甲子園で行われた阪神・巨人戦。試合の盛り上がりはもちろんだが、それ以上に球場でビールやチューハイを販売する「売り子」たちの笑顔に魅せられた。
売り子たちは、販売する時にお辞儀をして片手を挙げ、よく通る声で「ビールいかがですか」と声を張り上げているが、満面の笑みでとてもさわやか。

野球そっちのけで観察していると、彼女たちの腕につけられた腕章には何やら「1位」「2位」と、成績のようなものが付けられている。売り子はほとんどが女子大学生というが、会社で営業成績が社内に張り出されることはあっても、腕に成績が張り出されるってプレッシャーにはならないのだろうか?

阪神甲子園球場の担当牛尾さんによると、甲子園では1ゲームで平均200名が売り子として働く。給料は出勤したことに対する固定給+杯数ごとの歩合が基本だという。メーカーによるが各社ビールサーバー内の樽には約20杯分の生ビールが入り、売り子たちは試合中に何度も樽を入れ替えるそうだ。

腕章に書かれているのは、直近一カ月の販売数のエリア順位だ。
各売り子に目的意識を持たせることで販売数の向上、接客サービスの向上を目指しているという。「新人売り子は、腕章売り子を見ながら成長しますので全売り子の目標、お手本になるような接客態度、礼儀、明るく元気な販売ができるように教育しています」(牛尾さん)。彼女たちは樽を交換するときに、リアルタイムで自分の販売数が分かるという。腕章をプレッシャーととらえず自分で目標を立てて楽しんでいる人が多いというが、彼女たちの笑顔を見れば一目瞭然だ。

販売エリアは三塁側、外野などさまざま。販売場所によって売り上げが変わりそうな気もするがエリアの希望は聞いてもらえるのだろうか?「エリアの希望は受けていません。
自分の配属されたエリアに愛着を持ち、そのエリアのお客様を大切にし喜んでいただけるように考え、努力させることに主眼を置き教育しています。結果として順位が付いてくると考えています」

彼女たちは試合がスタートしてから終了するまで、声援に負けないよう力を緩めず声を出し、お客さんのビール購入の意思表示となる視線や挙げた手をすかさずキャッチ。野球ファンの観戦の妨げにならないようにと、ビールをそそぐときは、床にひざをついたり、申し訳なさそうにかがみ気味になったり。決められたマニュアルに沿うのはもちろんだが、観客とのコミュニケーションや空気を読む技も必要。劣勢チームの応援者には「まだまだ分かりませんよ。諦めないで一緒に応援しましょう!」と笑顔で一言。
去り際には「いつでも呼んでくださいね」とお辞儀する姿が印象的だった。

ピンクの衣装で可愛らしいけれど汗だくなので首にはタオルが巻かれ、階段の下から上まで素早く移動する。その一生懸命さ、ひたむきさに、つい「大変やね」と声をかけ、「次もあの子から買おう」と選手なみに応援したくなるのは当然のことかもしれない。実際、隣のおじさんが「さっきの子から買おう」とビールの購入を待っていたので理由を聞くと「汗だくで頑張っていたから」という。

ほかにも、どんな売り子からビールを購入したいか聞いたら「そりゃ笑顔や」「試合の状況を把握して、うまく声がけできる人」「腕章が付いてる子」などという答が返ってきた。売り子たちは給料に直結するのだから一生懸命になるのは当然のことかもしれないが、それ以上に彼女たちの表情から仲間たちと切磋琢磨し充実している様子がうかがえる。
目の前で頑張っている姿を見ているからこそ、彼女たちから元気をもらい応援したくなるのだ。

ベテランの売り子だとその日の天気や気温で売れるか売れないか分かるというが、売り子「あるある」はあるのだろうか?「7回にあるジェット風船前は、お客様の手が塞がっている状態なので、このタイミングで満タンの樽に交換する売り子は多いようです」(牛尾さん)。野球の試合が盛り上がれば観客の財布も緩みビールの売り上げも伸びるというから、選手たちにもますます頑張ってもらいたい。
(山下敦子)