
秋といえばお月見、中秋の名月である。
人類が月に着陸して37年、建設中の宇宙ステーションに常時人がいる時代であってもやはりお月見はなくてはならない日本の風物詩だ。
ところで、そんな現代のお月見にぴったりなものを見つけた。
それは月の土を使った世界初の陶器“月焼き”で作られた杯(さかずき)、その名もずばり「沙華月」(さかずき)。
と言ってもこの月焼きは宇宙飛行士が持ち帰った月の土“レゴリス”そのものを使ったのではなく、NASAが様々な月関連の実験に利用する目的で開発した標準的な月の土、擬似レゴリス「シミュラント」を使用したもの。
月の表面は地球のように堆積物がないので、月の土には約40億年以上も前の惑星ができた状態がそのまま残っているのだという。
擬似レゴリス「シミュラント」はその月の土、レゴリスと全く同じ成分で作られているのだ。
この擬似レゴリスを使った世界初の陶器作りをしているのは弱冠25歳の佐藤百合子さん。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)では宇宙関連の技術を民間に広く知ってもらうために様々なプロモート活動を行っているそうで、その一環に宇宙とアートという分野があるのだという。佐藤さんは学生時代に宇宙とアートの新たな関係を模索する活動を通じて擬似レゴリスを知り、未知の土を陶芸に取り入れることにしたのだそうだ。
佐藤さんによると、月の土は水を全く含まない微粒子状のセメント粉のような物質のためレゴリス(月の土)に水を加えて粘土のように扱うのは非常に困難なのだという。そのため、“月焼き”では粘土(陶土)とレゴリスの割合を6:4にしている。
月の誕生には星雲が集まりかたまってできた「兄弟説」、地球から飛び出した「親子説」、天体が地球の引力につかまり月となった「他人説」、惑星が衝突し、惑星と地球の破片から月が生まれた「衝突説」など諸説あるが正確にはわかっていない。「兄弟説」や「親子説」を考えれば、月の土と地球の土が合わさって初めて陶土になるというのはロマンを感じるではありませんか。
“月焼き”は月の土という特殊な土を使うため、製作過程ですぐに崩れてしまったり、上手く焼く過程までいっても焼き上がりがピザのようにつぶれてしまったりと、とにかく通常の焼き物では考えられない失敗もあるそうで、完成する割合は5割程度とのこと。
佐藤さんの“月焼き”の杯は、人工衛星の設計、製造を行っている株式会社アストロリサーチのインターネット販売部門、宇宙テレビでのみ販売されている。
中秋の名月に“月焼き”の杯で月を愛でつつ一献、というのは21世紀ならではのお月見といえそうです。
(こや)