日本の"野球"とアメリカの"ベースボール"では、競技こそは同じであるが、文化や考え方がかなり異なる。

例えば内野手の守備において。
日本では小学生の頃から「正面で捕ることが基本」と指導される。そのため、利き腕と反対側の打球に対しては、無理に回り込んでも正面で捕るのが一般的だ。もしも野球部の学生が、回り込まずに「逆シングル」で捕球した場合、きっと指導者からは「横着をするな」「楽をするな」という怒号が飛び交うことだろう。
しかしメジャーリーガーたちを見ていると、利き腕と反対側に飛んできた打球に対して、逆シングルで捕る姿が目立つ。

メジャーと違い、日本では「邪道」と思われている節がある逆シングルであるが、プロ野球で活躍した守備の名手たちはどのように捉えているのだろうか。
今回は名手として名を馳せた宮本慎也、井端弘和、仁志敏久の3人が明かした「逆シングル論」を著書などから紹介していこう。


「難しい打球を簡単に捕る」宮本慎也の守備論


ゴールデングラブ賞を遊撃手として6回、三塁手として4回獲得した元ヤクルトの宮本。2014に発売された『意識力』の中では、「実際の試合のなかでは、回り込んで捕るのがすべて正解とは限らない」としている。回り込んでセーフになるならば、当然逆シングルで捕るべきとする。
また宮本によると、逆シングルはグラブを引いて捕球するイメージが強いが、ショートバウンドで処理すると捕りやすいらしい。

しかし同書では、「難しい打球を簡単に捕る」ことの大切さについても言及。ヒット性の厳しい当たりであっても、内野手がしっかりと足を使って体の正面で捕ることにより、投手は打たれた感覚が残らない。

このような点も踏まえると、足をしっかり使うことは原則であり、何から何まで逆シングルで処理するのではない。
どうしても正面での捕球が無理な場合など、ケースバイケースで逆シングルを使うべきとしている。

投手の気持ちを考える? 宮本と井端の共通点


現在巨人でコーチを務める井端であるが、現役時代は6年連続でゴールデングラブ賞を獲得し、黄金時代の中日を支えた。2014年発売の『守備の力』によると、日本で逆シングルは手抜きという風潮もあるが、「状況次第では逆シングルでもまったく問題ない」と明かしている。
しかし井端の場合も、前述の宮本と同じく、投手に与える影響に配慮している点が興味深い。というもの、日本では逆シングル=楽なプレーという印象が根強いため、エラーした場合に不信感を与えてしまうというのだ。

また井端自身は、「自分の場合は子どものころからのスタイルが身についていて、あまり逆シングルの捕球はしない」という。

逆シングルを推奨する仁志敏久


宮本と井端と比べ、逆シングルを推奨しているのが、元巨人の仁志敏久だ(ゴールデングラブ賞4回獲得)。
改めて仁志の現役時代を振り返ると、確かに逆シングルで処理している姿が目立つ。

二宮清純氏の週刊メールマガジン「スポーツ深読み、裏読み、要読み!」で対談した際、仁志は次のように語っている。
「「打球の正面に入れ」と子供の頃から教わりますからね。確かにそれは基本ですが、自分の右側に打球が飛んだら、正面に回りこむより逆シングルのほうがいいですよ」

仁志も宮本と同じく、逆シングルでグラブを引いてしまうとエラーしやすいため、グラブを前に出して、グラブをひねってボールを掴むイメージで捕るのがコツだとしている。(「プロ野球 見えないファインプレー論」より)

以上を踏まえると、当たり前ではあるが、正面で捕ってセーフになるくらいなら逆シングルで処理すべきという点で共通の認識を持っている。あくまでも一番大事なことは「アウトにできるかどうか」だ。

しかし、状況に応じてすべきという宮本のような意見もあれば、「右側に飛んだら、逆シングルの方がよい」という仁志のような意見もあり、逆シングルを使うべき場面についての考えは様々である。


※イメージ画像はamazonより歩-私の生き方・考え方