ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第54回 『ゴールデンカムイ』よんだ今回のお題は覚悟してたんですよね。あれがくるかと思って。
『ゴールデンカムイ』のいいところって無駄な掘り下げがないとこだと思うんですよね。物語はエンターテイメントの基本に忠実な「お宝を奪い合う」、舞台は「明治の北海道」、ほんとにこれだけの縛りで成り立ってる、これがまずありきの作品なんですよ。アイヌ民族に対して過剰な意味付けがされてるわけでもなく、人間の業がとかそんな話でもない。北海道といえば思いつく、アイヌ文化、新撰組、屯田兵、網走刑務所、三毛別羆事件といったものを片っ端からぶち込んできてるだけで、そこには特に意味付けはされてないのです。
あと、引用の豪快さも魅力の一つですよね。脱獄王・白鳥由栄、木村政彦の師匠・牛島辰熊という、やや後世に活躍した人物をモデルにしたキャラを時代を越えてぶち込んできたり、江渡貝弥作というヒッチコックの『サイコ』のモデル・エド・ゲインがモチーフでしかない人物をぶち込んできたり。家永カノは、現実に殺人ホテルを経営してた医師免許をもつ殺人鬼・H・H・ホームズ(家永の家はホームズのホームから?)と若返りのために処女の血の風呂に入っていたと言われる血の伯爵夫人・エリゼベート・バートリのキメラに思えますし、辺見和雄は放浪癖のあるシリアルキラーだし辺見という姓はヘンリー・ルーカスのヘンリーから来てるのかも。33人殺しの津山という小ネタもありました。野田サトル先生、シリアルキラー・ネタお好きですな。
それと、土方歳三(及び永倉新八)を除けば、実在の人物が出てこないというのは何なんでしょう。土方歳三という人は織田信長ほどでないにしろ、実在の人物でありながら、フィクション内でただのサディストにされたり、BL世界の住人にされたり、異界の化け物にされたり、良いように使われてるキャラですので、今さらどんな役柄でも大丈夫なのかもしれませんが、なにぶん近過去が舞台ですし、遺族が存命の場合も多いので、色々考慮すると実在の人物は使いにくいということで今後も登場してこない可能性が。まあ、自分の先祖が悪党・変態・キ◯ガイ・化物扱いされたら、ふつう嫌ですもんね。本当の子孫かどうかはわかりませんが、数多のフィクション内で先祖を常にトップクラスで酷いキャラ造形をされながらも怒らない織田信成という人は本当に心が広い人なのかもしれません…。
まあ、色々と駄文を書き連ねてきましたが、私はこの作品を明治の北海道に酷似した異世界を舞台にしたファンタジー活劇だと思っており、シリアルキラーと山田風太郎が好きな自分にとっては自分の好物のいいとこどりだけで出来た作品なのです。それはさておき、『ゴールデンカムイ』は本当にエンタメの王道で単純明快な面白い作品なので読んでみるといいと思います。
<隔週金曜連載>
おすすめコミックス:ゴールデンカムイ(6)/野田サトル(集英社)
http://books.rakuten.co.jp/rb/13770596/
【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。
おすすめ書籍:「日本人の99.9%はバカ」/ロマン優光(コア新書)
http://books.rakuten.co.jp/rb/13104590/
おすすめCD:『蠅の王、ソドムの市、その他全て』/PUNKUBOI(Less Than TV)
http://books.rakuten.co.jp/rb/13292302/
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