かつてのCMソングにもあったように、野球をやる者にとっては、永遠の憧れ、「エースで4番」。

少年野球では、「いちばん上手な選手が投手に選ばれ、打撃センスも抜群」というのは、お約束でもある。

実際、桑田真澄は、清原がチームメイトにいたため、4番ではなかったものの、他のチームにいたら間違いなく4番バッターだったはずだし、元横浜ベイスターズの野村弘樹(高校時代は5番バッター)はじめ、PL学園出身投手の打撃力は、よく知られているところ。
また、200勝を自らの本塁打で祝った工藤公康、川上憲伸(エースで4番)、松坂大輔(エースで4番)、中田翔(エースで4番)など、名投手が打撃のセンスも良いというのは、よくあることではある。

だが、甲子園夏の大会を見ていると、そんな「エースで4番」が思ったよりも少ない気が……。
ためしに、『週刊朝日増刊 2008甲子園』で調べてみると、「エース」の打順は以下の通りだった。

1番 0人/2番 2人/3番 2人/4番 3人(常総学院、千葉経大付属、日田林工)/5番 5人/6番 7人/7番 6人/8番 13人/9番 18人

甲子園に出場するような学校においては、「エースで4番」は、なんとたった3校だけ。逆に、圧倒的に多いのは、9番だった。

しかも、調べているときに気になったのは、登板回数で見ると、「エース」がはっきりわからない学校が多いこと。2~3人くらいの投手が、ほぼ均等に投げている学校が多いのだ。

もちろん昔から、投手を2~3枚擁している強豪校はあった。たとえば、PL学園など「ようやくエースを引きずりおろしたと思ったら、2番手もめちゃくちゃスゲエ!」みたいな学校には、ミラクルで勝ち上がった田舎の公立校などは、絶望感に近いものを味わわされていたはずだ。
それでも、高校野球では「すごい投手が一人いると、それなりのところまで勝ちあがれる」といわれていたように、「エースで4番」的な選手の存在が大きかったように思うけど……。
いま、「エースで4番」は減っているのだろうか。


長年高校野球を取材している、ある記者に聞いてみたところ、こんな回答があった。
「『エースで4番』は確かに近年、減ってきている傾向はありますね。理由は、投手の負担を減らそうという考え方が定着してきているから。大リーグが入ってきてから、『肩は消耗品』という考え方が一般的になっていて、いまでは、高校野球でも『投手一人では勝ち抜けない、3人ぐらいいないと厳しい』といわれていますから」
ただし、「かつてはプロ入りするような投手はたいてい4番を打っていましたよ」とも言う。
「基礎体力が落ちていることもあるとは思いますよ。エースで4番は間違いなく減っているけど、地方大会を調べてもらえば、今でも山ほどいます。
そんななか、甲子園にあがってこられるような学校は、エースの負担を減らしている、そういった態勢をきちんととれている学校が多いんだと思いますよ」

かつては30勝もした権藤博、シーズン42勝をマークした稲尾和久など、今では考えられない力を持つ投手たちが存在したが、肩の故障で早期引退したケースは少なくない。

「エースで4番」が減っていることは、現実的に長い目で見ると、野球界にとっては良いことなのでしょうか。
(田幸和歌子)