『麻婆豆腐』の素といえば、子どもの頃から慣れ親しんだものを使っている人が多いのではなかろうか。実は麻婆豆腐の素は予想以上にたくさんの種類がある。
既に50種類以上を食べ比べ『この麻婆豆腐がすごい!』(版元ひとり)を発行した臼井総理、竹田あきらさんに麻婆豆腐について聞いてみた。
この麻婆豆腐の素がすごい~50種以上食べ比べた臼井氏・竹田氏に聞く

――麻婆豆腐の素は、どれも同じような味というイメージがあるんですが、味の違いはいかがですか?
竹田さん「とんでもないです! 食べ比べて分かったのですが、どれも違った味です」
臼井さん「もちろん味の好みは人それぞれなので、好きな商品となるといろいろ分かれるでしょうが」

そんなに違うものなのか。早速、お二人におすすめの『麻婆豆腐の素』を紹介していただいた。

●麻婆豆腐界のAKB48 『トップバリュ 麻婆豆腐の素』(販売者:イオン株式会社)
この麻婆豆腐の素がすごい~50種以上食べ比べた臼井氏・竹田氏に聞く

まず、お二人が口を揃えて言ったのは、トップバリュの麻婆豆腐は実に優等生だということ。
臼井さん「味が完全にマス(大多数の人)を向いてるんです」
竹田さん「マーケティングが非常にしっかりしていて、最大公約数的においしいものを突き止めています。だから、めちゃくちゃ美味しいかどうかは別としても、大抵の人が美味しいと思うところを狙っていると思います」
臼井さん「良くも悪くも『八方美人』なんだけど、これほどの八方美人をつくるのは並大抵の努力をしないとできないと思います。
天才というよりかは、秀才。アイドルグループでいえば、AKB48といったところだと思います」
辛いのに美味しい、豆腐ともご飯とも合う、家族で食べられるといった点をクリアするのは至難の業だ。しかも、二人が感心していたのは、味が変わる前(リニューアルする前)との劇的な変化だった。

竹田さん「二人とも、味もパッケージも変わる前のものを食べたことがあるから、前のバージョンと比べて、別モノのように味が変わったことに驚きました」
臼井さん「新たに辛口が加わったんですが、辛くてコクがあってうまいです。PB(プライベートブランド)というと安いだけというイメージがあったんですが、それが吹き飛びましたね。以前のバージョンも美味しかったけど、こちらはみんなが好きで、なおかつ本格的な味という感じです」

●箱の開けやすさにも感動
竹田さん「あと、パッケージがとにかく開けやすいんですよ。
たまに、ミシン目がついていても開けにくいパッケージがありますが、トップバリュはなめらかに開封できます」
※ちなみに、二人ともイオンの関係者でもなんでもなく、単に麻婆豆腐が好きというだけで、アツく語っております。

●陳さんが作った麻婆豆腐 『陳麻婆豆腐』(輸入:株式会社ヤマムロ)
この麻婆豆腐の素がすごい~50種以上食べ比べた臼井氏・竹田氏に聞く

いつも同じ麻婆豆腐の素を使っている方に、ぜひお勧めなのが『陳麻婆豆腐』。ここでいう陳さんとは陳建民さんでも陳健一さんでもなく陳劉さんのこと。19世紀中頃の清朝時代、四川省の成都に住んでいた陳さんは、料理が得意で、お店の両隣は豆腐屋と羊肉屋。陳さんのつくった豆腐料理は好評で、成都の名物料理として広まったという。陳さんの味を受け継いだお店は、成都で『陳麻婆豆腐』という屋号で現在も営業しており、日本にも支店がある。
その陳さんの味「元祖麻婆豆腐」を再現できるのが、『陳麻婆豆腐』なのだ。

竹田さん「麻婆豆腐とは何かの答えがここにあります。特筆すべきは粉山椒。『やっぱり本場は違うな』と思います」
臼井さん「本格中華クオリティです。香りは完全なる『現地の中華』なる感じ。非常にうまいです」

本場四川の舌を刺すような麻辣は、当時の日本人には受け入れられなかったかもしれない。
陳建民氏が作ったという、ちょっぴり辛くて、それでいてまろやかな麻婆豆腐がなければ、日本では今ほどの人気を確立できなかったのではないかと二人は語る。

●日本に麻婆豆腐を広めたのも“陳さん”
こちらの陳さんは、前述の陳建民さんのこと。「料理の鉄人」などで有名な料理人・陳建一さんの父である。日本で麻婆豆腐、エビチリ、回鍋肉、坦々麺などの四川料理を日本風にアレンジして広めたのは陳建民さんだと言われている。当時、日本では豆板醤も甜麺醤も手に入りにくかったため、豆板醤の代わりにこしょうを、甜麺醤の代わりに赤味噌を使用したそうだ。

