『赤い爪あと』(菊川近子/集英社)をご存知だろうか。

これは、昭和54年の『週刊マーガレット』37号から昭和55年6号まで、21回にわたって連載された恐怖マンガのこと。

先日、「コロコロトラウママンガ」を取り上げたが、ネット上の「トラウママンガ」などの話題・掲示板などでは、この『赤い爪あと』もたびたび取り上げられている名作だ。

私も小学生の頃、夢中になって読んだのだが、衝撃的だったのは、王道の少女漫画誌に唐突にあらわれた、美しく可憐な少女マンガの絵で描かれたホラー漫画だったということ。
しかも、それが「吸血鬼」に変身すると、この上なくおぞましい姿に変わってしまうこと!
その姿たるや、口が耳まで裂け&眼が激しく血走り・爛々と輝き、渦巻き状の斑点がガリガリの緑色の皮膚に浮かび上がり、爪も長く鋭く尖り……直視するのが恐ろしいほどだった。

これ、「吸血鬼モノ」であり、当時流行っていた「口裂け女の話?」と思いきや、変身の原因は「宇宙アメーバー」という斬新さ!
しかも、恐ろしいのは、宇宙アメーバーに襲われ、逃げ惑っていた人が、ひとたび自分の体内に入られると、人格も乗っ取られ、「フフフフ」と笑い、自分のクラスメイトや肉親等を次々に襲っていく「敵」側にまわってしまうということだ。
それも、宇宙アメーバーに血を吸われた人が変身してしまうわけではない。変身のきっかけは、お風呂に入っているときに宇宙アメーバーに口から入られたり、寝ている間に口から入られたり……ズルズルと静かに侵略されていくのが、むしろ恐怖心を増大させる。
このマンガのせいで、一時、風呂に入るのが怖かったり、寝るときに「仰向け」ができなくなってしまったということもあった。

また、怪物と化してしまった後は、「人間」だった頃の記憶・理性は全くない。家族でも親友でも、愛する人でも容赦なく襲っていく姿は、おさな心に絶望感を植えつけられた。
吸血鬼に襲われてミイラ化した人たちの遺体の残酷な描写、発見のされ方のパターンも、いちいち忘れられない強烈なものばかり……。

そして、極めつけは、救いようのないラスト。
2002年に文庫『恐怖短編傑作選』として復活したものの、残念ながら、現在はこちらも品切れ中。
ぜひ復刊してほしいものです。
(田幸和歌子)
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