子どもの頃、ピアノの入門編といえば、必ずといっていいほど使われた教材『バイエル』。

音楽をやったことのない人も、名前くらいは聞いたことがある存在だろう。それがいま、あまり使用されなくなっているのをご存知だろうか。

バイエルが使われなくなった理由


「指導者の間でも、バイエルはあまり好きじゃない人が多くて、最近は小品でテクニックを学べる『バーナム』などを曲集と併用で使うことが多いですね」
と言うのは、あるピアノの先生。
バイエルがあまり好かれなくなった理由は、何なのか。大学でもピアノの講師をしているピアノの先生に聞くと、こんな答えが。
「『バイエル』があまり使われなくなったのは、一言で言うと『おかたい』から。面白くないんですよ」
え!? そんな理由で!?
「昔は、つまらないと思っても習いに行く以上は練習するのが当たり前という意識がありましたよね? でも、今の子は面白いことしかやらないんです……」


バイエルは、右手と左手が案外ややこしく、忍耐力が要るもので、地道に練習しないと弾けないのだそうだ。
「今の子どもたちは、スイミングとかダンスとか、いろいろ忙しいですよね。そういった習い事が、週1回行って、その場でやるだけっていうのと同じ感覚で、ピアノもやる子が多いんです。ちょっとやればできちゃうことは得意だけど、地道な練習は苦手なんですよね」
確かに、自分も子どもの頃、「楽器は毎日練習するのが当たり前」と思っていて、暇なとき、楽しいこと・嫌なことがあったとき、いつでも楽器に向かったものだけど、我が子はというと、自分からはなかなか練習しない。とほほ。
そんな私たちの世代に対しても、もっと上の人たちは同じことを感じていたのかもしれないけれど……。

バイエルの代わりのピアノ教材は?


では、堅苦しいバイエルではなく、どんなものが教材に多く使われるのか。
「楽譜も可愛い絵のカラーのものとか、音符に『アリさん』とか歌詞がついてて、歌ったりするようなものが入りやすいようです」

ところで、バイエルには、次のような問題点を指摘する声もけっこうあるという。
「バイエルは最初の頃、ト音記号しか出てこないから、へ音記号に弱くなるといわれています。ひたすらト音記号で練習して、ト音記号が読めるようになった頃に、ヘ音記号が出てくると、それを負担に感じるんです。また、後半になるといろんな調が出てくるけど、その前に飽きちゃう子が多いんですよ」
そのため、今では、ト音記号とヘ音記号が最初から出てくる楽譜を用いることが多く、また、ピアノを弾く前にソルフェージュ(読譜)、手でリズムを打つなどを重点的にやることが多いのだとか。

バイエルの問題点については、音楽に携わる人の間で散々語られてきて、『改良版子どものためのバイエル』の類も多数出版されてきた。

ただし、どんな方法・教材であれ、練習してこそわかる「楽しみ」というものはあると個人的には思うのだけど……。でも、最近は音楽オモチャも流行ってることだし、世の中的には「練習せずにすぐ楽しめる」が主流なのかもしれません。
(田幸和歌子)