学生時代は、ずっと接客のバイトをしていた。それはもう、大変でしたよ……。

コッチは誠意を持って対応しているつもりでも、何かの拍子にお客さんの逆鱗に触れてしまったり。「相手の立場に立って、ものを考える」ということが、どれだけ大変かが身に染みた数年間の社会勉強。要するに、自分に接客業は合わなかったのだ。

ところで、究極の接客業ってなんだろう? 一概に答えは出せないが、その中のひとつに「ホステス」があるように思える。
実は、自動車運転請負業を手がける「おかかえ運転手株式会社」(東京都新宿区)では、企業の役員送迎車用ドライバーとして“元ホステス”を積極的に募集しているらしいのだ。

この試みを始めたのは、今年の7月から。
求人募集を見て応募した金井久美子ドライバー(42歳)は、こう語る。
「最初はプライドが傷つくような気もして、すごく思い悩んだところもありました。でも、お客様に接しているうちに、“接客”の気持ちは同じだと気づき、迷いがふっ切れたんです」

金井さんは、二児の母。10年前から銀座のホステスとして働きながら、女手ひとつで子どもたちを育てていた。
しかし、ある日。不況のあおりを受けて、お店が倒産。
突然、働く場所を失ってしまった……。ネオン街への再就職も厳しく、途方に暮れていた金井さんが目にしたのは「女性ドライバー募集/元ホステスさん歓迎」の文字だった。

同社の森田副社長に、“元ホステス”を意識的に募集するようになったキッカケを伺ってみた。
「当社は日頃から『運転代行は接客業』と考え、買い物のお手伝いやお子さんの塾の送迎などの付加サービスも行ってきました。そんな時、ホステスさんの大量離職の話を聞き、こうした“接客のプロ”が運転をすれば究極のサービスが提供できるのでは、と考えたんです」

金井さんが初めて担当した仕事は、“妊婦さんの通院とお買い物”。小さな子供を抱える妊婦さんの自家用車を運転し、病院への送迎と買い物の手伝いをするというものだった。

「自分も出産経験があるので、心をこめて仕事ができました。やりがいのある仕事だと実感できたんです」(金井ドライバー)。

その後に舞い込んだのは、中小企業役員からの運転代行の依頼。
「お客様からは、『心配りが行き届いて、とてもくつろげる』と喜んでいただきました。また、『会話がうまいね』と誉めていただいたので、『銀座に勤めておりました』と申し上げたら、とても驚かれました」(金井ドライバー)
役員送迎車用ドライバーを務める前には、左ハンドル車の運転を練習。高級車に対応する技術も、しっかりと習得している。


また、同社では今後もサービスを強化していく考え。ゆくゆくは、ホームページ上で“元ホステス”ドライバーの趣味・年齢・特技などを紹介したプロフィールを公開。お客さんから指名してもらえるような形にしていきたいという。
また、現在は同社のホームページ上で金井ドライバーの仕事ぶりも動画で紹介されている。コレも、依頼する際の参考になるかもしれない。

“元ホステス”運転手に対する同社への反響も、すこぶる良い。
「くつろげる」「癒される」といった、いかにもな感想が寄せられている。
考えてみると、彼女らにとっても“運転手”は自身のスキルを発揮できる絶好の転職先だったのかもしれない。
(寺西ジャジューカ)