9月16日から行われてる特別国会。
議員が座っている前には、真新しい氏名標(黒い四角柱の名札)が立っている。


この氏名標、1936年に国会議事堂ができてからずっと、同じものが使われていることをご存知だろうか。文字を消しては書いてを繰り返し、70年以上前の木が今も使われている。

「国会の歴史をずーっと見てるのが氏名標。吉田茂や田中角栄、福田さんだ、大平さんだ、亡くなったり辞められたら名前を消して、それでまた新しい議員の名前が書かれて、議席のとこに立つ。氏名標によっては泣いてるものもあったり、もっとしっかりせい! っていうのもあるだろうね。口がないから言えないけどさ」

そう話すのは、戦後から氏名標作りを請け負っている、東京都台東区の漆器店「ぬしさ製作所」の竹俣社長。
選挙のたび、落選議員の名前は消され、漆が塗られ、白いエナメルの塗料で名前が書き入れられる。正確には、漆を何重も塗るのに時間がかかるから、名前が消された氏名標は国会に保管され、次回以降に使われる。今回書き入れられたのは、前回までのもの。

「1947年、戦後最初の衆議院では、焼け野原の中、書家さんたちが2人かな、書く場所がないからってことで、毛布と米を持って、国会議事堂の中で徹夜で書いてやっていたそうですよ。ウチがやり始めたのは、その後選挙で入れ替わったときで。漆器がないかということで、ウチにヒノキの板があったもんですから。
当時は本職ではない親父が書いてたけど」

今回は、9人の書家によって名前が入れられた。昔より議員の数が増えているうえ、選挙から開会までの期間が短いからだ。また、今に限らないけど、現職議員の氏名標も新しくすることがあるから作業量は膨らむ。

「今回は麻生さんのが傷ついてたから、新しいのに書き直してね。あと昔になるけど、机んとこにバタンバタンやってた人もいたじゃない。すると傷ついたりへこんだりするから、書き直すことが多かったよね。ハマコーさんなんかは、毎回書き直し」

ちなみに基準は不明ながら、次の選挙で受かるかもしれない議員の氏名標は、名前を消さずにそのまま保管されることもあるんだとか。だから今回も、元職の議員で保管されていたものをそのまま使う人もいるという。

最後に竹俣社長は、氏名標への思いを語ってくれた。

「国会の他の設備は新しくなったり、新規で作ったりとかあるけれど、氏名標だけはずっと使われ続けてる。だから議員でちゃらんぽらんなのがいると、このバカ! と思うこともあるよね。我々も氏名標をピシッと塗って書いて、かわいがってもらうんだって思う」

議員が変われば、真新しいものに生まれ変わる氏名標。

ただ重みだけは、書き込まれた名前の分だけ増し続けているようです。
(イチカワ)
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