スイスの街中を練り動くトラム(路面電車)の中、席に着いた途端、女友だちがかばんのなかから“ある物”を取り出し、「失礼」と言って、欠けてしまった爪の手入れを始めた。“ある物”とは、スイス人なら誰でも持っているのではないかと思われる、スイスのアーミーナイフ、ツールナイフである。


赤色のボディーに、スイスの国旗をイメージする白色の十字マークが入っている、多機能な折りたたみ携帯ナイフは、あまりにも有名だろう。国民皆兵制をとるスイスで、ビクトリノックスと、もう一社が主にスイス軍の装備として製造を開始したのがスイスアーミーナイフの発祥であるが、スイスでは一般の人、筆者の女友だちのように、女性もグルーミング用に持ち歩いている人が多い。

日本ではどうだろう。筆者の女友だちと同じように、小型であっても、どこからどう見ても明らかにスイスアーミーナイフのフォルムであれば、欠けた爪の応急処置のためだとしても、かばんのなかから取り出して使うことをためらってしまうかもしれない。

警視庁公式ホームページには、軽犯罪法規制の中で、「刃体の長さが6cmを超えていなくても、小さいからといってツールナイフやいわゆる十徳ナイフなどを、アクセサリー感覚で持ち歩くことも、場合によっては取り締まりの対象になることがあります」と警告されている。なおさら抵抗を感じるかもしれない。


ところが2011年9月よりビクトリノックスは、127年間、ほぼ不変のデザインを守り続けてきたスイスアーミーナイフのフォルムを一新し、日本市場をターゲットとしたデザインの商品を、ワールドワイドに販売することになった。商品名は『TOMO』。日本語の「友」や「供」から名付けられ、「いつもそばにいて役立つ、良き友のような存在になりたい」という願いがこめられている。

デザインを手がけたのは、株式会社アビタックスのデザイナー、山口和馬氏。「今回のスイスアーミーナイフをデザインするに当たって行ったことは、カタチから“ナイフ”という記号を極力排除することでした。“ナイフ”が持つ男性的なイメージを払しょくして、女性にも、この便利な道具を日常的に使ってもらいたいと考えたからです。
それはまた、新しい“ナイフデザイン”の方向性を探る試みでもありました。そして、ほとんど何も記号性を持たない、長方形のモノとして、このデザインは完成しました」とコメントを寄せている。

この長方形のモノ、『TOMO』は、従来のスイスアーミーナイフの高い機能性を失わず、ナイフっぽくない商品である。長さは59mm、素材はABS樹脂、そして鮮やかな7色のカラーバリエーション。計算され、精錬されたデザインと色は、女性だけではない、本物志向の人の興味をそそるモノとなっている。

爪やすり、ネイルクリーナー、キーリングなど女性がよく使う機能と、果物ナイフ代わりになる小型ナイフ、園芸はさみとしても使えるはさみが搭載されている。
どれも日常的に使う機能だ。こんな便利な『TOMO』なので、自分のために、また彼女のためにプレゼントしてはいかがだろうか。

この長方形モノ、『TOMO』。日本の女性たちの間で、はやりそうな気配がする。
(W. Season/Studio woofoo)