別にそれはそれでいいんだけど、鏡張りのもともとの意図ってそのためじゃないはず。一体、鏡張りにしてる理由って何なんだろうか。
エスカレーター関連の業者の方が「基本的にはその建物のデザインとしか言いようがないんですが……」と前置きしたうえで、ひとつの理由を教えてくれた。
「エスカレーター全体を明るくするために、壁に鏡を使っていることがあります。例えば小売店でいうと、お客さんにエスカレーターを使ってもらい、多くの階を利用していただくことで、販売につながっていくことがあるようです」
乗る人が髪を整えるためとか、着ている服をチェックするためみたいな理由ってない?
「そうですね……もしかしたら意図している場所もあるかもしれませんが、特に聞いたことはないですね……」
この「明るく」っていう意図は、歴史的な経緯からもうなずける。
日本で初めてエスカレーターが常設されたのは、アメリカからの輸入品が使われた、1914年の東京・日本橋三越呉服店(現日本橋三越本店)。1928年からは国産エスカレーターが登場し、太平洋戦争のために多くが撤去される(モーターなどの部品が軍需用に使われたため)まで、エスカレーターは徐々に増え、進化を続けた。
戦後、エスカレーターの製造は再開。1953年ごろから、百貨店でエスカレーターの設置ブームが起こり、エスカレーターを取りつけるだけで売り上げが伸びたというほどだったという。そしてこのあたりから、エスカレーターは単に人を運ぶ機能だけではなく、店のインテリアの一部として、開放感あるデザインが求められるようになっていった。
結果、それまでの暗い金属板の欄干(ベルトとステップの間)は、電気を取り付けたり、透明な強化ガラスにするなどの方法で、開放的で明るくする工夫が施された。
「鏡張りにすれば、高級感を演出することができますし、狭い空間でお客さんの圧迫感をやわらげられます。鏡によって時間を短く感じられるかもしれません。さまざまな意図があると思いますよ」
鏡がもたらす、たくさんのメリット。
それを姿見として使うかどうかは、みなさんの自由です。
(イチカワ)