先日、夜の新宿で、月に照らされた高層ビルの屋上に、モゾモゾと動く影を見た。
よく見ると、看板にのぼっている人の姿である。


「うわっ、怖い!」
と思いつつ、さらに近寄って見てみると、屋上の看板にハシゴをかけてのぼっている人、看板のてっぺんからライトで照らしている人など、数名がいて、瞬く間にスルスルと看板の絵がかわっていく。

月夜に浮かぶ小さな小さな人影が動くたび、新しい看板の「一部」が現れる。まるで絵本か何かを見ているような不思議な光景だ。

思えば、高層ビルの窓掃除を見る機会はあるけれど、屋上看板をかける作業は、あまり見る機会がない。いったいどんな作業をしているのか。

調べてみると、看板のデザイン・製作会社は数多あれど、実際に高所に取り付けまでできる会社は少ないよう。
その1つ、神奈川県厚木市の看板製作会社「有限会社 一四一」に話を聞いた。

「屋上看板のかけ方は、品物の重さや大きさなどによって違ってきます。屋上となると、たいてい大きなものになりますが、人力で屋上まで運べないようなものの場合はクレーンで吊るす方法が一般的ですね。その他には、看板を部分に分けて、搬入用のエレベーターに入る大きさに小さく作っておいて、屋上で組み立てるという方法もあります」

後者の場合、建物のエレベーターのサイズ等をあらかじめ調べたうえで、看板を製作するのだという。ちなみに、「運搬費+組み立て費」や「クレーン費用+設置費」など、どちらが安いかは一概に言えないそう。

ところで、私が見た、看板の「張り替え」は、どういったケースなのか。

「季節の商品・新商品や、デパートの懸垂幕などは定期的に張り替えを行います。昔あったタバコ産業などもそうですね。具体的には、看板上からたらしてる縄梯子状のものにのぼったり、ビルの窓ふきなどのブランコにのぼったりして行うんですよ」

張り替えの作業はどれくらいの人員・時間をかけて行うのだろうか。
「人数は……極端な話、一人でもできますよ(笑)。昼であればたいてい1日、夜であれば一晩で終わりますね。昼のほうが安全だし、照明などの経費もかからないので、できれば昼間に行いますが、建物や近隣の問題がある場合、夜に行うこともあります」

張り替えは実際にどのように行われるのか。

「基本的には表示された面の裏に両面テープのようなシール状ののりがついたものを使い、広げながら、裏紙をはがし、決まった場所にはっていきます。高所だから、大昔はタバコや映画のポスターの張り替えのとき、現場(屋上)でのりをはってやってましたからね(笑)」

命綱をするとはいえ、非常に危険な高所での作業に、「特に資格はない」というが、当然、経験は必要だ。
「高所は風も強いので、天候を含めて、安全第一でやっています。大変なのは……夜間作業の場合、エレベーターが止められてしまっていて、歩いてのぼるしかない場合かな(笑)」

当たり前の風景になっている「高層ビルの屋上看板」。知らないうちに、大変な作業が行われています。
(田幸和歌子)