●さらに、おすすめをもう一品
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『四川マーボーソース』(輸入:ユウキトレーディング株式会社)
竹田さん「一口食べたらパラダイスです。
完成度は四川料理の店で提供されているレベルです」
臼井さん「とにかくうまい! 舌が痺れる系の山椒の辛さはかなりくるけど、あとを引くタイプの辛さです。甘味・旨みもちゃんとあります」

子どもの頃から慣れ親しんでいる麻婆豆腐の素以外は、なかなか買うことがないかもしれない。
竹田さん「いつも使っているもの以外の素も使ってみることをお勧めします。そうすると、なぜ丸美屋が麻婆豆腐の素を作ったのかも分かってくると思います」
臼井さん「なかには、素を使わずに全てを自分で作る方も多いと思いますが、『素だから』とあなどらず、いろいろな試すと新たな発見につながると思いますよ」

●はじまりはいつも『丸美屋』から
この麻婆豆腐の素がすごい~50種以上食べ比べた臼井氏・竹田氏に聞く

ところで、お二人はたくさんの種類の麻婆豆腐を食べていて味が分からなくなることはないのだろうか。
竹田さん「連続で食べる時は、他の種類を食べる前にプレーンのヨーグルトドリンクを飲んでから次に移ります」
臼井さん「以前は水やお茶を飲んでいたけど、ヨーグルトの方が“リセット”できますから」
ドリンクヨーグルトを飲むのは、きちんと味を確かめるためのルールと化していた。

他にも、試食会の1品めに食べる麻婆豆腐は『丸美屋の麻婆豆腐の素』で作ったものと決めてある。

臼井さん「やっぱり『丸美屋の麻婆豆腐の素』はベンチマークですからね。大勢の人がイメージしている麻婆豆腐の味は『丸美屋』だと思うので、その味を確認するためにも、1品めは丸美屋です」

さなざまな種類を食べるのもひと苦労だが、それよりも、大変なのは臼井さんの奥様だ。
「麻婆豆腐は、全て妻が箱に書かれてある調理法に沿って作ってるのですが、それが大変で『もう、麻婆豆腐ばかり作るのを引退したい!!』と言ってます(苦笑)。ただ、このままいくと、妻は『世界で一番たくさんの種類の麻婆豆腐の素を使って作った人』にはなれると思います」
まだ食べていない麻婆豆腐の素もある。

臼井さん「最初は50種類食べたところで打ち止めにしようかと思っていましたが、探したらまだまだあったんです。だから“積ん読本”でも、“積みプラ”でもなく、ウチには“積み麻婆豆腐”があるんです。まだまだ食べないと」
奥様が世界一になる日も近い。いや、もう世界一かも。

●麻婆豆腐の離乳食も試食
この麻婆豆腐の素がすごい~50種以上食べ比べた臼井氏・竹田氏に聞く

なんと、離乳食の麻婆豆腐もあるという。
・レバー入り麻婆豆腐(和光堂、1歳から)
・鉄分たっぷり麻婆豆腐(明治、1歳から)
・豆腐とひき肉のあんかけ(明治、1歳から)

40年ぶりに離乳食を口にした二人。
臼井さん「さすがに、どれも味が薄いです(笑)。豆板醤を使っていないのに麻婆豆腐というのは、ちょっと不思議な気がします」
ちなみに、『レバー入り麻婆豆腐』は野菜の味がかなりするそうだ。明治は洋食っぽいとのこと。

おそらく読者の皆様の頭の中で飛び交っているであろう「なにも赤ちゃんのうちから、麻婆豆腐を食べさせなくても」というモヤモヤは、この際スルーしよう。

臼井さん「豆腐に栄養があって、柔らかく食べやすいということもありますが、きっと、それは幸せの味なんだと思います。家族で麻婆豆腐を楽しんでいる幸せな家庭の味なのではないか……と」

冒頭でも触れたように、麻婆豆腐の素は製造会社によって味が違うというから、ぜひ利き麻婆豆腐もやってみたいところ。でも、麻婆豆腐は自分たちで作らないと、人に任せてばかりでは怒られて激辛な文句を言われそうだ。
(取材・文/やきそばかおる)

●新刊『この麻婆豆腐がすごい! 3』完成。
この麻婆豆腐の素がすごい~50種以上食べ比べた臼井氏・竹田氏に聞く

『コミックマーケット87』(東京ビッグサイト)にて頒布されます。
●12月29日『民間防衛研究協同組合』東C-07b
●12月30日『評論貴族』東U-31bにて。
50種もの「麻婆豆腐の素」レビューにメーカー取材、日本の麻婆豆腐の歴史にまで斬り込んだ、まさに【ベストオブベスト麻婆豆腐の素本】!
COMIC ZIN秋葉原店、新宿店でも販売しています。COMIC ZINのサイトからも購入可能。