今、裸芸人と言われてぱっと頭に思い浮かぶのは、とにかく明るい安村でしょう。今後は、股間をお盆で隠すコント「丸腰刑事」で注目を集めるアキラ100%がブレイクしそうな予感です。

過去を振り返れば、井出らっきょ、ダチョウ倶楽部、小島よしおなど、いつの時代も裸芸を売りにするタレントはいるものです。しかし、本当の意味で「丸腰」になり、むき出しの身を世間に晒したのは、彼くらいではないでしょうか。そう。笑福亭鶴瓶、その人です。

笑福亭鶴瓶が起こした芸能史に残る事件


1972年のデビュー以来、40年以上芸能界の最前線で活躍するコメディアン・笑福亭鶴瓶。独特の語り口調から繰り出される話芸は、客を笑わすも泣かすも自由自在。しかも生まれ持った器用さから、役者をやらせても一線級です。
吉永小百合の弟役を務めた山田洋次監督の『おとうと』をはじめ、数々の日本映画で味わい深い演技を披露しています。
もはや手に入れたいものなどないような華々しい経歴の持ち主ですが、持って生まれた芸人気質・サービス精神からなのでしょう。かつて、芸能史に残る事件を巻き起こし、裸芸人としての勇名を馳せることとなったのです。

生放送中に泥酔 自らズリおろしたパンツ


それは2003年の『FNS27時間テレビ みんなのうた』でのこと。鶴瓶はココリコの2人と共に、長崎県の離島・飛島から中継出演していました。NHKの「家族に乾杯」でも見られる、生まれ持った人懐っこい人柄からか、すぐに島民と打ち解けたこの大物芸人は、生放送開始直後から地元民が集う酒宴に参加。しこたま酒をあおります。

そこから夜も更け、番組は名物コーナー「今夜も眠れない」に突入。例年通り、さんま・中居が与太話に華を咲かせ、宴もたけなわというころ、再び飛島の中継に移ります。

軽い酩酊状態だったと思われる鶴瓶は既に熟睡。そこでスタジオの2人は、ココリコに彼を起こすようけしかけます。最初、水をかけて飛び起きた際には、まだ黒のビキニパンツを履いていたのですが、問題は2回目。これが良くなかった。

夏を迎えた九州の夜。蒸し暑さのためか、あろうことかパンツを寝ながらずりおろしていたのです。そのため布団から出た時には、男性器が露わに……。即座に中継は切られ、映像はスタジオへスイッチ。
さすがに百戦錬磨のさんま・中居も「これやばくない?」と言った表情で、しきりにスタッフの方へ眼をやっていたのが印象的でした。

シレっと『いいとも!』に登場した笑福亭鶴瓶


27時間テレビ放送終了後も、世間はこの放送事故の話題で持ち切りに。そして週があけて4日目。
『笑っていいとも!』の木曜日を迎えます。そう、鶴瓶がかつて“不動のレギュラー”として君臨していた曜日です。事件以来はじめての生放送であり、日本中誰しもが「あの件」について本人の口から語られる弁明、もしくは、共演者からのイジリを期待していました。

昼12時。「お昼休みはウキウキウォッチング~♪」の出囃子と共に、番組はスタート。MCのタモリがスタジオに登場し、アルタの客たちは沸きあがります。
そして、待ちに待った瞬間。タモさんの「木曜レギュラー陣でーす」の乾いた呼びかけと共に、鶴瓶が登場しました。
アルタの観衆は先ほどよりも高いボルテージで、見世物小屋にて異質な何か見たかのような好奇のニュアンスを含んだ歓声にあげました。会場が異様な盛り上がりを見せる中、当の鶴瓶はどうしていたのか? それが、すっとぼけた顔で棒立ちしているのです。まるで「何かあったん?」とでも言いたそうな表情で。

笑福亭鶴瓶 そして伝説へ…


他のレギュラー陣も、おそらく上層部から事前注意が入ったためか、タモリ含め、だれも突っ込みません。
そんな中、鶴瓶は呆けた表情で立っています。コソコソ隠れるような真似も、「やっちゃいました、でへへ…」みたいなはにかんだ照れ笑いもせずに……。
この絵面そのものがギャグ。何も語らず、余計な動きをせず、ただそこにいるだけで、面白い。これぞ一流の芸人です。

実は若手のころにも何度か「前科」があり、その都度、謹慎・出禁などの処分を喰らってきた鶴瓶。地位も名誉も手に入れ、老齢に達してもなお、誰よりも体を張るその姿が、尊敬の念を集めたのは言うまでもありません。ナインティナインをはじめとする後輩芸人たちからは「大物なのに未だにあんなことができるなんて凄い!」と褒め称えられ、騒動はいつしか伝説へと昇華していったのです。

(こじへい)
SWITCH vol.27 No.7(スイッチ2009年7月号)特集:笑福亭鶴瓶[鶴瓶になった男の物語]