北海道帯広市が主催する「ばんえい競馬」は、競走馬がそりを引きながらゴールを目指すレースである。平均1トンを超える「ばん馬」が砂煙を上げながら力強くそりを引っ張るという形態は他の競馬では見られない世界唯一の競馬でもある。
また、北海道開拓期の文化を今に伝える伝統的な催しでもあるのだが、その道のりは順風満帆と言えるものではなかった。

明治から続く伝統、しかし消滅の危機


消滅危機にあった世界唯一の「ばんえい競馬」を救ったネット投票
写真提供:帯広市ばんえい振興室

ばんえい競馬の起源は、北海道を開拓していた際に各地で行われていた馬と馬との力比べと言われている。その後、明治末頃に現在のようなそりを引っ張る競争方式となり、大正時代には神社の境内や五稜郭公園の敷地内などでも競争が行われていた。その後1946年に法律によってばんえい競馬は公営競技とされ、帯広・岩見沢・旭川・北見の4つの競馬場で開かれ人気を博すようになった。

しかし、いつの頃からか人気に陰りが現れ、ついには年間30億円とも言われる膨大な赤字を抱え、2006年には岩見沢・旭川・北見の3つの競馬場でばんえい競馬の開催が終了。地元財政やソフトバンクグループのバックアップもあり、帯広競馬場での単独開催という形で存続となったが、このままではばんえい競馬の消滅は時間の問題と思われていた。

インターネットが逆転の一手に


窮地に陥ったばんえい競馬。この状況を打開するために主催の帯広市は2007年からナイター競馬の実施と、現地に行かなくても自宅で馬券投票ができるインターネット投票を取り入れた。
するとこれが徐々に効果を発揮。それまで減少の一途を辿っていた年間売上額が2012年度を境に前年比増に転換。加えて、北海道の農業高校を舞台にした人気漫画『銀の匙』にばんえい競馬が登場したこともあって、帯広競馬場に来場するファンが増加。こうしてばんえい競馬は消滅の危機を乗り越える形となった。

ファンとの距離の近さも大きな魅力


その後も好調な売上を続けるばんえい競馬。その一番の魅力はやはりファンとの距離の近さだろう。
ばんえい競馬で用いられる一直線のコースは、馬の息遣いや舞い上がる砂塵をその身で体感することができるほど、すぐ近くまで行くことができる。他の競馬では立ち入ることができないエリアでレースを楽しむことができるのはばんえい競馬ならでは。また、1口1万円からの協賛金を支払うレース協賛によって、一般のレースを自らの冠レースにすることも可能になっている。記念や思い出、他にも様々な思いをレース名にできるとあって、この試みは人気を博している。

もちろん正式なタイトルレースも行われている。今回放送する「第42回ばんえい菊花賞」は1975年に創設され、ばん馬では若手に分類される3歳馬の三冠レースの内の1つとされている立派なタイトル。
次世代の有力馬が顔を揃えるレースとあって、他の主要レースにも引けを取らない激しい駆け引きが展開される。その勝負の結末を、ぜひその目で見届けてみてほしい。
Writer:柴田雅人

提供元:ヨムミル!ONLINE.