長い人生の間には、アルバイトなども含めると、飲食店で一度は働いた経験がある人は多いのではないだろうか。

かくいう筆者も、学生時代、喫茶店や居酒屋などでアルバイトに励んだクチである。
チェーン店よりも個人経営の店で働くことが多かったが、そこで良く、てんやわんやになってしまったのが、伝票の処理だった。

ランチタイムやディナータイムなど、大勢の客でにぎわう時間帯になると、手書きの伝票がどんどん増えていく。それを置くキッチンのスペースは伝票であふれんばかりになり、注文の順番がわからなくなったり、ときには伝票がどこかへ飛んでいってしまったり…。紙の伝票処理がおぼつかなくて、お客さんに迷惑をかけてしまった経験は、枚挙にいとまがない。そして、バイト先をクビになった経験も……。

この伝票処理をスムーズにするのが、「POSシステム(販売時点情報管理)」だ。
ファミレスなどで注文をする際、店員さんがピッピッと操作するアレもPOSシステムの端末のひとつだが、その導入には、それなりの費用が必要になる。個人経営の飲食店などでは、躊躇してしまうところだろう。

紙の伝票だと、どうしても不便。POSシステムは便利だけど、お金がかかる。そんな悩みを解消するべく開発されたのが、飲食店専用クラウド型タブレットPOSレジ「でん票くん」だ。

今回、この「でん票くん」の開発に携わった、アロハス株式会社代表取締役の吉原亘さんと、株式会社グローカリズム代表取締役の川戸裕佑さんにお話をうかがった。


「『でん票くん』の誕生は、私が紙の伝票処理に泣かされたことがキッカケだったんです」と笑う吉原さん。「少し前まで、弊社では飲食店を経営していたのですが、お店を始めて最初のゴールデンウィークに、それはもうたくさんのお客さまにご来店いただきました。とてもありがたく、また嬉しかった反面、ヤマのように積まれた紙の伝票処理にヒイヒイ言うことになってしまい……。他の飲食店の皆さんも、こんなとてつもない苦労を日々されているのか、と……」

といって、伝票をおろそかに扱うわけにはいかない。この日はコーヒーがどれくらい注文されたのか。この季節のこの天気の日はどんな商品が売れたのか。
どういうお客さんが、どういう商品を好まれるのか…。これらの情報はすべて、店にとって貴重なデータである。そして、これらが記されている伝票とは、店にとってまさに宝物のようなものといえる。

それならば、この貴重な貴重な紙の伝票を、電子化できないだろうか。これができれば、伝票に関わる店側の作業負担は格段に軽減される。データとして確認もしやすくなるので、仕入れ量などの判断もしやすくなる。
飲食店経営を通じて「紙の伝票の電子化」というアイデアを思いついた吉原さんは、旧知の間柄だったエンジニアの川戸さんにこれを相談する。すると……。

「技術的には全然できるな、という印象でした」と川戸さん。その後、約半年間の開発期間をかけて、プロトタイプの「でん票くん」が誕生した。「ごはんは大盛りとか、少なめとか。ドリンクは食前とか、食後とか。
飲食店ならではの細かいメニューの取り方を仕様に落とし込む作業は、そうはいってもなかなか苦労しましたけどね(笑)」。ということは、その“飲食店ならではの細かいメニューの取り方”を、すでに「でん票くん」で実現できた、ということですね? 「そういうことです」

紙の伝票に限りなく近い形で、タブレットやスマートフォン、パソコンを使って伝票処理ができる「でん票くん」。アプリケーションではないので「この機種のスマホでないとダウンロードができない」「このOSのタブレットでないと使えない」ということが一切無いのも、ユーザーにとっては大きなメリットだ。「ネットの環境さえあれば、どなたでもお使いいただけます」と川戸さん。アプリではないので、ダウンロードごとの端末を揃える必要もない。また、店舗当たりの端末数の制限も、「でん票くん」では設けていないという。


そんなわけで、川戸さんのスマホを借りて、「でん票くん」を実際に試させてもらった。たとえば、「ホットコーヒー」のボタンをポチッと指で押してみる。すると、「砂糖不要」とか「ミルク2つ」といった、メニューに対する「オプション」が表示される。「サバ味噌定食」のボタンも指で押してみる。ポチッ。「味噌ダレ多め」「味噌汁ぬるめ」「漬け物不要」等々、なんとも細かい「オプション」を選ぶことができる。「オプションで対応できない注文がお客さまからあった場合は、『メモ』欄があるので、そこに直接書き込む形で処理できます」と吉原さんが教えてくれた。

なるほど、これはたしかに、紙の伝票に書き込むような感覚で使える。「飲食店を経営されている方には、ご高齢の方も多くいらっしゃいます。そこで、『でん票くん』は、老若男女誰にでも使いやすいシンプルさにこだわりました」と川戸さん。メニュー名や各メニューの「オプション」等々、伝票に記したい内容も、自由に、カンタンに設定できる。

また、ネットプリント対応レシートプリンター(スター精密株式会社製品)と接続することで、レシート印刷など、レジとして「でん票くん」を使うことも可能だ。

紙の伝票処理を長く続けてきて、それに慣れている人でも、非常に使いやすい「でん票くん」。売上げなどの数字も自動的にグラフで可視化してくれるため、飲食店にとっては、貴重なデータをよりわかりやすく分析できるようにもなる。今日の作業もラクにしてくれるし、将来への戦略立てもラクにしてくれる、というわけだ。

まさに、飲食店の伝票処理革命ともいえる「でん票くん」。こんなに便利なものですから、きっとお値段も高いんじゃないですか?

「月々1000円でお使いいただけます」と、吉原さん。え~~!? 1000円!? 安い!! 通販番組的な前フリをしておきながら、通販番組的なオドロキのリアクションはしたくないと思っていた身勝手な筆者だったが、これはオドロキ以外のなにものでもない。

「価格がネックになってしまうために、これまで紙の伝票処理を続けざるをえなかった飲食店さんを救いたい。ただただその思いで、料金を設定させていただきました」と吉原さんが話してくれた。

革命が、必ずしも世の人々を救うとは限らない。しかし、「でん票くん」による伝票処理の革命は、多くの飲食店の救いとなるはずだ。

最後、もう一回だけ、「でん票くん」を触らせてもらっていいですか? 指でポチッ。ポチポチッ。ポチッとな。すげ~。使いやすい~。こんな便利なものが、学生時代にバイトした飲食店にもあったらなあ…。あの頃、クビにならずに済んだかもなあ…。
(木村吉貴/ 編集プロダクション studio woofoo