筋ジストロフィーは、筋肉が徐々に壊死し、筋肉の萎縮と筋力低下が進行していく遺伝性筋疾患だ。特にデュシェンヌ型筋ジストロフィーは、もっとも発症率が高く、男児約3500人に1人の割合で発症するという。

その経過は2~5歳ごろに歩き難いことで診断され、10歳代前半に車いす生活となり、20~30歳代で呼吸不全になる。しかし、現在は有効な治療方法が存在せず、新たな治療方法の開発が強く期待されている。


 今回、慶應義塾大学医学部の湯浅慎介専任講師、林地のぞみ(大学院医学研究科博士課程在籍)、福田恵一教授らは、国立精神・神経医療研究センターの武田伸一トランスレーショナル・メディカルセンター長兼遺伝子疾患治療研究部長との共同研究により、このデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対して効果が期待できる治療候補薬を発見した。


 同研究グループは、まず、筋肉の筋衛星細胞が活性化すると、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体が発現することを見出した。そして、このG-CSFを筋ジストロフィーモデルマウスへ定期的に投与することにより、筋肉の長期にわたる再生促進が得られ、生存期間の延長につながることを見出した。


 具体的には、G-CSFの筋衛星細胞に対する増殖効果より、筋ジストロフィーへの治療効果があるのではないかと考え、筋ジストロフィーモデルマウスを用いた検討を行った。

G-CSFが筋ジストロフィーにおいて必要な因子かどうかを検討するために、G-CSF受容体欠損マウスと筋ジストロフィーモデルマウスを用いた検討を行った。


 mdxマウスはヒトデュシェンヌ型筋ジストロフィーと同様にジストロフィン遺伝子に変異があるマウスだが、軽度の筋傷害を認めるのみであり生存期間には問題ないことが知られている。また G-CSF受容体遺伝子を半分欠失させた G-CSF受容体ヘテロ欠損マウスも生存期間には影響しない。しかし mdx/G-CSF受容体ヘテロ欠損マウスは、筋再生が顕著に低下し致死的となることが判明した。このことから、筋ジストロフィーモデルマウスの筋再生と生存維持において、十分量のG-CSF が必要であることが判明したという。


 また、G-CSFの筋ジストロフィーへの治療効果を確認するために、より重症の筋ジストロフィーモデルマウスを用いた検討を行った。

ジストロフィン遺伝子と似た遺伝子であるユートロフィン遺伝子というものがあり、ジストロフィン遺伝子と同様に骨格細胞の骨格を維持するために重要な働きをしている。ジストロフィン・ユートロフィン二重欠損マウスは、ヒトデュシェンヌ型筋ジストロフィーに類似して、筋傷害が強く致死的となる。同マウスに対して3週齢からG-CSFを注射すると生存期間が著明に延長することが判明した。


 さらに100日齢の同マウスは筋傷害がかなり進行した状態にあるが、同時期よりG-CSFを1週間に2回注射すると生存期間が延長することを見出した。


 G-CSFは薬剤として既に広く用いられており、その副作用や安全性は十分に理解されている。特異的な治療方法が開発されていない重症筋ジストロフィーへ、定期的にG-CSFを注射することによって筋力回復と生存期間の延長が得られれば、革新的な治療法になる可能性があり、今後の治療薬の開発につながると期待されるとしている。

(編集担当:慶尾六郎)