読む人を限定するコネタで恐縮ですが、韓国の書店にて、東村アキコ作の人気マンガ『ひまわりっ ~健一レジェンド~』の韓国語版を発見。同作品のファンである私は、喜びと不安の入り混じった気持ちで手に取ってしまった。


『モーニング』に連載され、日本でコアなファンを集めるこの作品。講談社とのライセンス契約を経て、8月1日現在、最新刊である10巻までの全巻が韓国で翻訳出版されている。
『ひまわりっ』が世界の人にも読まれるのはうれしい限りだが、ストーリーに散りばめられた懐かしネタは、外国で育った人にはちょっと難しいのでは。いや、マニア同士で元ネタを解読しながら読むのが面白いのかも。あれこれ考えながら、韓国語版を全巻一気読みしてみた。

当然といえば当然だが、「~の件について」といった独特な言い回しや、「大映ドラマ」「妖怪大戦争」といった単語が可能な限り忠実に翻訳されており、原作の笑いが蘇る。
日本語と韓国語の類似性による強みである。

韓国語ならではの翻訳として印象に残ったのが4巻、主人公アキコの恋のライバルである節子が親と話す時、あるいは健一2号に隠れて啖呵を切る時、「母ちゃんもうごんぼやらイモやら送ってくるんなっち言いよっじゃろうが」「よざらんこつしよっといいかげんくらわすぞぬしゃ」と、きつい方言でまくしたてるシーンである。
原作では宮崎弁が飛び出る機会の多いこのマンガ、韓国語版では基本的にほぼ標準語で翻訳されているのだが、この時の節子だけは別。ソウルでは聞いたことのない荒々しい方言がこれらのセリフに当てられており、いい味を出しているのだ。

いったいこれはどこの方言なのか? 韓国での出版元である鶴山(ハクサン)文化社に尋ねると、「翻訳家の話によれば、(釜山の周辺に当たる)慶尚道(キョンサンド)の方言です。聞こえが強く、怒る時のイメージに合っています」と教えてくれた。

また、同作品の気になる韓国での人気を聞くと、まだまだこれからだということ。『ひまわりっ』より、同社から既に翻訳出版されている東村作品『きせかえユカちゃん』(韓国版タイトル『ファッションガール・ユカ』)の方が読者は多いそう。「ユカが成長せず、ドタバタな毎日を過ごすというわかりやすいストーリーが、韓国の読者に受けるのかもしれません」。

韓国では日本のマンガが市民権を得ており、『ひまわりっ』のみならず、話題の新作からツボをついたマニアックな作品まで、様々なマンガが翻訳出版されている。
韓国文化コンテンツ振興会が発表した「マンガ産業統計年鑑2006」によると、韓国内のマンガ市場のうち、日本の漫画の占有率はなんと69%だった。書店に並ぶ10冊のうち、7冊は日本のマンガというわけだ(ソウル新聞)。


日本のBLものも少なからず出回っており、『ひまわりっ』内で語られることの多いBLマンガ事情も、一部のファンには既に納得できるだろう内容となっている。
さらに韓国はもともと『三国志』ファンも多く、このような土台がある国なら『ひまわりっ』が今後大ヒットする可能性はなきにしもあらず。その日を夢見て、今後も工作活動を続けたいものである。
(清水2000)