スタート地点までゆっくりと歩いたせいなのか、急激な空腹感に負けてコンビニエンスストアで肉まんを4個買ってしまったせいか、筆者の東京マラソンは15km地点で幕を閉じた。
今まで走ったなかで最も長い30km地点までは到達したかったのだが、まだまだフルマラソンに挑戦するのは早かったのだろう。だが、わずか1分の差で扉を閉ざされてしまった現実には、やはり悔しさがこみ上げてきた。
東京マラソンをリタイアしたランナーは、どのような扱いを受けるのか
遅刻組のスタート地点。左手には高級自動車の販売店、右手にはブッシュ元大統領も宿泊した高級ホテルが。

東京マラソンをリタイアしたランナーは、どのような扱いを受けるのか
遠くに見えるウェアラブルトマトの人。

今回の東京マラソンでは96.4%ものランナーが完走しているが、リタイア組となった3.6%はどのような形でレースを終えるのだろうか。リタイアについては過去にコネタでも取り上げられた事があったのだが、今回はランナー側からの視点で、この貴重な体験を語らせてもらおう。
東京マラソンをリタイアしたランナーは、どのような扱いを受けるのか
「閉鎖時刻11:47」と書かれた看板と、11:48:48を指す時計。筆者が止められた時は11:47:25だった。

「止まって止まって」


スタッフのおじさんが関門めがけて走ってくるランナーに対して次々と声をかける。繰り返しになるが、完走できなかった人は3.6%だけ。ましてや距離だけで言えば、ハーフマラソンにすら満たない地点なので、後ろを振り返ってみてもランナーどころか沿道で応援する人すらもまばらな状況だった。

ゼッケンに付けられていたバーコードを切り取られると、歩道側に寄せられて停車していた観光バスへと誘導された。もちろん、このバスはリタイアした場所から続きを走ってくれるわけではなく、ゴール地点である東京ビッグサイトへと直行する。足音も聞こえない折り返し地点を目に焼き付けながら、普段は東京の華やかな風景を案内している黄色いボディの大型車へと向かった。
東京マラソンをリタイアしたランナーは、どのような扱いを受けるのか
歩道側に停車しているバスへと向かう。コースから少し外れると、応援する人の姿は何処にもなかった。

リタイアしたランナーのなかでも最初の方に入ったため、バスの中には数名程度しかいなかったのだが、時間が経過するにつれて車内の人口密度は高くなっていく。しかし、バスの中はエンジン音とテレビの音が共鳴し続けるだけで、誰も声を発しようとしない。筆者は「疲れていたから」という理由で口を開くことは無かったが、悔しさで落ち込んでいる人もいたのかもしれない。

道半ばでバスの中へ吸い込まれた人もさまざまだ。海外からの参戦者はもちろん、東京マラソンの名物にもなっているコスプレ姿のランナーと思われる人もいた(コスプレ衣装と思われるパーツは足以外確認できず)。年配のランナーもちらほらと見かけたが、少なくとも筆者の乗車したバスの中では、男女問わず30代くらいまでの若い世代が目立っていた気がする。

テレビを食い入るように見るランナーたち


東京マラソンのコースとは逆の方向を走り始めたバスの中では、マラソンの様子を伝える番組が放送されていた。両手を上げてゴールする人、浅草付近を走る人などが次々と視界に入り、画面右上に表示されている完走したランナーの人数が、絶え間なくカウントされていく。窓からの風景が海岸沿いに変わっても、東京湾を眺める人はあまりおらず、多くの人が2つの画面をじっと見つめていた。60ポンドの重りを背負ってゴールした櫻井徹さんへのインタビューが始まると同時に、車窓には特徴的な逆三角形の建物が写し出される。最後の曲がり角では、40km以上を走ってきたとは思えないスピードでゴールへ向かうランナー達も目に留まったが、我々は彼らとは違うルートでビッグサイトの敷地内へと入っていった。
東京マラソンをリタイアしたランナーは、どのような扱いを受けるのか
音楽は楽しかったが、東京の街を楽しむ余裕は無かった

「お疲れ様でした。まもなく到着いたします」まるで観光名所巡りから帰ってきたかのようなアナウンスが行われ、黄色いバスは大きなシャッターの横に停車した。痛みを伴いながら階段を降りると、乗降口で参加賞と思われるバナナやポカリスエットが入った袋を手渡される。また、希望者には毛布も配られており、身体へのケアもしっかりと行われていた。

荷物を受け取るためにビッグサイトの中に入ると「完走おめでとうございます」と言いながら、拍手をするスタッフがあちこちに立っている。ハーフマラソンの距離すら走っていないのに、完走者と同じ声援を貰っていることに罪悪感を覚えつつ、自分の荷物が置かれているであろう場所へと向かった。
東京マラソンをリタイアしたランナーは、どのような扱いを受けるのか
完走した人も見ているであろう手荷物返却の案内図。ここに立っている看板はリタイアした人しか見られないため、ある意味レアな看板だ。

完走組とリタイア組の違うところとは


荷物が渡された後に通されるルートは、完走した人たちと何も違わない。着替えるスペースも一緒。高リコピンのトマトも無料で食べられるし、顔にドメインがペイントされた渡辺麻友さんたちの写真を見ながらマッサージも受けられる。走ったばかりの体に詰め込むのは厳しいが、試供品のビールも無料でゲットできた。
東京マラソンをリタイアしたランナーは、どのような扱いを受けるのか
「参加賞」としてもらったポカリスエットやカロリーメイトなど。バナナはとても甘かった。

東京マラソンをリタイアしたランナーは、どのような扱いを受けるのか
カゴメのブースで配られていた高リコピントマト。とても甘かった。

だが、リタイアした人たちには、完走記念に渡されるメダルが貰えない。完走の記念にと行われる記念撮影も参加できない。ランナーだけが入れるエリアを後にしてから気がついたのだが、バスタオルほどの大きさがある記念のタオルも手にしていなかった。おそらくゴール地点でスタッフから配られているのだろう。

42.195kmを走りきったという現実に比べれば微々たるものだが、入手できなかったものはたくさんあるようだ。
今思い返して見ると、完走できなかった原因には、練習を3000m、5000m、7000mの3種類しか行わなかったことも影響しているのだろうなと思った。50mは11.75秒なのに10000mは43分という妙な記録を持っていた頃に戻るのは難しいかもしれないが、いつかまた挑戦する日が来ることを願いつつ、公園内の走る距離を増やしていこうと思う。