初夏にシーズンをむかえるホタル。最近は都内で見られる場所も増えているが、目白の椿山荘もそのひとつ。


都会のホタルというと、イベントのときに成虫を放すところもあるが、椿山荘で見られるホタルは同施設で幼虫まで飼育し、沢に放流したホタルが成長したもので、まさに東京育ちのホタル。先日、地元の小学生を招いて、幼虫の放流式がおこなわれた。

ホタルは清らかな水辺にしか生息できず、都会で育つのはなかなか難しいといわれるが、椿山荘は秩父山系からの地下水が湧き出る緑豊かな好環境。それにくわえて、ゲンジボタルが自生・生息できるよう、庭園内を流れるせせらぎの水質・水量の改善や湧水の整備などの環境づくりに取り組んできた結果、最近では自生するホタルも増えているという。また、2002年には湧水を利用した本格的な飼育施設を設置。幼虫までの飼育もおこなっている。


放流式は今年で10年目。地元文京区小学校の児童たちが自然と触れ合う地域密着型の季節行事としてスタートしたものだという。

放流に先立ち、株式会社ヒューマンデザイン生物生態研究所の千葉豊所長が講演。意外に知られていないホタルの生態について説明してくれた。たとえばホタルが光る理由は、子孫を残すため、つまり異性へのアピールなのだそう。化学的にはルシフェラーゼという酵素の働きによるもので、触っても熱くないのが特徴。
オスもメスも光るが、性比はメス1匹にたいしてオス5匹の割合というから、オスにとっての競争率はかなり高い。

また、ホタルは卵から成虫になるまで約1年かかり、美しく光る成虫の時期はわずか2週間ほど。童謡『ほたるこい』にもあるように甘い水も好きらしく、糖蜜をふくんだ水を飲ませたら1週間ほど長生きしたというデータもあるそう。

講演のあとは、いざ放流場所へ。まずは子どもたちにホタルの幼虫とそのエサになるカワニナが入っている紙コップが手渡された。私自身もホタルの幼虫を見たのは初めてのこと。
見た目はお世辞にもかわいいとはいえないが、これがあの美しい光を放つようになるかと思うと、なんだか感慨深い。ホタルは自分が育った水のにおいを覚えていて、大人になったらそこで産卵をするそうだ。子どもたちも興味津々の様子で紙コップをのぞきこみ、大切そうな手つきで丁寧に沢に放流していた。

この日放流したホタルが飛び交うのは5月下旬~6月上旬ごろ。ホタルの幼虫は桜が散り、最初の雨が降った翌日に水のなかから陸へ移動し、その後、1日の平均気温の累積が500度になったころに飛ぶといわれている。実際、去年も累計が517.4度になった5月19日の夜に飛翔が初観測されたというから、なんとも不思議だ(※前日5/18の時点では497.8度)。


ちなみに椿山荘では、5月19日(土)~7月16日(月)には「ホタルの夕べ ディナービュッフェ」と題して、庭園のほたる観賞とビュッフェを楽しむプランも予定。幻想的に初夏の夜を彩るホタル。子どもたちが放流したホタルの成長が楽しみだ。
(古屋江美子)