90年代中期の少年ジャンプ漫画『BAKUDAN』をご記憶だろうか?
佐藤健と神木隆之介主演で映画にもなった『BAKUMAN』ではない。宮下あきら先生による(悪い意味で)伝説のボクシング漫画である。


得意の極道漫画+『あしたのジョー』で新境地を切り開く!?


『魁!!男塾』が大ヒットした宮下先生だったが、続く『瑪羅門(バラモン)の家族』は人気が低迷。あえなく打ち切りとなっている。
(後にあの神戸連続児童殺傷事件、いわゆる酒鬼薔薇事件で犯人がメッセージを引用したことで有名になったが)

師匠である本宮ひろ志先生が80年代中期に『ばくだん』と言うタイトルでコケたことがあったが、あえて同タイトルで挑んだのだから、連載に向けて強い意気込みはあったようだ。

日本一の極道を目指していた不良少年、瀑 僚介(通称バクダン)が地上げのために訪れたボクシングジムで才能を見出され、日本人初のヘビー級チャンピオンを目指す。

不良漫画がブームになっていた


連載が始まった94年は、ジャンプで不良漫画がブームになっていた。
『ろくでなしBLUES』『BOY』が安定した人気を誇り、『ジョジョの奇妙な冒険』も第4部で不良要素多めの展開だ。その流れに乗った形で、序盤は不良漫画……のさらに上を行く、お得意の昭和を感じる極道漫画となっている。

傷害=ハシカ、殺人未遂=キメゴロ、刑期=マンジュウ、麦飯=バクシャリなどなど、 “業界用語”も目白押し。
中2心はくすぐられまくりだ。
そこに、ボクシング漫画不朽の名作『あしたのジョー』のエッセンスを加えたのがこの『BAKUDAN』となる。

「ボクシングのことは知りません」開き直ったボクシング漫画は斬新だったが…


宮下先生は連載に当たって、ラスベガスに取材に行くなど気合十分で挑んだようだが、コミックス1巻の作者コメントで「俺は、ボクシングのことをあまり知りませんが」と堂々のカミングアウト。
ボクシングの細かいルールや戦術には一切目を向けず、ド迫力のみで押し切る試合描写に割り切っているのが実に宮下先生らしい。

しかし、バクダンがボクシングに取り組み始めるのは12話から。いかにも漫画的なスズメバチを使った特訓を経てプロテストに合格するのが16話。さぁ、これからと思った17話がまさかの最終回だから驚くばかり。

16話の扉には宮下先生も登場。バクダンの「なんだ この爆弾は不発弾てか」なんてイジりに対し、「じゃかあしい 爆弾は落ちるモンなんだ」とキレ気味に返す自虐的なコントになっているのもまた宮下先生らしさ全開なのである。

詰め込みまくった最終回、いきなり世界チャンピオンに!?


最終話はある意味最大の見どころ。なんと、その後のプロボクサーとしての展開を超圧縮してダイジェストで一気に駆け抜けたのだ。

プロデビューからの4戦を1コマずつ紹介し、宿命のライバルキャラも一撃でぶっ倒した1ページのみ。しかもライバルに対し、「覚えている読者の方はおられるだろうか!?」なんて注釈が入る始末。

日本王者に続いてはあっさりと世界戦に到達。試合に関する描写は一切ないままに、世界チャンピオンになったことだけが示唆されて終了してしまうんだから、圧巻である。

しかも、ジャンプ連載時の最終回ではラストの見開き2ページに宮下作品の歴代主要キャラが唐突に大集合。(しかも微妙にデザインが狂っている)
「宮下あきらはこれからも、本物の男達を描き続けます!!」のメッセージで豪快に締めくくっているんだからたまらない。嬉しいファンサービスではあるが、あまりのやりたい放題ぶりに当時は衝撃を受けたものである。

ちなみに、「次の作品で、また会おうぜ!!」のメッセージもあったが、その意気込みも虚しく、少年ジャンプではこれが最後の作品となってしまったのであった……。