以前、「食べたくなる名刺ケース」という記事をお送りしたことがある。お赤飯や日の丸弁当、ベーコンエッグのようなルックスをしておきながら、実は名刺入れだというあまりにもな珍品の紹介であった。


しかし、今度は違う。「~に見せかけながら」というブツではなく、本物。「Cassette Card Case」の井上良祐さんが手がけているのは、カセットテープをリサイクルして作った名刺入れ。「カセットの形を模して……」とかじゃなく、現物をそのまま使った逸品である。

もう、画像を見ていただいた方がわかりやすいだろう。これは、単にカセットテープを無造作にバラ撒いてる現場じゃない。
これこそ、話題の名刺入れ。
まず、カセットのネジを外して中身を取り除く。そして新しく作ったプラスチック製の中敷を敷き、端の4箇所に開閉用のマグネットを取り付ける。こんな風にして出来上がった、なつかしさ溢れる新アイテムがコレだ。

こんな独特の名刺入れを作ろうと思ったきっかけを、井上さんに直接伺った。
「市販の名刺入れを使っている中で、私自身、気にいる物がなかなかなかったんです。
そんな時に部屋を掃除していると、カセットテープを見つけ、試しに名刺と合わせてみたらサイズがピッタリでした。そうして、この名刺入れを作るようになりました」
井上さんの本業はインテリアデザイナー。しかし、自身の事務所を音楽プロダクションの中に間借りしている関係で、この名刺入れを音楽関係者に見せる機会も多い。結果、案の定『Cassette Card Case』は大好評だったのだ。

ただ、いくら人気だからってそんなにポンポン作れない。
「1つ作るのに、2時間半から3時間はかかります」(井上さん)
8月初旬の発売当初は40個をストックしておいたものの、サイト開設から2~3時間で完売してしまったという。
現在も、1日に3~4個のオーダーが寄せられるとのこと。

では、どんなオーダーの仕方ができるかについて。まず、専用サイトで販売されている名刺入れ(税込2,650~2,940円)をチョイスするのもいい。もしくは、自身の思い出のカセットテープを送付して、それを用いての製作を依頼するという方法も。はたまた「○○というメーカーの、あのカセットテープで作ってくれませんか?」と、井上さんにカセットテープを取り寄せてもらってのオーダーも可能である。
「主に音楽関係の知人のツテを辿って探しています。
もう聴かなくなったカセットでも捨てにくいようで、『リサイクルに使うのなら、是非使ってあげて!』と提供してくれる人が多いんです」(井上さん)

ただ、全てのカセットテープが名刺入れとして利用できるワケでもなく……。
「比較的、新しい型のカセットテープは本体が透明だったりするんですが、そういったタイプでの製作はお断りをさせていただいております。なぜかというと、作業工程の途中で中身をくり抜くので、透明のケースだと外からキズが見えてしまうんです」(井上さん)
スモークがかかった半透明の型だったら受ける場合もあるが、本当に適しているのは黒いボディのカセットテープ。80年代前半に最も流通したタイプである。

そんな『Cassette Card Case』を購入するのは、30代後半の男性が主のようだ。
「オーダーの際、奥様にもらったドライブのBGM用のカセットを送っていただいたことがあります。
今は再生する手段がないけど、思い出が詰まった物なので大事にとっておいたカセットだそうです。それを、こちらで名刺入れに生まれ変わらせたい……、というご注文でした」(井上さん)
他には、映画『ブレードランナー』のサントラカセットによる注文も印象深かったという。そんなカセットを用いると、ラベルに曲のタイトルが印刷された名刺入れが出来上がるのだ。まさに、思い出がいっぱい。完成するまでが、楽しみ過ぎるって!

よく、「レコードにはCDにない温かみがある」と語る風潮があるが、我々の世代(筆者は33歳)からすると、カセットテープに非常に深い思い入れがある。私の実家にも、聴かなくなったカセットテープが何十個もあるし。

もしかしたら、もう聴くことはないコレクションかもしれない。だけど、このサービスを利用すれば、2011年に再びカセットテープの出番が再びやって来るのだ。“なつかしさ”と“実用性”を兼ね備えた名刺入れである。
(寺西ジャジューカ)