの花びらを必死に拾い集める三枝。
そこに岸本海(高岡早紀)が通りかかり、手にしていたクリスマスローズの花束を三枝に渡してしまったのが悲劇のはじまりだった。

自分に気があると思い込んだ三枝は、海をつけまわすようになる。三枝は普段は眼科医をしている通り、理知的で聡明な人物であるかのように思われている。だが内面は、陰気で思い込みの激しい性格だ。
留守中の海の家に侵入した三枝は、彼女の髪の毛を舐める、お風呂の残り湯につかるなどやりたい放題である。頻繁に見せるにんまりとした不気味な笑顔はトラウマ必至だ。


主演を務めた高岡早紀は、モデルを経て本作が民放テレビドラマとしては本格的な初主演作となる。ストーカー役の渡部篤郎も、このドラマで知名度をあげた。

雛形あきこが演じたストーカー役


『ストーカー・誘う女』の主演は大手商社勤務のOL、上原ミチル(雛形あきこ)である。彼女は職場の上司である森田柊志(陣内孝則)に、生き別れとなった父親の面影を見出す。
ミチルに言い寄られ、男女の関係に陥った森田は彼女に翻弄されてゆく。ミチルは森田の子どもを妊娠したと思い込むほか、リストカットや森田の子どもを誘拐するなど、あの手この手で気を引こうとする。


本作は大仰なナレーションなどの演出で知られる大映ドラマ制作である。ミチルが嫉妬のあまり、壁を殴りつける時に当てられた「ミリミリ」とした効果音など、印象的なシーンが多く存在した。大映テレビ制作のストーカードラマは翌年にも、鈴木紗理奈、赤井英和主演で『略奪愛・アブない女』が放送されている。

はっきりと「NO」を言えず、男に優しく接してしまう女、その善意を愛情と勘違いしてしまう男。幼少期に親から愛されなかったゆえに、代償を求める女、一時の気の迷いで若い女に手を出してしまう男。2つのストーカードラマで描かれる人間像はごくありふれたものである。

誰しもストーカーとなりうる、あるいは被害を受ける可能性はある。渡部篤郎や雛形あきこのような美男美女にならストーカーされたい……そんな甘い妄想を打ち砕くように、きっちりとストーカーの恐ろしさを描き出したドラマであったといえるだろう。

※イメージ画像はamazonよりストーカー逃げきれぬ愛 VoL.2 [VHS]